郷土資料
3人で図書館に入ると、シマオはカウンターで受付をしている係員のところに真っ直ぐに行く。「すみません、この町の歴史がわかる資料があるのはどこですか?」そう聞かれた女性係員は少し驚いたような顔をしながら「郷土資料は入口から入って左手奥の方ですよ、その区画はその他の歴史の資料もありますし、新聞も色々あるけど、、、難しい漢字が多いから読むのは難しいかもしれないわね」と告げた。シマオは「年月日でメモしてから大人に聞きます」と優等生な回答をしてから「ありがとうございます」と感謝を述べて去るが。2人もそれに和した。
天井から吊るされている区画標識には“郷土資料”と書かれていたが、ルビが振られているわけではないので”普通の”小学2年生には表示内容がわからない。ただ、「入口から入って左手奥」という受付の案内どおりに進んでいくと、通路の突き当りに新聞ラックが並んでいる場所があった。建物の壁沿いの本棚の入口側から古い順になっているらしく、棚の所々の縦軸に年号/西暦表記の見出しがついていたので。時系列はわかりやすかった。
シマオは「宝田村」と呟きながら本棚を検索していき、玲也は絵本コーナーにしか行ったことがなかったので珍しがっていたが、すぐに飽きてシマオが検索している様子を眺めていた。フジショーも玲也同様に珍しがっていたが、やはり、途中からシマオ・ウォッチングに移行し始めたその時、フジショーはふと何かに気づいて振り返った。
彼の視線の先には事務員風の出で立ちの中年男性がいた。フジショーはその男性がなぜ自分たちを見ているのかわからなかったが、司書としては幼い子供が古い資料などにいたずらしたり汚損しりしないか、気が気ではなかったのだ。それについてはフジショーも大人になってから気づくことになるだろう。だが、この時はなぜこっちを見ているのかはわからなかったので玲也にヒソヒソ声で話かけた、「なあ、おい、気づいたか?さっきからあのおっさんが俺達のことを見てるぜ」「へぇ、図書館の人でしょ?」と言って玲也はちらっとその男性を一瞥するが、すぐに興味を失って手書きのように見える文書に手を伸ばすのだった。
玲也が手を伸ばしたのは奇しくも明治時代に書かれた”田島村由来記”だった。初稿が明治7年とは思えないほど新しい紙でできている本だったが、原本は郷土資料館の方に保存されており、図書館にあるのは現代出版技術によって作られた複製なのだ。複製とはいえ特注なので非常に高価であることに変わりはなく、汚損されてはたまらないと司書である中年男性は思わず子どもたちに近寄ってしまった。
気配を感じ取ったフジショーが振り向くと、手を伸ばせば届く距離までその中年男性が迫っていたので、思わず「うわっ!」と叫んだ。それには司書も驚いたようで、司書も「うわっ!」と叫んでしまい、何事かと他の職員までがその通路に来てしまった。天井につけられた蛍光灯と通路の位置関係が悪いために薄暗くなっている通路でのニアミスは結構心臓に悪いものがある。二人の叫び声で我に返ったシマオと玲也まで「うわ!」と叫んでしまい。その場は混乱し始めたのだった。
自分よりも一回り大きな体格のフジショーが司書の中年男性相手に玲也を盾にするかのように移動したので、そのことに玲也はムッとしながらも「大きな声を出すなよ、びっくりしたじゃん」と抗議したが、司書の中年男性が「あ、いやぁ、驚かせてゴメンね、こんなところでボクたちみたいな年齢の子でわかるのかなって思ってね」と繕うように言った。
子供たちを相手に『お前たちに汚損されたら困るから様子を見に来た』と正直に言わないところが彼の良いところだが、時すでに遅く、叫び声を聞いた司書たちが現場に集まってきてしまった。若い男性職員が「どうしました?」と彼らの反対側から近づいてきたので3人の子どもたちは逃げ場を失った状態になったが、別に後ろめたいことをしているわけではないから逃げなくてもよいのにもかかわらず、フジショーは悪びれて逃げ腰になっていた。
だが、玲也は「あの、これ、何が書いてあるかわかりますか?」と中年男性に向かって不躾な質問をした。それに対して、中年男性は「これの内容を知ってどうするんだい?」と問い返すが、玲也は一切悪びれる様子もなく「おれ・・・ボクたち、この町の歴史を調べてるんです」と返した。それを補足するようにシマオが「夏休みの自由課題です」と付け加えると、中年男性は驚きの表情で「そうだったのか、、、いや〜、たまにいたずらしたりする子供がいるから」と、思わず本音を漏らしてしまい、いつの間にかそばに来ていた若い男性職員から「ちょっと!主任!!」と咎められてしまった。どうやらこの中年男性は主任司書らしいが、そんなことは玲也たちの預かり知るところではなかった。
「な、何だ、そんなことなら最初から声をかけてくれればよかったのに」とバツが悪そうに言い訳する主任司書と、それを見ながらホッと一息ついて安堵の笑みを浮かべる若い男性司書であった。どうも主任司書は子供の扱いがわからないようで、若い男性司書が「それなら、村の成り立ちについての一通りの資料を集めて、読書コーナーの方で教えてあげればいいじゃないですか?」と提案すると、主任は「あ、そうだね、流石だね、葉山くん」と助け舟に感謝したのだった。




