表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

ハーブティーのあるお店

「じゃあ行ってくるわね、ルイーズ」

「ええ、気を付けてねアリシア。お兄様、しっかりね!」

ライアン様に誘われた私は、セディーレの街中にあるというステンドグラスの綺麗なカフェへと向かう。

いわゆるデートというやつらしい。

「それでさ、ルイーズは子どもの頃からそんな感じで、何にでもあだ名をつけるもんだから・・」

でも先ほどからルイーズの幼少期の話題でお腹が痛くなるくらい笑わせてくれるライアン様との会話に甘くなる、そんな雰囲気は感じられないけれど。

街中まで歩いて数十分の距離も、気持ちの良い山風と、ライアン様の面白おかしい話のおかげで全く疲れを感じずあっという間に到着した。



この地方の特産品だという木材をふんだんに使用した建物が並び、歩道の一部にも加工がされた木材が使用されている。

等間隔に置かれた木製ベンチはとても凝った彫刻がされていて、街並みをぐんと素敵な雰囲気にしている。

ショコラ店にタルト専門店、焼きたてのクロワッサンを売っているパン屋に、搾りたてのフルーツジュースを販売している屋台、とても美味しそうなお店が並ぶ一角、少し奥まった広場の先にそのお店はあった。



「わあ、遠目からでも見事なステンドグラスですね!」

大きな三角屋根の外壁部分一面が色取り取りのガラスで形作られていて、太陽の光がキラキラと反射している。

「そうだろう。店内から見るステンドグラスはとても綺麗なんだ」

早く入ろう、と不意に手首を掴まれドキッと一瞬身を固くした私にライアン様は気付くことなく店内への扉を開ける。

「ベルトランだ。家の者が予約をしていると思うのだが」

出迎えてくれた店員へそう告げると、その店員はステンドグラスの光が当たる窓際に近いテーブルに案内をしてくれた。

「素敵!太陽の陽射しがガラスを通じて柔らかくなって・・、とっても癒されますね!」

真っ白の大理石の床に、陽射しを通したステンドグラスの光が反射していて立ち止まって見入ってしまうほど美しい光景に少しの間惚けてしまった。

「アリシア嬢、すぐそこの席だ。そこからでも見えるからとりあえず掛けないか」

ライアン様のその声にハッと我に返り、椅子を引いてくれているライアン様にぺこりと一礼をして窓際の席に着いた。



「僕たち一家は年に数回セディーレの別荘へと来るんだけど、去年来た時にルイーズが甘いものを食べないと歩けないとゴネ出して、その時にたまたまこの店に立ち寄ったんだ。見事なステンドグラスで僕も見入ってしまったんだよ」

