8 油断
シオン達はスラスター横に付いていた赤いリボンのついたグランド・セーフティー・ピンを抜き捨てると直下にあるレバーを押し下げて固定した。
するとスラスターから甲高いモーター音が聞こえ始めて出力が上がるたびにその轟音は増していく。
ふと、シオンが胸元にあるそれぞれ感触の違う2つのグレネードポーチを掴んで種類を確かめていると、
『あっ、そうそう、上に着いたら僕が信号弾を打ち上げるからそれが開始の合図だよ』
のんびりとしたソアラの声がシオンの脳内、正確にはヘッドドレスから受信したレーザー無線によって戦場の情報とともに伝わる。
『はい』と短く返事をすると同時にシオンの周りをスラスターから出る青白い光に似た光の粒子のようなものが覆い徐々に体が浮き始め、シオンはまるで水の中にいるように浮き上がりソアラと距離を取ると無線で
『準備完了、いつでも大丈夫です!』
そう伝えると少しの間の後にポンッという軽快な音と共に赤煙を吐きながら信号弾が快晴の空に打ち上がる。
シオンはスラスターを全開にして煙の出所を目印へと向かって空気を引き裂くように飛び始めると
「快晴だから雲の中に入られることもない」
「おそらく最初は正面からの衝突になるはず」
予想どうりソアラの姿を正面に捉えたシオンは小銃を構えて照準をのぞき込む。
ソアラに狙いを定めてシオンがゆっくりと引き金を引くと、連続して体の芯に響き渡るような轟音と共に殴られるような鈍い衝撃がシオンの肩に伝わる。
しかしソアラは直進しながらロールしてシオンの放った弾丸を華麗に躱して、勢いそのままにシオンとの距離を詰め続ける。
「さすが隊長さんです」
「まるで私の心を読んでいるみたい」
「しかし、このままでは銃剣の間合いにっ……」
シオンは射撃しながらギリギリまでソアラに接近して、30発装填のマガジンが弾切れを起こすと同時に右に大きく旋回すると再びスピードを上げる。
ソアラがシオンの背後にピッタリとつき、少し振り向きそれを確認したシオンは大きくジグザグ飛行を始めた。
「よしっ……! うまく乗ってくれました」
シオンは方向転換時にかかる強烈なGに顔を歪めながらもマガジンを捨てて、プレートキャリアから取り出した新しいマガジンを小銃に装填する。
「恐らく隊長さんのスラスターも通常ではありません」
「ですが……あの様子だと出力リミッター解除程度」
「だから……! 」
ジグザグ飛行を続けるうちに同じスピードでも旋回性で劣るソアラが大きく膨れて旋回してシオンを追い越し、先程と位置関係が逆転する。
シオンはソアラの後方15mにつきジワリと獲物を追い詰めるように頃合いを見計らい、ソアラが直進を始めたタイミングでシオンが引き金を引いた瞬間
「あっ……」
ソアラはスラスターの最大出力で逆噴射をすると後方のシオンに急接近して、反応に遅れたシオンの目には透き通るような青い空が映ったかと思うと、今度はやってやったと言わんばかりのソアラの笑みと元シオンの体が見えた。
『負けたんですか……』
『ですが、迂闊です……! 』
ーーソアラのそばにある肉体の手にはパルスグレネードが握られていた。
出せない声に違和感を覚えながらも深い海に飲み込まれるようにシオンの意識は遠のいてゆく……




