3 覚悟
フルクラムは執務室から退出すると、西日の差す執務室はフランカー中将とシオンの二人きりになり、フランカー中将が口を開く
「さて、これからこれから話すのはお主がなぜ急に徴用されたのかを話さねばならん」
そう言うと目を閉じてゆっくりと開きシオンの目を見ると
「近頃戦闘空域に複数体の新型ドレッドノートが確認されておる」
「敵はこちらのファミリアと同じように高度な思考能力や、人に近い見た目をしているばかりでなく、我々も把握しきれていない特殊能力を備えているのじゃ」
フランカー中将はため息をつき、眉間に手を当てると、再び顔を上げる。
「だからこそ同じ『MILSPEC計画』で生まれたお主の力が対抗できる唯一の希望じゃ」
「しかし重大な懸念もある、お主はファミリアとは違い暗号化されたプログラムが使われていてバックアップを取ることができない」
「つまりはお主の破壊は即ち死と同義、言っていることがわかるか」
シオンは膝の上置いた拳を強く握りしめて俯く。
フランカー中将は目を逸らしながらも話し続ける。
「私はまた人の背中を押さねばならぬ、正直私にとって耐えかねることだが、これ以上に辛いのはお主やフルクラムじゃ」
「だから私のこの許しようがない行為を恨んでもいい、だが必ず生きて帰って欲しい」
「もう誰も悲しむ顔を見たくないのじゃ」
静寂に包まれた執務室の中で机に置かれた機械式時計の秒針が規則的に休まず音を立てる。
俯いたままのシオンが不安と決意が混ざり合った表情でゆっくりと顔を上げて
「私には死が想像できません、ただその言葉が私の思考回路を恐怖という感情で支配するだけです」
「でも私には一つ分かることがあります、それは大切なものがわからない世界の恐怖は死よりも辛く長いということです」
シオンは少しためらうような素振りを見せたが続けて口を開く。
「中将の御子息様も大切なものが無くなってしまうのが怖かったのではないのでしょうか」
シオンは真っ直ぐに中将の顔を見るが、中将は目線を下げて乾いた笑い声で微笑すると
「わしは国の為とこの仕事を続けて息子と一緒にいてやれなかった……誕生日だって息子の涙の跡を残した寝顔を見ただけじゃ」
「そのうち息子は士官学校に入学して士官としてわしの部下として着任した、その時気付いたよ『流れた時間』に」
中将は天井を見上げて大きくため息をつく。
「でも気付いたのがあまりにも遅すぎたのじゃ、息子のぎこちない態度に今更関わり方すらわからんかった」
「そのうち戦争が始まり先に言ったとおり戦死した、結局話せたのは事務的な内容だけじゃ」
「息子にとっての大切な人にわしはなれておらんよ……」
夕闇に包まれ始めた執務室の机に置かれた息子の写真を見ながらシオンは
「でも御子息様は士官学校に入学してあなたの下に付き、逃げることもできたであろう戦場に赴いた」
「見返すつもりならあなた以外の下に付いて力を示すことだってできる」
「やはり私にはあなたが御子息様の大切な人に見えます、ぎこちない態度もあなたのように関わり方がわからないかっただけで、それでも一緒に居たかった」
改めて中将の顔を見て優しく微笑む
「御子息様にとってのあなたの存在は何者でもない『父親』、おそらく最初から最後まで変わっていませんよ」
中将は立ち上がり窓の額縁に手を添えて目を閉じ、僅かに窓の隙間から入り込む夜の空気を感じる。
「戦争は残酷じゃな、普段は気づかない大切なことを気づかせるが同時に奪っていく」
「しかしこれからを決めることはできる、わしに出来ることが有れば手を貸させておくれ」




