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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
七話 呼ばざる者、応える者
20/39

5

「おし、やるか」

演習場に空いた穴から入り込みながら、ラブレー教官は腕まくりする。

教官の計画はこうだ。まず教官が完成させた分の人形達にグラウンドへと出陣させる。新たな敵の大群に向こうの皆は大混乱、そして巨人人形への意識は一瞬は逸れる。更に、既にグラウンドへと戻って貰ったヘクターには、それを増長させるように煽ってもらう。そしてその間にカーチャが完成させた人形達、すなわち「隠密部隊」にわたしを警護させながら巨人人形の元へ向かう、というものだ。

「本当にそんなんで、わたしが隠れるんですかね」

わたしはカーチャに指示する教官に尋ねた。

「大丈夫だろ。こんだけ存在感薄い上に、混乱の中に便乗するんだし」

教官は暢気に答えながら、カーチャの完成させた人形達をお互いに肩車させる。三体が一組になり、トーテムポール状態となった隠密部隊達。こうしないと周りを囲んでもわたしが隠れないからなのだが、一番下にいる子の膝がガクガクと震えていたりするのが不安でしょうがない。

「どうです?」

試しに隠密部隊の中心に隠れたわたしは二人に聞いてみる。

「おおー」

「思った以上に存在感無いぜ」

とりあえず一安心というところか。カーチャは複雑な表情だが。

「これでわたしが人形に大人しくするよう命令を出せばいいんですよね」

教官は頷く。

「その後は見つかる前にさっさと帰った方がいいぞ。後は俺がごまかしておく」

初めて見せるラブレー教官の頼もしげな表情に、わたしは全く信用せずに笑顔で応えた。



「行け!」

自らの完成品を送り出すラブレー教官の声が響く。何十という人形が声に応え、跳ねるように飛び出していった。

「皆、リジアをお願いね」

カーチャが言うとわたしを取り囲む隠密部隊がこくこくと頷く。この子達とももうすぐお別れになってしまうかもしれないと思うと寂しい気もする。見た目はラブレー教官のミニチュアだというのに複雑だが、わたしは意を決してグラウンドへ飛び出した。慎重に、だが素早く歩を進める。

「な、なんだこいつら!?」

誰かの声に心臓が跳ね上がるが、人形の隙間から見える光景はファイタークラスの面々がラブレー教官作の人形達に翻弄される姿だった。すばしっこい動きに戸惑っている段階のようだ。おちょくるようにお尻を叩いたり、アカンベーと舌出す動きは上手いこと皆の目を奪っていた。とりあえずこちらに気付いた様子はない。ほっと胸を撫で下ろし、先へ進む。

グラウンドの隅を走って相変わらずじたばたと暴れる巨人へ急ぐわたしと隠密部隊達。膝が震える一番下の人形にもう少しだからがんばれ!と言いたくなった。表情は無いが必死さは伝わってくるのだ。しかし巨人人形の相手をしている教官、生徒は少なからずいる。このまま突っ込んで行って、本当に大丈夫なのか?と背中に冷汗が溜まる。その時、石を金属で削るようなざらつく音が響いた。

「こいつらには剣が効くぞ!」

ヘクターだ。彼に腕を切り落とされた人形が一瞬動きを止めるが、再び駆け回り始める。今の出来事が上手いこといったようで巨人人形の周りにいた戦士達の目線が一瞬、グラウンドの中央へと逸れた。ヘクターに感謝しつつ巨人人形の背中側へと周り込んだ。そのまま体育祭用の物だろう設置前のテントの骨組みが横になっている影に隠れる。よし、これであいつに命令して動きを止めれば、と考えたところでわたしは動きをはた、と止めた。

ど、どうやって?大声で喚けば隠れてる意味無いじゃん!かといって小声で囁いたところで意味無いだろうし……。耳が耳の役割をしているかどうかイマイチ分からないが、頭の位置が校舎の3階に届いてるあいつには並の声じゃ聞こえないだろう。

自分の詰めの甘さと、ラブレー教官への怒りで混乱したわたしは、

(や、やめなさい!こら!やめろー!)

