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【短編小説】浅漬けサイコガン

掲載日:2025/12/16

「それだけは勘弁して」

 そう懇願する女を蹴り飛ばした。派手に転げ回る女を尻目に椅子に腰掛ける。

「おい、いつまで痛いフリをしてるんだ」

 女はゆっくりと起き上がり、泣きながら袖を捲った。

「そうだよ、それでいい」

 俺は笑いながら煙草に火をつけた。紫白い煙が揺れる。煙が喉にささって咳き込んだ。

 女はまだ諦めきれずに首を振る。

「いいからやれよ」

 俺は足先で蹴り飛ばす。

 女は涙を流した。

 だがそこで諦めもついたのか、巨大なフタを開けると一畳ほどもある広大か糠床を掻き混ぜた。



「そうだ、お前はきょう一日そうやって糠床臭い手で過ごすのだ」

 俺は加虐心が満たされていくのを感じる。

 お前がいくら美人でもそれだけ糠床臭ければ悪い虫も寄ってこないだろう。

「大丈夫だ、お前が糠床臭くたって俺は愛しているよ」

 女は俺を見ようともしない。

 糠床臭い女の腕を丹念に洗う事を想像しながら煙草を吸う。

 少しずつ勃起する。

 糠床に女の汗や皮膚が混ざっていく。

「見ろよ、糠床はお前の様に柔らかく融けていくぞ」

 俺の脳味噌がかき回されるような快感が走り回る。

「そうだ、俺の脳味噌にお前の愛液や細胞が入り込んでいくんだ」



 女が混ぜた糠床。

 そこに浸かった野菜。

 それを喰う事で俺と女は一体になる。

 女と俺との境界が曖昧になる。

 氷と炎の間を滑り落ちるようにニューロンの隙間を走る電流に痺れる。

「ふふん」

 灰皿に押し付けて煙草を消す。

 勃起は治らない。


「そうだ、お前はそうやって糠床を掻き混ぜるしかないんだよ」

 女は一心不乱に糠床を混ぜる。

 まだ半分も混ぜられていない。

「お前は俺の言いつけを破って月見そばを食べた。その所為で空から月が消えた」

 言っただろ、あの晩だけは月見そばを食べちゃいけない日だったんだ。

 その言いつけを破ってお前は月見そばを食べてこの世から月を消し去った。

「お前のせいだよ」



 お前の罪を、俺はそうやって糠床を混ぜる程度で済ませてやっているんだ。

 俺の寛大さを思い知って欲しいくらいだな。

 大体、泣けばなんでも許されると思っているからそうなる。

 月見そばを食べてこの世界の空から月を消した事も泣けば許されると思っているし、その懲罰である糠床混ぜも泣けば許されると思っている。

 女は聞いているのかいないのか、うんともすんとも言わずに糠床をかき混ぜ続けていた。

 俺はズボンを下ろして逸物を取り出す。

 美しい俺の女が白い手で糠床をかき混ぜているのを見ながら手淫を始めた。


「そのまま続けろ」

 言われずとも女は糠床をかき混ぜ続けるだろう。

 馬鹿だから仕事の止め時すら分かってない。

 そもそも女と言うのは道を歩けば他の通行人にどいてもらえると考えているし、仕事に就いたって出世したいけど責任を取らなくて良いと考えている。

 まったく救いがたい。

 糠床くらい混ぜろと言うのだ。

「何がそんなに厭なんだ?お前だってそこに漬けたものを食べるだろう」

 満員電車でつり革を掴むお前の腕が糠床臭いくらなんだと言うのだ。

 大体、みんなマスクをしているんだ。誰も気づきはしない。


「ほら、口を開けろ」

 俯いて糠床をかき混ぜる女の髪を掴んで顔を上げさせる。

 への字に結んでいた口は、鼻を摘むと容易に開いた。

 俺はその中に精を放ち、再び椅子に座って煙草に火をつけた。

 女は精を飲み干すと何度か咳をして、さめざめと泣いた。

「そうやってすぐに泣くんだな」

 射精後の気怠さに眠くなりながら女を笑った。


 女は泣きながら糠床を掻き混ぜ終えた。

 そしてため息をついて両腕を外すと、どちらの腕にもサイコガンを装着した。

「これから仕事に行きますけれど」

 サイコガンの上に義手を嵌めるとまた涙を零した。

「これが暴発して事故になっても私のせいじゃない。糠床を搔き混ぜさせたあなたの所為よ」

 そんな呪詛を吐いて、仕事に向かった。

 


 そうやって一生を他責他罰で過ごせば良い。

 お前のサイコガンが誰を殺そうと俺の知った事じゃない。

 どうせなら誰か殺してくれた方がいっそ済々する。

 糠床を混ぜた手で電車に乗るのが厭でサイコガンを装着して暴発した結果なんの恨みもない人間を殺害してしまいました、と言うニュースを見られるなら見てみたい。


 俺は置いて行かれた糠床くさい腕を舐めながら新しい煙草に火を点けた。

 再び勃起し始めたので、その腕の中に射精してから少し眠った。

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