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第9話 予習、復習、そして補習!

 前回までのあらすじ。私の名前は諸星愛。少し前までは普通の中学生だったんだけど。

 ひょんなことから魔法少女になって、魔法少女学園に入学することになっちゃった。

 でもその学園は力だけがものをいう完全な能力主義で……なーんて。

 日曜朝にやってる魔法少女ものが始まる前のモノローグみたいなことをしてしまった。


 そんな私は今ケミィ先生から授業の補習を受けている。

 なんせ少し前までは魔法の事なんて一つも知らなかったんだから、ついて行けなくて当たり前だよね?


「いい、アイの呪文は相手に与える魔法よ。相手を思いやる気持ちや、相手を慈しむ感情に反応して発生する。あの盾に関しては、ただ自分を守るだけではなく受けたダメージをそのまま跳ね返すという『相手に与える』特性が付与された結果起きた現象なのよ。……ちゃんと聞いてる?」

「あ、はいはい。聞いてますよ!」

「ではアイの魔法の説明をしてみて頂戴」

「えっと、アイの魔法はぁ、私の魔法でぇす!」


 そうすっとぼけると、先生は困ったように頭を掻いた。


「まあ、そうなんだけどね……。少し集中力が切れているわ。授業中も心ここにあらずって時があるし、何か悩み事があるなら聞くけど?」


 う、バレてる。

 正直学園生活はなれないことが多すぎてとてもキツい。


 教科書の字は全然読めないし(舞ちゃんが都度教えてくれる)。

 ヒルグリム先生が「期待しているぞ」なんて圧をかけてくるし。

 そのせいで他の人からも無駄に一目置かれて、もう大変だよ。


 入学3日目にして早くもホームシックで、アンニュイな愛ちゃんなのでした。


「ヒルグリム先生、凄いでしょ。どの口が言うんだって感じよねぇ」


 私が俯いていると、ケミィ先生はクスクス笑いしながらそう言った。


「え、あ、はい。確かにものすごく掌返しされたような」

「そう。しかもあれ悪意無しの素でやっているのよ。なんの恥も外聞もなくね。基本的に損か特かでしか考えられない人なの。だからあの人のことはあんまり気にしないで」


 損か特かでしか、と言われても限度がある。あの先生は全く人の気持ちを理解していない。

 散々私の事をけなしておいて、私が決闘に勝った途端露骨にすり寄ってきた。

 しかも負けたサリナという子にはあんなひどい仕打ちをした。

 せめて優しく一声くらいあってもいいではないか、と考えてるうちにだんだん腹が立ってきた。


「サリナさんの事を気にしているんでしょう」

「なな、何でわかるんですか? 私、今言葉に出していましたか?」

「顔に書いてあるわ。でも心配しないで。魔法少女はあのくらいでは死なないから」

「で、でも。私、あの子の事をあと少しで……」


 そう。

 私はあのサリナという子をもう少しで殺すところだった。

 後で聞いた話だが、決闘における殺傷有りと殺傷無しは大きく意味合いが違うらしい。

 

