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シマオの話

営業(えいぎょう)が終わった店の控室(ひかえしつ)では客たちから聞いた"事件"の話で持ちきりだったらしい。何しろ、警察に通報したという老女その人が客として来たわけでもないのに朝っぱらからシマノ美容室にやって来て、待合席で利用客たち相手にペラペラと自慢気(じまんげ)にその"事件”の話していたらしい。


美容室というのは客が退屈しないように話をするのも仕事のうちで、もちろん、噂話(うわさばなし)

は大歓迎なので、客でもないのに居座って客たち相手に(しゃべ)ってくれるような人物は放置しているのだが。ついでに、自分たちも話を小耳に(はさ)んでおく。こうやって美容室の人間は情報通(じょうほうつう)になっていくのだ。

(※ あくまでもシマノ美容室の経営理念です)


それで、その老女の話では、彼女が日課の早朝散歩で多嘉良(たから)川の土手の歩道を歩いていたところ、用水路の水門付近に男性のように見えるうつ伏せの人が浮かんでいたため慌てて宝田町駐在所に駆け込んだそうだ。駐在員と一緒に現場に戻ったものの、うつ伏せの人は同じところで浮かんだり沈んだりを繰り返していて下流に流れていく気配がなかったそうで、駐在員は(すで)に死んでいるだろうと言いながらも警察無線で状況を本署に連絡し、消防のレスキュー隊も手配してくれたとのこと。


レスキュー隊が水難救助作戦で引き上げた若い男性はすでに事切(ことき)れていた。それでも、救急隊は念の為に心肺蘇生(しんぱいそせい)を10分ほど(こころ)み、それでも息を吹き返す気配がなかったために救急病院で死亡診断してもらう方向に切り替えたと言う。8月上旬とはいえ川の水は非常に冷たいことから、警察官は死体の保存状態が良すぎるので死亡推定時刻の算出は難しいと言ったものの、彼の推測では『おそらく一昨日(おととい)の夜のうちに(ふち)にはまって溺死(できし)してしまったのだろう』ということらしい。


男性の所持品には身元を示すものがなかったものの、宝田町の地元農家のある夫婦が『昨夜から息子が帰宅しない』と警察に捜索届(そうさくとどけ)を出したため、その夫婦に太田市の救急病院の地下霊安室(れいあんしつ)身元(みもと)確認をしてもらったが遺体(いたい)が原型をとどめていなかったために見た目では判断できなかったらしい。それでも、服装から"おそらく自分たちの息子だろう”と言うことで暫定的(ざんていてき)にその夫婦の息子ということになった。その後、警察の鑑識(かんしき)が虫歯の治療痕(ちりょうこん)などからその夫婦の息子であることを突き止め、遺体の身元が確定したと言う。


宝田町の地元民は全員『田島』姓なのでお互いを屋号(やごう)で呼び合っている、もちろん、余所者(よそもの)である団地の住民はそんなことを知らない。老女の話では、その死んだ男は”はるよし”の長男坊だという。2こ下の妹もいるが、二人とも自由気ままなろくでなしで悪さしかしないと彼女は言いたい放題悪口を言っていたらしい。故人は、いわゆる"ツッパリ"と称する不良少年である。


今年、県立農業高校に入学したばかりらしく両親は農家の後継(あとつ)ぎとして期待していたらしい、だが、その少年は典型的(てんけいてき)なツッパリの格好をして不良たちとつるんで酒やタバコを飲み、バイクで走り回ったりして手のつけようがなかったらしい。街に行っては喧嘩騒(けんかさわ)ぎを起こして補導(ほどう)されることが何度もあり、村の中でも後ろ(ゆび)()されるような少年だったらしいが、兄が兄なら妹も妹で兄妹(そろ)ってろくでもないと大げさに(なげ)いてみせたそうだ。


だが、シマオの両親の話では、その老女の孫たちも大概(たいがい)らしい。つまり、地元の(もと)農家で(げん)地主たちの子どもたちはいずれもろくでなしだということだ。(にわ)かに金持ちになってしまったために(ひま)と金を持て余してしまっているから悪さしかしないのだろうと色々な人たちが陰口を叩いているらしい。それも、地元民同士で、美容室だけでなくたむろすることができる場所ならどこでも隣家の悪口を言いふらして回っているのだとか、もう、世も末である。まあ、実際に当時は20世紀末ではある。


ただ、さしもの不良たちも7年前の"事故”以来あの"淵"には近づいていなかったはずだそうで、なぜ、彼が淵で溺れていたのかは"殺人"以外では思いつかないというのがその老女の主張だそうな。誰かに突き落とされて落ちたのであれば理解できるが、自ら淵に近寄るとは考えにくという推論はある程度納得がいく。ところが、シマオの母親が”ツッパリ”を自慢にしているような若者がなぜその"淵”を避けるのかという理由を聞くと「急用ができた」と言って、老女は突然帰ってしまったと言う。


「おかしいと思わないか?」とシマオが改めて問う。「7年前の"事故"以来近付くのを()けていた場所で(おぼ)れるなんて・・・」と続けると、玲也が思い出したかのように「7年前って言うと、川村の兄ちゃんが溺れ死んだときじゃん?」と(かぶ)せる。それに対して「ってことは、その男が川村の兄ちゃん溺れさせたってのか?」とフジショーが(おどろ)いたように言うのだった。


そのタイミングで9号棟のエレベーターホールに到着したエレベーターから3人の男性が出てきた。2人は警察の制服で、もう1人はワイシャツとスラックス姿で小脇に背広を抱えていた。彼らは子どもたちの方を一瞥すると踵を返し、駐車場の方に向かって去っていく。それを見たフジショーが「おまわりさんたち、やっぱりここに来ていたんだ・・・」と(つぶや)く。「なんで知ってんだ?」と問う玲也に、「いや、来る途中にさ、団地の駐車場にパトカーが停まっているのが見えたからさ、どこに行ってたのか気になってたんだ」とフジショーは答えた。


シマオが淡々(たんたん)と「やはり川村さんのお母さんが疑われているか」と述べると、「ええ!川村さんのお母さんが!?なんで・・・」と言って息をのむフジショー。「あれを"事故ではない”とするなら川村さんのお母さんが(かか)わっていると警察は(うたが)ってるんじゃないかと思う。」とシマオが補足(ほそく)する。「証拠(しょうこ)はあるの?」と問う玲也に、「証拠が無いからおまわりさんたちは帰っていったんだろう」と告げるシマオ。シマオは本当に小学校2年生だろうか?実は高校2年生の少年が変な薬を飲まされて小学生の体になっているだけなのではなかろうか?

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