島の調査
沈黙を破るようにシマオが言う「キチガイは放っておいて、おれたちは調べ物をしよう」。そういいつつも、シマオの脚は限界を迎えていたので、レイヤはシマオに肩を貸しながら、さっきまで玲子が座っていた場所にシマオを降ろし、神社に向かって右手を見ながら「じゃ、俺はこっちから見ていくから、フジショーはそっち側な」と言い、フジショーは不承不承と言った体で「わかった」と反対側に向かっていった。
レイヤはまだまだ、ませた少年の恋心というやつを理解できないお年頃なのだ。
境内は手入れがなされておらず、草が生えまくってはいたものの、不思議と境内の柵より内側に竹藪はなかったし、木も生えていなかった。丈の低い草が所々に生えているだけで、粘土質な土で踏み固められているようだった。木立と竹藪がものすごい量なので、身長130㎝弱の子供では境内の外を眺めることはできなかったが、身長が160㎝を超えていれば竹藪の向こう側の景色を木立の合間から見ることができただろう。
振り返って神殿の方を見てみると、やはり、かなり年季の入った木造の建造物は全体的に黒ずんでいて、かつて塗装がされていたことを伺わせる塗料の断片がかろうじて木製の壁材に張り付いている様子だった。
瓦の上は苔むしていて、その上には神殿に覆いかぶさるように茂っている樹の落ち葉が積もっていた。積もった落ち葉からなにかの草木の目が出ていたり、小さな苗木が生えていたりするし、草も生えていた
そして視線を下に移すと、レイヤは寒気を感じた。そこには、無数の"人形”があったのだ。ほとんど自然に帰りかけている藁製の人形から、カビなのか、苔なのかわからな色に変色した布製の人形、セルロイドで作られているような西洋人形、そして、一番新しそうなのは塩ビで出来ているような、おもちゃ屋さんで売っていそうな人形やGIジョーの人形?などもあったが、いずれも、着ているものが昔の日本の子供が着せられていたような感じの和装だった。よく見ると、それぞれの人形の懐には髪と紙が挟まっており、紙の方には“田島早希”と書かれていたが、レイヤには“田島早”の部分しか読めなかった。
それらの放置人形たちに不気味さを感じたレイヤは、さっさとフジショーと合流しようとして神殿裏に急ごうと足を一歩踏み出したその瞬間、神殿の向こう側からフジショーの悲鳴とも吠え声ともつかない大声が聞こえてきた。そういえば、あいつ、こういうの苦手だっけ?と思いながらも、さっきまでは自分だって驚きと気色悪さで悲鳴を上げそうになっていたというのに、ついつい、レイヤは苦笑いが出てしまった。