 殺傷無しの場合はルールとして決闘場内に魔法の制約が課される。

 決闘中相手が死にそうになったとき、強制的に魔力が遮断される仕組みになっているらしい。

 要するにもしものためのセーフティネットがある。


 殺傷有りの場合は、説明しなくても分かるだろうがルールも制約も一切無しとなるのだ。

 つまり、最初の予定通り決闘を行っていた場合、私はあの子を……。


「結果的に死ななかったのだから大丈夫よ。ね、スマイルスマイル」


 ケミィ先生はとてもやさしい。

 こうして気遣ってくれるし、出来の悪い私にも補習をちゃんとしてくれる。

 ヒルグリム先生なんて期待をかけてくるだけかけてきて後は放置。

 なーんにももしてくれない。


「あの、サリナさんはどうなったんですか?」

「退学になった生徒は魔法少女の力をはく奪され、ここでの記憶を全て消去されたうえで人間世界に戻されるわ。ようするに普通に戻った、ということよ」

「それってやっぱり、私のせい、なんですよね?」


 あの悲痛な叫びが頭の中を反響する。

 まるで全てを失ったような、人生が終わってしまったような、そんな悲しい声だった。


「ええ、そうね。あなたのせいであの子は落第になった。でも、そのおかげであなたはここに入学できたでしょう。それでこうやって魔法の勉強をできている」

「私、そんなことしたくて魔法少女になったんじゃない……」


 しょんぼりしている私の頭を、ケミィ先生はそっと撫でてくれた。


「あなたは本当に優しいわね。その心根は尊重に値するわ」

「や、止めてください! 私、私……」


 下手に優しくされると泣きそうになる。

 私は泣きたくないから咄嗟にその手を払ってしまった。

 するとケミィ先生は私の体をそっと抱き寄せて、ハグをしてくれた。


「大丈夫よ。大丈夫。あなたは何も悪くないわ」

「う、うぅ……。ケミィ先生ぇ」


 ポロポロと涙がこぼれてきた。顔面が熱い。こりゃダメだ。もう止まらない。


「よーしよし。良い子良い子」


 ハグしてくれた上で頭を撫でてくれた。

 とても落ち着く。

 ヒルグリム先生だったら絶対やってくれないだろうなぁ。


「でもね、魔法少女学園にいる限り必ずああいうことは起きるわ。それも一度や二度だけではなく、数えきれないほど体験することになる。ここは、弱肉強食の世界だから」

「ふえぇ。けみぃせんせぇ?」


 唐突な厳しい言葉に思わず顔を上げる。

 それと同時に私の鼻水がケミィ先生の胸元からびよーんと伸びた。

 あらあら、と先生は苦笑いでハンカチを取り出し、鼻を拭いてくれた。


「それにね、魔法少女である以前に、生き物は生きている以上何かを犠牲にして成り立っているの。どう取り繕っても自然界に存在する限り、その法則は必然となる」

「うぅ。よく分かんないですよぅ」


 分かりたくもなかった。

 先生は私の鼻水がこびりついたハンカチを丁寧に折りたたんだ。


「ま、いずれ分かる日が来るわ。今日の所はここまでにしましょうか。明日も授業があるからゆっくり休むことね」


 先生はハンカチの鼻水が付いていない部分で私の涙を拭ってくれた後、席を立った。

 そしてどん、と大量の紙の資料が目の前の机に置かれた。


「あとこれは宿題ね。皆に追い付かないといけない分、しっかりと勉強すること」

「うへぇー。そんなぁー」


 別の意味で涙が出てきそうだ。

 ここに入学してからというものの、普通の学校での勉強量をはるかに上回っている。

 こちとらとっくのとうにキャパシティオーバーである。


「分からないことがあったらシスターに聞きなさい。では、本日の補習を終わります」

「うぅー。ありがとうございましたぁ」


 そうしてケミィ先生の補習は終わり、学園での一日は終わった。

 そしてそのシスターである舞ちゃんなのだが……。


「さぁ、勉強するわよ! 明日は最初からヒルグリム先生の授業なんだから、気合いを入れて予習復習しないと!」


 鬼のようなスパルタ教育なのであった。

 寮に戻ってくるなりこれである。

 ご飯もまだなのでお腹ぺこぺこだ。

 もう私は生きていけないかもしれない。


「ヒルグリム先生の授業を受けられるなんて光栄なことなのよ。あなたはそのありがたみを全く分かっていないわ」

「分かんないよぉ。授業も先生のことも全然意味分かんないー」


 どこがいいのかは分からないけど、舞ちゃんはヒルグリム先生のことをとても尊敬しているらしい。


「私の魔力を戻すんでしょう! さぁ、さぁ、さぁ!」

「ひえぇ。せ、せめてご飯だけでも食べさせてぇー」

「復習の後! ご飯の後は予習なんだからね!」


 そんなこんなで魔法少女学園の1日が終わり、私は溶けるように眠りについた。

 そして息つく間もなく、次の1日が始まる。

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