1日目〔1〕
森の麓の公園、子供の元気な声が響き渡る。
子供の遊ぶ姿は見るものを幸せにし、元気をくれるものだ。
子供はどんな村にとってはかけがえのない宝物なのである。
「愛ちゃーん、まってよぉー」
公園の砂場の近くでは女の子が二人、追いかけっこをしている。
年は十歳ほどといったところであろうか。
二人以外に人影はないためか、彼女たちの声や足音はとてもはっきりと響き渡っている。
「はぁはぁ…愛ちゃん早いんだもぉん…」
愛とよばれた少女は足をとめ振り返り、
いまにも泣き出しそうな表情の女の子に屈託のない笑顔をむける。
「咲ちゃんがおそいんだよー」
彼女たちは学校が終わると少しの間だけこの公園で一緒に遊んでいた。
彼女たちにとってはこの公園の二人の時間だけが楽しみであった。
本当なら普通の友だち同士のように学校でも仲良く勉強をし、
お昼ご飯を食べ、自分たちの家に呼び合ったりしたのだろうが、
彼女たちにはそれをすることはできなかった。
本来であれば彼女たちとは無関係の世界が彼女たちを引き裂いていた。
愛と咲は理由は知らされていないが、
親からは仲良くすることを禁じられており、
一緒にいるところを目撃されるわけにはいかなったのだ。
だが皮肉にもこの禁じられた友人関係は二人の絆を強めた。
禁断の恋ならぬ禁断の友情とでもいえようか。
「ねえ愛ちゃん、歌の練習した?」
「ううん。お母さんがうちの中で歌うとうるさいって怒るしぃ、外で歌のもちょっと恥ずかしいんだもぉん」
ちょうど一ヶ月後に子供たちが村人たちの前で歌う行事があるのだ。
当然咲と愛もその行事に参加しなければいけないが、二人は何を歌うかすら決めていない状態だった。
「あっ、そうだ愛ちゃん、わたしたち歌の発表会は一緒に歌おうよ!」
「うん! じゃああとは何を歌うか決めないとねぇ」
「あはは…、それじゃ何にしようか?」
「うん…」
彼女たちは実際には一緒に歌えるはずもないことは知っていたが、
それでも言葉だけでも一緒に歌うと言いたかったのだ。