フジショーんち
唐突に「用水路の水門を見てみたいな」と、玲也が言い出す。「それで何か解るの?」とシマオが問うと「いや、判らない」と応える。「なんだよ?それ」とフジショーが訝った。「どうやって落ちたんだろう?足を滑らしたのかな?それとも、誰かに突き落とされたのかな?」とレイヤが独り言を言い始めたが、それに応じてシマオが「それは既に警察が調べたうえで事故と判断したんだろう」畳み掛けるものの、「いや、なんか違うような気がするんだ」とレイヤは腑に落ちない様子だ。
更に彼は、「あとさ、”たからしまのちズ”も何か関係あるような気がする」とまで言い出す。それに対してシマオは「流石に考えすぎだよ」と言うが、レイヤの頭の中では8歳の子供の知識と経験では言い表せないモヤモヤとした何かが蟠っていたのだ。「あれってなんて書いてあったっけ?」と誰とは無く問うレイヤに対してフジショーは「今日はうちに置いてきた」と言う。「見せて」と要求するレイヤに、「じゃあ、うちに行こう」とフジショーが応じたことで、全員、フジショーの自宅に向かうことになった。
フジショー宅は9号棟西側の団地内駐車場の向こう側にある南西向き5階建ての高層住宅の3階だ。そこから来ていたので団地内駐車場に停まっているパトカーをベランダ越しに見ていたし、9号棟のエレベーターホールに向かう途中にも見ているのだ。3人が団地内駐車場の通路に近づいた時にパトカーが駐車場を出て行った。簡単な事情聴取のために2人の巡査と1人の刑事が1台のパトカーで来ていたのだが、そんな事情は子供達に知る由もなかった。
駐車場の通路を横切って芝生を通る方が整備された歩道を通るよりも近道なので、子供たちは遠慮なく芝生を通って行った。「ただいまー、レイヤとシマオも一緒」と言うと、「あらあら」と言いながらフジショーの母親が出てきた「いらっしゃい、2人とも久しぶりねぇ」と彼の母親が挨拶をするので、玲也は「こんにちは!おじゃまします」と言いつつ上がり、シマオは「お久しぶりです、失礼します」と言って上がっていく。フジショーの母親、藤田多恵は台所に向かいながら「しょうちゃんの部屋で待っててね、今麦茶を入れてくるから」と言った。フジショーは母からは「しょうちゃん」と呼ばれているのだ。
勉強机の脇に無造作にランドセルが置かれ、押入れの襖は半開きになり、無造作に突っ込まれた布団らしきものが見える。フジショーが出かけている間に母親が掃除をしたらしくゴミも埃もないが、なんとなくゴチャっとした男の子の部屋だ。
学習机の上にはTVで人気のロボットアニメのロボットと敵の怪獣ロボの超合金が無造作に置かれている。学習机の本棚の隅っこに割と誰にでもわかりそうな感じで無造作に置いてある鍵を取り上げた彼は机の袖の鍵付き引き出しの錠を開錠すると引き開けた。そして、件の”たからしまのちズ”と書かれた紙を取り出した。少しは伸ばそうと努力をしたらしく最初に見た時よりは大分縮れが弱くなっている。
レイヤとシマオは顔を見合わせる、『錠の側に鍵を置く意味とは・・・』。そこで、シマオが呆れたように「そのカギ、意味あるの?」問うと、それに対してフジショーは真顔で「あたりめーじゃん」と答える。「「えっ・・・」」レイヤもシマオも絶句してしまった。鍵をかける意味とは・・・。自分の母親に対するフジショーの絶大な信頼が垣間見えるところなのだが、あんなに秘密にすると言っておきながらかなり管理が杜撰であることに2人とも呆れるしかなかった。だが、それがフジショーの良いところ?だ。
たからしまのちズ
ななつのこたち ひとつのこ
しまのなかに ひとつのこ
いちねんにつき ひとつのこ
ふちまでいって およぎましょ
しままでおよいであがりましょ
あがればしまのこのたから
後で調べたら”超合金”はバンダイの登録商標だった。