意味が無いと判りつつも、声にならない声で喚き続けた。自分でも何やってるんだろ、と虚しくなってくる。すると、ピタッと動きを止めた巨人人形。余りにも突然のことに暫し思考が止まってしまった。人形を相手にしていた人々も同じだったようで、急激に静かになる。

「う、動かないな」

教官の一人の声に、わたしは漸く我に返る。ピクリとも動かない巨人人形をわたしはあらためて見た。これって凄く耳が良いんじゃないの?というより演習場の壁を破壊した力といい、ものすごく性能が良いんでは。しかし感心している場合ではない。今もラブレー教官作の人形達を相手にした合戦は続いているのだし、早いとこ退散しなくては。

「……早く帰ろ」

わたしは溜息混じりに呟いた。そのままグラウンドの隅へとはける為に足を向けると、後ろから何かが迫る気配がした。ぞわり、と寒気がして振り返る。その何かを確認する前に、わたしの体は宙へと浮かんでいた。

「ちょ、ちょ、ちょっと待っ……」

わたしは遠ざかる地面に手を伸ばす。巨人人形がわたしの体を握り、持ち上げたのだ。そのまま軽々と顔の前まで上げるとひょい、と自分の肩に乗せた。ぽかん、としていると下から声が上がる。

「あーっ、てめー!!」

見るとこちらを指差し絶叫するのは緑頭のアントン。奴もヘクターと同じクラスだったな、とわたしは頬をひくつかせる。更にアントンの後ろにいる人物が余計な一言を発する。

「リジアちゃん?」

てめぇ!名前言うんじゃねえよ!!わたしは赤毛の戦士、クリスピアンを睨んだ。ヘクターがあちゃー、というように顔を押さえていた。

巨人がゆっくりと歩き出す。向かう方向は、演習場か?も、もしかして「帰ろう」の呟きに反応した!?わたしは慌てて巨人のもみあげ辺りを叩いた。

「ちょ、ちょっと!止まれ!止まんなさい!」

すると直ぐにぴたり、と止まる。なかなか忠誠的な奴だ。そのまま下へ下ろすよう指示すると、きちんと危なげないように運んでくれた。が、下ろされる途中で気がついた。これじゃわたしの命令で動いてます、って言ってるようなものじゃない?あのまま連れ去られていくように見せた方が良かったんじゃないだろうか。まずいと思った時にはもう遅い。

「どういうことだ?リジア・ファウラー」

わたしはよく知った声に恐る恐る振り向く。メザリオ教官が怒り、というよりは呆れた顔で腕を組んでいた。またお前か、という顔にも見えるが、そんなに問題児扱いするなんてひどい。

「教官もいたんですか」

わたしは作り笑顔で尋ねる。

「……いいから説明しなさい」

返ってきたのは冷たい言葉。どうしようか迷うが、言い訳出来そうにないメザリオ教官の雰囲気にわたしはふう、と溜息つくと演習場方向を指差した。

「……ラブレー教官が」

「俺のせいにするなよ!」

がさり、と音を立ててラブレー教官が植え込みから顔を出す。直ぐにしまった、という顔になるが、

「捕まえろ」

メザリオ教官の一言にファイタークラスの皆が飛びかかった。

「てめーのせいで帰れなかったじゃねえか!」

「今何時だと思ってやがる!」

複数の力自慢にぎゅうぎゅうと押さえつけられるラブレー教官。

「おい!教官にそんな態度でいいと思ってるのか!?」

余計な一言で更に足蹴にされ、ぼろ雑巾へと変貌を遂げる。自分の人徳を分かっていない人って可哀想。

「わわわかった!ゆるしてえ!」

ラブレー教官の悲鳴がグラウンドに木霊した時だった。

「体育祭は来週だと思っていたんですが」

凜と響く声に、その場にいた全員が声の方向に振り返った。

「学園長……」

教官達も姿勢を正す。金髪に美しい顔、金の刺繍がふんだんに入った白のローブは威厳を感じずにはいられない。アズナヴール学園長。プラティニ学園の学園長であり、最高融資者であったりもする。しかしわたしに一番馴染み深いのは、

「久しぶりだね、リジア」

「は、はあ」

ニッコリと微笑む顔はローザによく似ている。彼はわたしの親友のお父さんである。

「ローザかと思った……」

いつの間にかわたしの隣に来ていたヘクターが呟いた。そのくらい顔は似ていたりするのだ。学園長は年齢不詳で皺一つ無い顔は「怪しい魔術でも使ってるんじゃないか」と変な噂が立つ程である。性格はもちろんオカマちゃんではないが。

「ラブレー教官」

学園長は片膝をつくと、地面に転がるラブレー教官に語りかける。

「あなた又やりましたね?」

静かだが妙に威圧感を感じる学園長の声に、ラブレー教官の顔が恐怖に歪んだ。

「いやあ、その」

「ゆっくりお話伺いましょうか」

微笑む顔がとっても怖い。わたしは肩に力が入る。しかし、「また」とは?気になる一言にわたしは眉を上げた。

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