父の報告
午後6時半ころに父親の敏也が仕事を終えて帰宅する。まだ夕飯は完成していないこともあって、玲子は忙しげに台所で作業をする。今日のメニューは昼過ぎにTVの料理番組で見た”簡単!鶏胸肉のヘルシーサラダ“だ。敏也は帰宅の挨拶の後すぐ風呂に入る。真夏なのでたくさん汗をかいているので汗臭いし、体中、汗でべとべとになっている不快感があるだからだ。午後7時頃、風呂から上がっても息子の姿が見えないので敏也は息子の部屋に向かう、全裸の腰にバスタオルを巻いただけの状態で。
玲也は机に突っ伏して寝ていた。昼ご飯を食べた後、3時前くらいまでは頑張っていたのだが、母親が3時のおやつを持って行った時には寝ていたのだ。彼女は玲也を起こさず、おやつと麦茶の上に布巾をかけてから立ち去っていたのだがそれに手を付けた様子もない。「誰に似たんだか・・・」と呟く彼の父親であった。
彼はニヤリといたずらっぽく笑うと玲也の頬に頬擦りし始めた。「いてっ!痛い痛い痛い」と悲鳴を上げながら玲也が飛び起きる。それを豪快に笑い飛ばしながら、彼は「おはよう!もうすぐ夕飯だぞ」と告げるが、「ヒゲゴリはやめてって言ったじゃん!」と文句で返す玲也だった。父親がそのまま無言で立ち続けて圧をかけてくるので、何かを察した玲也は慌てて「あ、お父さんお帰りなさい」と挨拶をすると、彼は「うん、ただいま」そう言って満足げな笑みを浮かべて自室に去って行くのだった。
夕飯も終わりかけてきた頃、急に敏也が真顔になって「そうそう、今朝あったことを話しておこう」と切り出した。玲也が母親と顔を合わせると彼女は目を大きく見開いていた。これは、話をちゃんと聞こうの合図だ。母子が軽く頷き合って敏也に顔を向けると彼は語り始めた。
今朝早くに近所の年寄りが川沿いを散歩していたら、川面に人が浮かんでいるのを見かけて119番通報したらしい。通報で駆け付けた救急隊員が川面に浮いている人を引き揚げたものの、すでにその人物には息が無かったとのことだった。救急から警察に連絡がいき、救急隊員が緊急心肺蘇生を試みているところに警察もやってきたそうだ。敏也が野次馬しに現場にたどり着いた時には、警察官が救急隊員から事情聴取しているところだったらしい。その後、警察官は死体の状況を見ながら何やらメモを取った後、救急隊員が救急車に死体を載せて太田市内の救急病院に搬送して行ったそうだ。パトカーが救急車の後を追っていったようなので、おそらく、死因の確認と身元確認をするのだろうと。
敏也が現場の先輩野次馬から聞いた話+彼自身の憶測付きの話だったが、それなりに今朝起きたことの事情が家族内で共有されたのだった。それに対して母親の玲子も夫に対して話はじめた。今朝、電話連絡網で「子供だけの外出をさせないように」という学校からの連絡が回ってきたことを話し始めた。その時の電話での説明では、『事件か事故かがまだわかっていないので、最悪、他殺だった場合は殺人犯がこの辺にいるということになるため、当分の間は安全のために子供だけでの外出は禁止することになった』とのこと。そこまで言われると、玲也も外出禁止の件に納得するのだった。




