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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
六話 愛の神官ローザ
15/39

3

朝の日差しが目に痛い。休日明けの登校時間。

「休んじゃおうかな」

皆勤賞達成も夢ではないローザが初めて弱音を吐いた瞬間だった。インスピレーションの方はローザへの警告を最後に途切れている。また学園に行けばどうなるかはわからないが。思った通りというか、家族間では何も変わりがない休日を過ごした上で、今日はメンバーと顔を合わせなくてはいけない。気が重いのも仕方ない。

学園に着いてからもなるべくミーティングルームに行くのを遅らせる。教官に話しをしてみたり、普段話さないようなクラスメイトとも話しこんでみたり。誰でもいい、誰かが

自分を裏切ってくれないか。

そんなことまで考え始めていた。

メンバー以外に裏切られるなら些細な事柄に決まっているのだ。クラスメイトが抜け駆けして新しい呪文をマスターした、とか、そんなレベルに留まるに決まっている。

「変わったこと?それがないのよねー。毎回単調なクエストばっかり。メンバーもダレてきちゃって大変なんだ。ぎすぎすしちゃって」

クラスメイトの一人が語った話しにローザは心の中で舌打ちする。他人の不仲話しでは裏切りにはならない。

「そうなの、大変ね」

「ローザちゃんたちのところは仲良くて羨ましいな。一人一人がキャラ濃い方が上手くいくものなのかもね」

褒めているのかどうなのかわからない台詞を言われ、ローザは苦笑した。すると廊下から大声で名前を呼ばれる。

「ローザさあああん!」

間延びする声はたいへん聞き覚えのあるものだ。クラスメイトのびっくりと目を見開く顔にローザは赤面する。

「ローザさああん、いないんですかあ?」

イルヴァの声だ。クラスメイトに謝るとローザは教室を出た。

「……ちょっと止めてよ、恥ずかしいじゃない」

「あ、ローザさん、いるじゃないですか。早くミーティングルーム行きましょう?ローザさんいないとお茶が無いんですよ」

よく見るとイルヴァの口の周りはお菓子の食べカスだらけだ。

「人をお茶汲み扱いしちゃって、もう」

そう言いながらもローザは少し嬉しかった。

「皆さんもう集まってますよ。ローザさんが遅いなんて珍しいんで心配しちゃいました」

廊下を歩きながらイルヴァが言う。普段から全員のお茶を煎れるのに早くから入ってお湯を湧かしているからだ。

「それに今日は久々にローザさん家の御飯が食べれますね」

イルヴァの無邪気な言葉にローザは少し目頭が熱くなった。

「もー、たった三日来てなかっただけじゃない」

「だってお昼も家で食べると食費がかかる、ってあんまり食べれなかったんですもん」

本気で「御飯くれる人」扱いされているようで、ローザは涙が引っ込む。裏切るってコイツのことかも……。そんなことを考えているうちにミーティングルームに着いてしまった。前を歩いていたイルヴァがドアを開けるのが自然だと思うのだが、「開けてくれません?」と頼まれる。

「静電気が恐いんです」

「はあ?もうそんな時期じゃないでしょうが。まったく……」

ローザはぶつぶつ言いながらノブを回し、扉を引いた。ぱんっという破裂音に身構える。頭に何か降り掛かってきた。

「おめでとー!」

リジアのものらしき声に恐る恐る目を開いていく。手を叩くリジア、大きな箱を抱えているヘクターになぜか鼻眼鏡姿のアルフレート、フロロ。呆気に取られるローザに後ろからイルヴァが声を掛ける。

「お誕生日おめでとうございます、ローザさん」

言われても尚もぽかん、としたままのローザの手をリジアが引っ張る。

「もーびっくりしすぎて声も出ないの?」

部屋に入るとあちこち色紙で装飾されていることがわかった。テーブルには大きなケーキがある。思わず目を見開き見つめていると、

「イルヴァとわたしで作ったんだよ」

「一応女の子ですから」

リジアとイルヴァが胸を張って答えた。

「これ、全員でお金出し合ったんだ」

ヘクターが大きな箱をソファーに置くとぽんぽん、と叩く。開けろ、ということだろう。緊張で冷たい手を伸ばすとリボンを解いた。

「これって……」

箱を開けてみてローザはようやく声を出す。裁縫セットだ。裁縫の物差しがあるので箱が大きかったのだろう。それでも他の道具も立派だった。裁ちバサミに糸切り鋏、針山や細々とした道具がキチンと一つのボックスに入っている。このボックス自体が前々からローザがリジアに欲しいとこぼしていた物だと気づいた時、思わず涙が出てしまった。

誕生日なんてこと自体忘れてしまっていた。

「16なんて若いもんだなー」

アルフレートが腕を組み呟いた。思わず笑ってしまう。

「……ところで、なんで鼻眼鏡?」

「こんなひょうきんな部分もある、というところが見れて嬉しいだろう?」

ふふん、と笑うエルフをどうしても憎めない。ローザは頷いた。

「じゃあケーキ切りましょう?ローザさんにはお茶入れてもらって」

イルヴァの提案に各自動き始める。ローザは「裏切りって……まあ裏切られたっちゃあ裏切られたわね」そんなことを考えながら棚の上のポットに手を伸ばした。

「じゃあ一番上等のお茶の葉、開けちゃおうかな」

そう笑顔で振り向き、紅茶の缶をテーブルに置いた所で気がつく。

「あれ?……テーブル変わってない?」

自分が持ち込んだ白のテーブルが初めからここに備え付けてあった折りたたみデスクに変わっている。総レースのクロスはそのままだが、そこから覗く足は見事な曲線を描いていた重厚なものではなく、簡素な木だ。全員の動きがぴたりと止まる。嫌な予感がする。

「……壊したわね?」

ぎくり、と綺麗に5人の肩が動いた。

「……フロロが」

リジアが呟くとフロロが騒ぎ出した。

「ひでえな!元はと言えばイルヴァが悪いんだろお!?」

「アルフレートが人の事馬鹿にするからですう」

「なんだと?ヘクターが可哀想だと思ったから注意してやったのに」

「ええっ、俺?」

ぎゃーすか騒ぐ5人を見て、ローザは溜息をついた。

「仲が良い……ね」

良いといえば良いのかもしれない。悪いといえば悪いかもしれない。ただ、この居心地の良さだけは本物なのだから、それで良いのだろう。

それに今日のことは純粋に嬉しかった。それに免じて許してやるか、と思った瞬間、ローザの頭に再び神の声が響き渡った。


『白いテーブルの持ち主は怒りに我を忘れる』


一瞬にしてローザの顔は氷のように固まる。背中に嫌な汗が流れ、目が虚ろになるのが自分でもわかった。

持ち主って……姉さんだわ。無理言ってテーブルを借りた日の事を思い出し、ローザは胃が痛み出した。

「怒りに我を忘れる……って、のおおお!!」

頭を抱えたローザを他のメンバーは更に青い顔で眺めた。

「……俺しらね!」

フロロが廊下へ飛び出す。「ちょっと待ちなさいよ!」「そう言いながら逃げるな!」「いやーん」「おいおい!」次々と消えていくメンバーを見て、暫し呆気に取られていたローザの顔が赤くなっていく。

「……ま、待ちなさいよおおおお!!」

神の言うことは絶対である。

フロー神の熱心な信者であるローザにとって、今日程神の存在を大きく感じた日は無いかもしれない。

今日も学園には騒がしい6人の声が広がっていく。



fin

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