昨日の事件
その日の晩、玲也は就寝の前に居間のベランダの窓から川の方を見る。いつの間にか警察車両はいなくなっていて、時折、一般車両が普通に通っていた。玲也の部屋は9号棟の西面の渡り廊下に面しているので、9号棟の東側にある多嘉良川は見えないのだ。そのまま自室に向かい、布団を押し入れから引っ張り出して部屋の中ほどに敷く。
怜也が小学校に入学した時に母親からの命令で就寝の準備を自分でするようになった。今のところ一人っ子の玲也だが、「小学校に入るということは、もう、立派なお兄ちゃんなんだからね」と母に言われたので、”そんなものか”と得心して自分でやるようになった。ただし、彼は自分で布団を敷くことを覚えると、好きな時に自分で布団を敷いて昼寝をするようになったため、時々、彼の母親が舌打ちをすることがあるのだが、それはまた別の話。
翌朝には外出禁止令解除の報が連絡網で回ってきたので、朝食後の洗い物を終えた玲也は早速外に繰り出した。地上階でエレベーターホールを出て時計塔 に向かおうとするとシマオが商店街のアーケードの日陰を歩いて10号棟側からこちらに向かって来ているところだった。「おっす!」と言いながらシマオに左手を振る。この流れなら?とエレベーターホールの方を振り返ると、フジショーがこちらに向かってくるところだった。フジショー目が合うと彼の方から「おっす!」と言いながら手を降ってきたので、玲也も「おっす!」と返して手を振り返す。3人が集まるときはいつもこんな感じだ。
3人が手を伸ばせば届く距離まで近づくと、開口一番、シマオがこう言った。「昨日の事件、変だよね」「事件?昨日外出禁止になったやつ?」とフジショーが問う、「え?親から聞いてないの?」と玲也がフジショーに尋ねると、「うん」と彼は返事をした。「親が何も教えてくれないなら仕方がないね」とシマオが理解を示す。「うちはベランダから見えたし、昨日の夜、親父が教えてくれたんだ。誰かが死んだらしいね」「うん、溺死らしい」「「できし?」」玲也とフジショーは知らない単語が出てきたので驚く。




