主任司書の豹変
「これ、本当は村の子供たちがやったんじゃないの?」と玲也が言った刹那、背後から「滅多なことを言うもんじゃない」と語気を荒げた男性の声がした。不意を突かれたことと、背後からであったことから、二人は驚いて飛びのき、持っていた新聞紙を落としてしまった。その際、その新聞紙が縦に裂けた。「また子供がこんなところに、と思ったら、またお前たちか」と、前回とは打って変わって、とても怖い表情をした田島主任司書が怒気をはらんだ声で恫喝してきた。
騒ぎを聞きつけてやってきた女性職員が強めの声で「主任!!何やってるんですか!」と咎めだてるものの、主任司書は彼女の方に振り返りざま「うるさい!お前は黙ってろ!」と怒鳴りつけた。まるで人が変わったかのような主任の様子に彼女は驚いて固まってしまった。玲也も驚きと恐怖で縮こまっていたが、シマオは静かにパニック症状を起こしてしまい、開いたままの辞書を落としたまま、ぶるぶると震えながら硬直してしまった。女性職員が出向いたのを見て事態を静観していた葉山は、主任司書が女性職員にまで怒鳴りつけたのを聞いて駆けつけて来た。そして、女性職員の背後から彼女と田島主任司書の間に割って入ってきた。若い男性である葉山が入ってきたことで、当初、体を子供たちの方に向けて女性職員の方に振り返っていた状態だった田島は、その全身を葉山の方に方に向けた。その瞬間、葉山が玲也たちに何度か目配せをしたので、3度目で合図に気付いた玲也は、未だに固まっているシマオを揺さぶって正気を取り戻させると、彼の手を引いて図書館から逃げ出したのであった。
結局、玲也は新聞ラックの側で立ち読みしていただけだったので、持ってきた辞書を使わなかったので自分の辞書が入った鞄を持って出てきたが、シマオは図書館に漢字辞書を落としたまま逃げ出してしまった。そのことをどうしようかと駐輪場で悩んでいると、しばらくして、図書館から女性職員が出てきてシマオの辞書を返してくれた。なぜか女性職員が謝ってくれたが、そんな彼女でも、なぜ田島主任司書が豹変してしまったのかは解らなかったようだ。「滅多に怒ったりしない人なんだけどねぇ、あなたたち、何かしたの?」と言われ、「昔の事件の犯人が村の子供達なんじゃないかって言ったら”めったなことを何とか”って怒られた」と玲也が答えると「憶測でそんなことを言うのは、ちょっとね、でも、それでも主任のあの怒り方はやり過ぎよ」と彼女も腑に落ちない様子だった。「確かに玲也の発言は軽率ではあるけど、だからと言って怒鳴りつけるのは大人としてどうかと思うよ」と、ようやく落ち着きを取り戻したシマオが田島主任司書の豹変ぶりに憤りを述べる。「こちらでもなんとかしておくけど、2人はしばらくここに来ない方が良いかもしれないわね」と言う女性職員の勧めに少年2人は同意し、その後、2人はシマノ美容室に戻ることにした。




