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04

足元に落としたバロウを拾い上げてからお嬢に振り返り親指を突き上げる。


「ふぅ……ナイスアシストお嬢」

「 危なかったじゃない」


 お嬢が俺の背後から出てきて、呆れたように腕を組む。

 ちょっと照れ笑いっぽくレンズをチカっと光らせる。


「いやぁ、久々に使ったんで装弾数の感覚が鈍ってたっす。グレイブもバロウも6発マガジンだったの忘れてて……でも、お嬢のナイスアシストのおかげで助かったっすよ!」

「私が投げなかったらどうするつもりだったの?」

「えっと……脳内CPUの完璧な計算によれば、グレイブを投げることによるドローンへの命中率67%」

「そんなの却下に決まってるでしょ!」


 お嬢が軽く俺の腕を叩きつつ、クスッと笑う。俺もつられてレンズをピカピカ光らせちゃう。お嬢の笑顔、データベースに保存確定だな。


「まぁでも、グレイブとバロウ、やっぱ頼りになりますね。ズドンって感じがたまんねぇっす」

「カイが勝手に付けた名前でしょ、それ。墓場っぽい響きがカッコいいって」

「バレましたか。いやぁ、雰囲気大事っすからね。お嬢もカッコイイと思いません?」


 お嬢は顎に手を当ててグレイブとバロウを覗き込む。


「う~ん。ただの記号でしょ?」

「かぁ~ッ! お嬢! 風情ってもんがないっすよ!」

「サイボーグのあなたがソレを言うの?」


 お嬢は何言ってんだこいつみたいな目線で見てくるけど、そんな目線に屈する俺じゃない!断固として立ち向かう。


「カッコイイ愛武器にはカッコイイ名前を付けるのが男の流儀ってもんすよ!」

「サイボーグに性別はないと思うんだけど」

「それは禁止カードじゃん……」


 余りの完璧なお嬢の攻撃に俺の論理は破綻してしまう。

 絶望に打ちひしがられていると、お嬢はそんな俺を慰めるでもなく気にする素振りもなくブラックボックスを背負い直す。俺はグレイブとバロウを手に持ったまま、ちょっと名残惜しさを感じながら銃身を眺める。グレイブ……バロウ……また補給したらしっかり愛用するからな……。


 テンションの再起動を行い、お嬢に振り向く。


「さてと、お嬢。ヒノモトまであと少しっす。ドローンも片付けたし、そろそろ出発しますか?」

「そうね。もう2%は勘弁してほしいけど」


 お嬢が遠くのヒノモトを見据えながら呟く。その巨大なドームと6本の脚部が、薄オレンジの空にシルエットを浮かべてる。あと数時間もあれば到着できそうだ。


「大丈夫っすよ。センサーで周辺クリア確認済みですし、運が悪くなければ平和に着けるかと」

「またその『運が悪い』って言葉! 不安になるからやめてよね」

「スイマセンでした、お嬢。じゃあ、100%平和に着きますってことでどうっすか?」

「それならいいわ。さ、行くわよ」


 お嬢がスタスタと歩き出し、その後を追う。火星の赤い地面がザクザクと音を立てて、遠くの砂嵐がまだ静かに渦巻いてるのが見える。あれがこっちに来なけりゃいいんだけど。


 ◇ ◇ ◇


 歩き始めてから1時間くらい経った頃、ヒノモトの姿がだいぶ大きくなり時折、地が揺れる。6本の脚部がゆっくり動いてるのが肉眼でもよく分かる。ドームの表面に反射する光がキラキラしてる。お嬢が足を止めて、それを見上げる。


「おー、見えてきたっすね。あとちょっとでシャワー浴び放題っすよ、お嬢」

「そうね。砂埃まみれの髪をどうにかしたいわ。このガスマスク越しでもうんざりするし」


 あぁ。確かに。

 この火星の環境だと、水は貴重だ。お嬢はよく濡れてタオルで体を拭いていた。


「俺もオイル交換楽しみっす。モーターがちょっと悲鳴上げてたんで」

「あなた、オイルまみれのまま私の近くで寝ないでよね」

「えぇー、お嬢の隣が一番落ち着くんすけど?」

「却下!」


 お嬢が俺を軽く睨む。俺はわざとらしく肩を落として「くすん」って音を出すフリ。こういうやりとり、旅の疲れを吹き飛ばしてくれるんだよなぁ。

 その時、聴覚センサーがまた何か引っかけた。ブゥゥゥンって音じゃない。もっと低くて、重い振動音だ。地面が微かに震えてるのも分かる。

 どっちかと言うバババババッって感じだ。


 頭上を見上げると、巨大な2対のプロペラを有するドローンだ。武装も先ほどの暴走機械のドローンとは違って大口径の銃座やロケットなどの武装を各種取り揃えている。そして何より目を引くのはドローンの正面には大きなモニターがあり、そこには文字で表現された表情が写っている。顔文字から察するに、敵意はなさそうだが……。


『そこにいるお二方。ヒノモトへの訪問理由をお聞かせください』


 どうやらヒノモトへの入国審査官のようなものみたいだ。


「各種消耗品の補充と数日間の滞在がしたいの」


 俺がドローンに圧倒されていると、お嬢が手短に用件を告げる。


『なるほど……身分を証明できるブルーユニオン市民権のIDをお持ちですか?』

「はぁ……これでいい?」


 お嬢はフードの懐から、一枚のカードを取り出しドローンにも見えるよう空に掲げる。


『確認できました。お連れの方のIDは?』


 そこでお嬢を見つめていたドローンの視線がこっちを向く。


「こいつはサイボーグ……まぁ私の物よ」

「そんな……お嬢。私の物だなんて……ポッ」

「張っ倒されたいの?」


 てへっ。

 お嬢の突き刺さるような視線を感じる……いや、何のセンサーをもって感じているのかは謎ではあるが。


『? とりあえず物品として登録しておきます』


 良かった。多分話ぶりから察するにあちらも人工知能なのだろうが、俺ほどのユーモアは兼ね備えていないようだ。


 巨大なドローンはゆっくりと高度を下ろし、地面に着地する。

 モニターの部分がゆっくりと開き、中に搭乗スペースと思われる空間が現れる。


「さぁ行くわよ」

「へい。お嬢」


 俺達は巨大ドローンの中へと向かった。

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