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タダシイ冒険の仕方 短編  作者: イグコ
五話 流浪の民フロロ、休息を取る
12/39

3

「といわけで、犯人捕まったけど」

翌日の朝、フロロはカーチャの手を取りリジアに説明した。

「本当にごめんなさい」

「え、あ、そ、そうなんだ……やややややだな〜も〜、言ってくれれば良かったのに。良くないか?……まあもう止めてくれればいいよ」

どうも煮え切らない様子にフロロはリジアの腕を引き、耳打ちする。

「リジア、カーチャのこと知らないんだろ」

「……ごめん。今初めて見たって言ってもいい」

「ひでーな」

「わたし、結構顔覚えるの得意なはずなんだけどな……」

リジアは頬を掻いた。ふと、思い立ったようにロッカーを開ける。

「『どれ』を書いてた人?」

リジアの言葉にフロロは目を丸くする。一人じゃないってこと、そしてリジアはそれをわかっているということだ。

「これ、です。ごめんなさい……」

「ああ、この血文字で『呪』の人だったのね。これが一番病て……いや、深刻そうだったから、わかってよかったわ」

「他のは誰だかわからないです……ごめんなさいごめんなさい」

「いや、いいからいいから。ところでコレ、どうやって書いてたの?まさか体切ったりしてないわよね」

リジアがそっとカーチャのローブの袖を触った時だった。

「リジア、フロロ」

廊下を歩きながら声をかけてきた人物に三人は一瞬、顔を強張らせた。なんてタイミング、全員がそう思っているに違いない。

「おはよ。……どうしたの?」

ヘクターが軽くあげた手を止めて三人の顔を眺める。その時、

「はうう!!」

カーチャが奇声と共に逃げ出した。フロロは呆気に取られた後、慌てて後を追う。

「は、早いな」

そう呟いてしまうほど、カーチャの逃げ足は昨日よりも随分早い。曲がり角を何回曲がっただろう。ようやく追いついたフロロはカーチャの背中に飛び乗った。

「どうしたんだよー!リジアはヘクターに告げ口したりする奴じゃないぜ!?」

「ちちちちがうの……合わせる顔がないのよー!!」

「兄ちゃんに!?いいから止まってくれよー!」

あんたどうせ顔覚えられてないじゃん、と思いつつカーチャの顔をぐい、と掴む。すると、ぬるっと嫌な感触が手のひらに伝わってきた。

「……げっ」

自らの手のひらを見て、フロロは青ざめる。真っ赤じゃないか、これは……血?

その頃にようやくカーチャが足を止める。はあはあと肩で息をするカーチャにフロロは問いかけた。

「な、何これ?……血?」

「……誰にも言わないで」

「い、いや言わないけど、大丈夫なの?」

カーチャがくるりと振り向き、フロロは思わず「ひっ!」と悲鳴を上げた。顔が真っ赤だ。頬を染める、というレベルではない。文字通り真っ赤なのだ。

「……これが彼と仲良く出来ない理由よ。わたしは絶対に彼と話すことが出来ないの」

ぽたぽたと廊下に染みをつくる元凶を、フロロは恐る恐る凝視する。カーチャの顔の中央、鼻から垂れるソレを見つけた。

「鼻血、かよ……」

こくん、とカーチャが頷く。

「顔を見たり声を聞いたりするだけでも『予兆』が来るのよ……。目が合ったら最後、このぐらいの惨事になるわ」

ふっと苦笑しながら目を伏せるカーチャを見て、フロロは掛ける言葉を失った。



「悲劇、だね。ソレは……」

隠し砦のソファーでカロロが呟く声にフロロは頷いた。

「まあ笑い堪えるの大変だったけどな」

フロロは天井を仰ぎ見る。

「でも、フロロがここに留まってる理由がわかったよ、俺は」

ニウロが棒付きキャンディを口の中で転がしながら言った。モロロ族は流浪の民、年単位で一つの町に留まることは珍しい。今ここにいるモロロ族のメンバーは皆、フロロを慕って残っているにすぎない。

「面白いもんねー、ここ」

パウロが寝転がりながら足をばたつかせる。

「確かに。今の話しの子といい変な奴ばっか」

カロロも頷いている。

「だろ?」

フロロが言うと三人はにまー、っと笑った。

「中でも俺の仲間が一番面白いな」

フロロの言葉にカロロが首を振る。

「俺のメンバーも面白いよ!」

ニウロとパウロも手をあげた。

「うちも変人ばっかだぜ?」

「僕の仲間も面白いよ!良い奴らだし」

しばらく四人の間で「どこが一番個性的か」という話し合いが続く。フロロが負けまいと冒険の話しを出そうとした時だった。

「面白い話ししてるじゃないか」

戸口から聞こえたエルフの声に、四人の体が固まる。

「……まさか、その『面白い』というのに私は含まれていないよな?フロロ」

アルフレートの言葉にフロロは苦笑する。モロロ族の隠れ砦が早くも崩れてしまった。でも、自分のパーティーのやつらなら、案内してやってもいいかもしれない。フロロはそう考えてしまった。



fin

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