地元の葬式
シマオが玲也のお見舞いに行った翌日、下宝田地区の旧家で葬式があった。その翌日が納骨らしく、各家の代表らしき人々が黒い和装で葬列を組んで墓に向かって行列していた。地元の人は全員”田島”なので、他所から来た人たちにはどの”田島さん”がどの家の人なのかわからないが、地元の人間はお互いを屋号で呼び合う。今回の葬儀は与兵衛の家だった。これで、去年から続く地元の溺死者は4人となった。シマノ美容室では開店早々その話で持ちっきりだ。「これで4人目」だとか「ちゃんと身代わり人形をを奉納しているのにこれだ」とか、景気が良くて儲かっているのに神社を放っぽらかしにしているから罰が当たった」等々、思いつく限りの憶測が飛び交う。
いい大人たちが朝っぱらから大きな声で喋るその噂話は、当然ながら、開店前から店にいて、奥の控室で宿題をしたりTVを流し見したりしているシマオの耳に入る。地元の人間が4人溺死した話と「7人の生贄」について、当初はそれらの関連性を疑っていなかったシマオだが、玲也に指摘されて以降、彼はその関連性を疑いはじめていた。そんな中、昨日寝冷えで寝込んでいたはずの少年がケロッとした顔で店に現れたのだった。
「あら?玲也くん、もういいの?」と作業の手を止めて尋ねる島野夫人。「あ、はい、昨日はお見舞いありがとうございました」とかなりはにかんだ様子で答える玲也。その様子がおかしくてかわいくて、彼女は笑ってしまった。玲也は少しむっとしたが、奥からシマオが様子を察して出て来たので慌てて取り繕いながら「昨日はありがと」というと、シマオは「いつものことでしょ」と真顔でそう言いながらさっさと控室に戻ってしまった。半分だけ開けた扉からこちらを覗くシマオに急かされるように玲也は奥の控室に入っていき、「あ、これ、お見舞いのお礼にって」と言いながら、自分の母親から島野君に渡すようにと預かっていた菓子折りをシマオに渡す。「どうも」と言って受け取ったシマオは母親に見せようと控室の扉を開けようとするが、その直後、島野夫人が控室に入ってきた。彼女はこういう絶妙なタイミングがうまい。
「あら?お見舞い返しかしら?」と問う島野夫人に「あ、はい」とたどたどしく答える玲也、どうやら緊張しているらしい。本人は畏まっているつもりである。「今回は何かしら~」と白々しく言う母親に向かって「その形からして水ようかんでしょ」と断じるシマオ。「だって、去年も水ようかんだったじゃん」とにべもなしである。「え?そうだっけ?」と全く覚えていない玲也に「うちのも去年と同じだけどね」とシマオは全く空気を読まない、「アナタのそういうところ、直した方が良いわよ」と島野夫人は苦笑いしながら息子を咎めたのだが、『事実を事実として話して何が悪い?』と言わんばかりに腑に落ちない顔をするシマオだった。ところが、玲也には友人親子の会話の意味があまり良く分らなかったのだった。
「ちょっと玲也をからかっただけ、元気かな?って」と取り繕うシマオに玲也がタックルをかます「やったなお前!」そんなこんなでワチャワチャしている腕白どもをしり目に、島野婦人は包みを開けて水ようかんを箱から取り出した。「よく冷えたら食べましょうね?」と2人に念押ししながらそれを冷蔵庫に入れると、シマオが使っていたカップを持って流しに行き、新しいカップを2つ用意して客と息子の分のカップに良く冷えた麦茶を注ぐ。食器棚の一番上の棚からクッキーの詰め合わせの袋を取り出して開けると、盆の上に載せてテーブルの上に置き「ごゆっくり」と言ってから彼女は店に戻った。