「ふふ、ルイーズに感謝ですね」

「アリシア嬢は甘いものは好きかな?ここのショコラタルトはとっても美味しかったよ」

席に備え付けてあるメニューをライアン様と一緒に見ていると、ハーブティーがある事に気付いた。

「あ、このお店ハーブティーがあるんですね。嬉しい!」

アーリアの記憶が蘇ってから好みも同じになった私は、前世のアーリア同様にハーブティーが大好きだ。

だけれど王都でハーブティーを出すお店はあまりなくて、こうして飲む機会があるというのは久しぶりに感じる。

「凄いです。こんなに種類が豊富だなんて。王都でもこんなにたくさんの種類があるお店は入ったことがありません」

「アリシア嬢はハーブティーが好きだったのか。僕は飲んだことがないけれど、どれがお奨め?」

「そうですね、好みにもよると思いますが、ミントティーやカモミールは大定番だと思います」

凄いわ。

カモミールやミント、レモングラス、ローズヒップなんかは王都のお店でも見掛けたことがあるけれど、このお店は珍しいハーブをブレンドしたものなんかも扱っているのね。

あまり量が採れないものをブレンドにしているのかしら。

どれも知っている種類だけれど、懐かしいわ、マーシュマロウも取り扱っているなんて。

ユリシスが風邪気味で喉が痛いと言った時に淹れてあげたのを覚えているわ。

マロウブルーもあるなんて。

これはアーリアが生前、王都のお屋敷にも植えたくて苗を取り寄せてもらったわね。

でも届く前に死んでしまったけれど。

思い入れがあるマロウブルーがあるのだからこれを飲もうかしら。



「おーい、アリシア嬢。聞こえているか?おーい」

私は向かいに座っているライアン様に、凝視していたメニューをクイとずらされて我に返った。

「すみません。久しぶりの沢山のハーブティーで悩みすぎてしまいました」

「僕はミントティーを飲んでみようかな。アリシア嬢はどうする?」

「そうですね、このマロウブルーにしようかと」

マロウブルーは前世ではセディーレの別荘の温室で育てていたわね。

でも王都のお屋敷でも育てたくて庭師に頼んで苗を取り寄せてもらったのだったわ。

いけない。

ハーブティーに関しては思い入れが強すぎてすぐに意識がそっちにいってしまうわね。



ミントティーとマロウブルー、それとショコラタルトを2つ。

よく店内を見回すと本日のお奨めメニューが板に書かれていて、もう注文をした後だというのに目移りしてしまう自分がいる。

だって私の大好きなお芋を使ったパイがあるなんて知らなかったんですもの。

「このお店は私の大好きなものがたくさんあってワクワクします」

ふふ、思わず笑みが溢れてしまう。

今日このお店に来られて良かった。

こんなに素敵なお店で大好きなユリシスのことを懐かしく思い出せたのだから。



運ばれてきたマロウブルーに添えられていたレモンを一絞り加えた。

「ライアン様、見ていてくださいね!きっととても綺麗ですよ」

蒸らしたハーブティーをポットからガラスのカップに注ぎ、レモンを垂らすと、青紫色だったマロウブルーが桜色に変色した。

「へえ、これは綺麗だな!初めて見たよ」

「でしょう?私もこれを初めて見た時に気に入ってしまって、自宅の温室でも育てたくて・・」

あっ、これはアーリアの記憶だわ。

いけない、興奮してしまって・・

「・・ごめん、アリシア嬢。本当は君がハーブティーが好きなことはルイーズから聞いて知っていたんだ。ほら、以前ルイーズと王都のカフェに行ったことがあっただろう?その時にアリシア嬢がハーブティーの話を楽しそうにしていたと聞いて、このカフェに連れて来たら喜ぶだろうと思ってセディーレに誘ったんだ」

少し俯きがちに、けれど時折上目遣いで私を見つめる視線に不覚にもどきりとしてしまった。

更にテーブルの下から急に私の手をきゅっと握ってくるものだから、私の心臓がドクンとうるさい。



「君が僕に興味がないことは知っているんだ。今回のこの旅だって、きっとセディーレに来たい目的があったから来てくれたのだろう?けれど、僕を君の親しい友人の一人に加えてくれないか。去年アリシア嬢を校内で見掛けた時からずっと素敵な女性だと思っていたんだ」

ライアン様からの思わぬ告白に言葉に詰まってしまう。

多少なりとも好意を抱いてくれているのかもという意識はあったが、こんな風に真剣に伝えてくれるだなんて。

ライアン様の言うとおり、ユリシス以外に男性としての興味はないけれど、私も誠実に応えなければいけないわよね。

少し温くなりかけているマロウブルーを一口ゴクンと飲み込み、小さくふぅっと息を吐く。

「わかりました。ライアン様の仰る通り、今の私はどなたかとどうこうという気持ちはありません。それでも宜しければ仲の良いお友達からお願いしたいです」

きゅっと握られていた手に私のもう片方の手をぽんぽんと置いて応えた。

ライアン様は安堵と照れ臭さが混じったような複雑な笑みを浮かべていたけれど、ありがとう、と頭を下げてくれた。

仲の良いお友達。

これが異性だとどのような関係性になるのか経験値のない私にはわからない。

けれど、ライアン様のことは人として好きだし、一緒にいて不思議と気まずさや不快感は全くない。

それはきっとライアン様の人柄がそうさせるのだろう。

この先どうなるか分からないけれど、私のこの今日の決断は間違っていないと思いたい。

「よろしくお願いしますね」

ふふ、と微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