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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
一話 イルヴァさまの華麗なる一日
2/39

2

「まーたそんな格好して」

ミーティングルームに向かう途中、さらさらとした金髪に綺麗な顔をした人物に出くわす。司祭のローブがよく似合う。

「大体その格好なら腰に細剣じゃない?背中にウォーハンマーってどうなのよ」

「そんな格好、っていうわりにアドバイスくれるんですね、ローザさん」

イルヴァが答えるとローザは胸を張る。

「当たり前じゃない。中途半端は嫌なのよ、あたし」

「ローザさんに言われたくないですう」

「何よそれ!あたしが中途半端な存在みたいな言い方しちゃって!」

イルヴァはぷりぷりと怒る、この変わった個性的な友達が好きだ。イルヴァを咎めながらも心配するような気配りを見せるローザは、イルヴァの学園生活に欠かせない人だった。楽しませてくれる存在でもあり、守ってあげるべき人なのだ。

「ローザさん、今日のおやつ何です?」

「朝からおやつの話し?」

そんないつもの会話をしつつ廊下を歩く。二人揃ってミーティングルームの扉を開くと、机に腰掛ける可愛らしい姿があった。

「んもう!フロロっ机に座るなって何回言えばわかるのよ!」

ローザから注意を受けたフロロは猫のようなフワフワの耳をピコピコと動かすと、ふわりと床に飛び降りた。

「朝っぱらからうるさいな」

フロロはクリーム色の尻尾をふわりと揺らすと総レースの一人掛けソファに腰を下ろす。

「おはようございます、フロロ」

「おはよ、イルヴァ」

そう答えると懐からガラクタのような金属片を取り出し、いじくり始めた。フロロはあまりイルヴァの服装に注意を払ったことがない。それはそれで気が楽な相手だったし、何より見た目がかわいいこの異種族の友達がイルヴァは好きだった。

「おはよー」

小柄な少女が部屋に入ってきた。薄い金髪を器用に結い上げ、くりくりとした瞳がかわいらしい。魔術師らしい姿だがローブの色は珍しい空色だ。

「おはようございます、リジア。どうですか、今日の衣装は」

「ん?ああ、いいじゃん。いつもより大人しめだし。わたしもローブと靴、新調したんだー」

「あ、かわいいじゃないですか」

リジアの靴はクリーム色のブーツだ。リボンが付いていてかわいらしい。彼女の外見によく合っている。唯一、女の子らしい会話ができるこの子のことをイルヴァは好きだった。何より少女の「ソーサラーは黒いローブっていうのが嫌いなの」という主張が素晴らしいと思っていた。



「お、全員集まってるな」

アルフレートが教師のような口ぶりでヘクターと共に入ってきた。

「ちょっとお!アルフレート、なんで持って来た本、バンダレン地方の本ばっかなのよ!」

「私が行きたいからだ」

「何が行きたいからだ、よ!これじゃ決定って言われてるのと同じじゃない!」

リジアとアルフレートが言い合っている。バンダレンは音楽の都。リジアも嫌なわけではないが、勝手に決められたのが嫌なのかもしれない。

「あたしはフロー神の一番大きな教会があるところがいいわあ」

ローザの言葉にフロロが首を振った。

「それってあの『アヴァロン』らしいぜ」

えっという顔のローザ。

「呪われた島か、面白そうじゃん」

「ヘクター、本気で言ってんの?」

ローザが呆れたように返す。

「兄ちゃんの故郷は?あんたサントリナ生まれだろ?」

「よく知ってるなあ」

フロロの言葉にヘクターは目を丸くする。フロロはふふん、と鼻を鳴らす。

「俺は何でも知ってるのさ」

何だかかっこいい台詞だ。イルヴァはこういう時、あまり口を出さない。よく分からないから、といってしまえばそうだが、リジア達の会話を聞いている方が面白いからだ。色々な人物の変装を楽しむ彼女は、色々な人物の観察も好きだった。

イルヴァが最も気が休まる瞬間は、このメンバーといる時間だ。言いたいことが言えて、言いたいように言われる。何より自分の存在が浮かないこの場は、何より貴重なものだった。一番の理由は、イルヴァがこのメンバーのことが好きだからかも知れないが。

「お腹空きません?」

イルヴァが言うと、皆の動きがぴたりと止まる。

「……またそういうこと言い出してー」

リジアが呆れたように返してくるが、目線はお菓子が仕舞われた戸棚にいっていたりする。

「……お茶にしましょうか」

ローザが言うと、一瞬の沈黙のあと、揃って首を縦に振った。何よりもまずは食い気。気が合う根本は、ここにあるのかもしれない。



父親と待ち合わせた場から馬車に乗って帰る、それがイルヴァの一日の終わり方だ。

「今日も楽しかったか?」

夕日で顔を染めながら父が聞いてきたので、イルヴァは大きく頷いた。

しばらく馬車の振動に身を任せた後、イルヴァは口を開く。

「お父さん、イルヴァはまた、旅に出るかも知れないです」

父は一瞬、不安げな顔を見せたがすぐに笑顔になる。

「そうか……、じゃあまた、出発の日まで夕飯はイルヴァの好きな献立にしてもらおう」

父に言われ、イルヴァは笑顔を見せた。

「急ぐぞ」

父はそう言って手綱を振るった。



夕食の席に用意されたのは山盛りのラム肉だった。

「さあさあ、がっつり食べなさいね」

母の間延びした掛け声。

「やっぱりラム肉は香草焼きに限るな」

双子の兄アルヴィドがラム肉を頬張り言うと、妹ベアトリスも「だわね」とご機嫌に答える。イルヴァも好物を頬張る。美味しい。母の作る料理はどれも一番美味しい。

ちらりと父と兄ミカルの方を見る。父もミカルも黙々とラム肉を食べていた。だがイルヴァは知っている。ミカルが本当はラム肉が好きではないことを。それでもミカルは何も言わない。この献立になる時はイルヴァがもうすぐ旅に出るのだと知っているからだ。イルヴァがいなくなるから「それまでぐらい我慢してやるか」と考えているのかもしれない。でも、イルヴァはミカルのことを少し好きになった。

カーテンの隙間から見える暗い景色を見て思う。明日も遅刻しないように、目覚ましをかける用意を忘れないようにしなきゃ。イルヴァは積み上がったラムの骨を眺めながら考えるのだった。



fin

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