表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/121

第8話 星の魔法少女サリナ②

 杖先端に付いているハートがビュンと前に飛び出して、目の前で一気に巨大化。

 それはピンク色の壁となって降り注ぐ星々の弾丸を弾き飛ばし、私たちの身を守った。


 アイ・ラブリー・シールド。

 宝石のように固く、強固な壁となって、あらゆる攻撃から誰かを守る魔法の盾。


 私は安堵した。やっと優しい魔法を使うことができた。

 爆発の方の魔法は威力が高すぎて、とてもじゃないが安易にポンポン


「このぉ! アイ・スターライト・シューティングスター!」


 呪文が重ねて打ち込まれてもハートの盾は砕けない。

 鉄壁の硬さで弾丸を弾き続けている。

 しかし、何かがおかしい。

 相手の攻撃が当たるごとに、ハートの盾が段々と熱を帯びて体積が膨れ上がってきている。


 私はちょこっとだけ、指先で触ってみた。


「熱っつ! なにこれ!」


 ゲームを長時間やって熱のこもったスマホくらい熱い。

 このままだと何かやばい気がする。

 というかイヤな予感しかしない。


「ちょ、ちょっといったんストップ! なんかこの呪文、おかしいって!」

「アイ・スターライト・シューティングスター! 砕けろぉ!」


 ダメだ。サリナは完全に頭に血が上って呪文を打ち続けてくる。

 ハートの盾は今にも破裂しそうなほど熱くなり膨れ上がっていた。

 ひっこめようにも後ろに二人がいるから解除できないし、もうどうしようもない。

 ドクンドクン、とハートが赤く点滅し拍動し続ける。

 

 もう限界だ。私は咄嗟に耳を塞いだ。

 瞬間、ハートの盾が空気がパンパンに入った風船みたいにパァンと破裂した。

 ドカーンと激しい爆音とともに、部屋全体が激しい爆発と爆炎で包み込まれていく。

 ああ、短い人生だったなぁ。


「……あれ?」


 私は無事だ。なんともない。後ろにいる二人もなんともなさそうだ。


「ギャアアアアアアアアアア‼」

 

 断末魔のような叫び声が聞こえる。

 サリナだ。

 ハートの盾の爆発が、サリナの体だけを焼いているのだ。


「熱い! 熱いよぉ! 助けてぇ!」


 爆発は前に怪物と戦った時と同じように、相手だけに集中して収束する。

 獄炎がサリナの身だけを焼き焦がす。

 これ以上は、やばい。


「ひっこめ! ひっこめ! この! この!」


 ハートの杖をはたいたり、地面に叩きつけたりした。

 それでも爆発は止まらない。


「ごめんなさい、ごめんなさいぃ! 許してくださいぃ!」

「ま、待ってて! 今助けるから!」


 私は炎の中に生身で突っ込んで、サリナの手を取って中から引っ張りだした。

 私の身体には燃え移らず熱さは感じない。

 しかし爆発の炎はあとについてきた。

 手で振り払おうとしたけど、徹底的に明確にサリナだけを狙って焼き続けた。

 私は熱くないのに、サリナの肌がめくれ上がり黒く焦げてゆく。


「ああああああああああ―――‼」


 極炎の中、ついにサリナはこと切れたように動かなくなってしまった。

 これ以上は本当に、駄目だ。


「ああ、これどうやって止めるの! 誰か助けて! ケミィ先生! 舞ちゃん!」


「魔力が暴発してる! 心の中でで『止まれ』って念じ続けて!」

 

 舞ちゃんの声がした。

 私は言われた通りに念じ続けた。

 止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ。


「お願い、止まってぇ!」


 ピタリ、と爆炎が止まった。

 まるで魔法のように、決闘場を覆いつくしていた火がきれいさっぱり消えてなくなった。

 サリナはぐったりと横たわっている。

 これは私がやったことなの?

 もしかして、死んでいるの?


 いやだ。怖い。

 心臓が激しく跳ねる。汗が噴き出す。

 助けなきゃ。足が震える。どうすればいいんだ。手が震える。まず生きているのを確認しなきゃ。

 歯がカチカチと鳴る。動かなきゃいけないのに動けない。杖が指から零れ落ちる。


 カツカツと速足でケミィ先生が歩いてくる。

 その目はさっきまでのように笑っていない。

 これは違うくて。

 私がやったんじゃなくて。


「け、ケミィ先生、私……」


 声がうまく出ない私を素通りして、先生は倒れているサリナを抱き起した。


「う、うう……」


 と呻き声があがる。

 ということは、生きているようだ。

 よ、よかったぁ。

 安堵していると、ケミィ先生は私の方を見ずに、サリナを介抱しながら言った。


「愛諸星、よくやったわ。期待以上よ」

「え?」


 怒られるかと思った。叱られるかと思った。何かしらの罰を受けるのかと思った。

 でも、私に帰ってくる反応や言葉は全然違うものだった。


 パチパチパチパチ。


 複数からの拍手の音が聞こえる。

 気付けば私たちの周りを沢山の黒いローブを被っている人たちが囲っていた。

 口元に笑みを浮かべ、口々に賞賛の声を上げ、まるで私を祝福してくれているようだった。

 困惑していると、どこからともなく表れたヒルグリム先生が感嘆した面持ちで言った。


「素晴らしい。感服した。まさかこれほどの才能とはな」

「え? なに? 何を言って……?」

「いや、またラボラトリーのやつがゴミでも拾ってきたのかと思ったが、今回は本物だったようだな。先ほどの非礼を謝罪する。許せ」


 この人は何を言っているんだろう。

 私は人を殺しかけたんだよ?


「悔しいけど、あなたの才能は本物と認めるしかないみたいね」

 

 駆けつけてきた舞ちゃんが言った。

 そして周囲から別の誰かの声も聞こえてきた。


「一般出身にしてこの力とは。これは期待できる逸材ですな」

 

 この人は何を言っているんだろう。

 今目の前で人が死にかけているんだよ?


「ふむ。一定以上の攻撃を受ければ、魔力を反転させて受けた分のエネルギーを相手に反射する魔法か」

「しかも周りに一切被害を与えず、攻撃してきたものだけを狙って正確に跳ね返すとは」

「極めて高度な技だが、このレベルの術をその年で使えるなど並大抵の才能ではない」


 やめて。褒めないで。

 こんなことで私を認めないで。


「しかしラボラトリーよ。これほどの才能であれば、わざわざルールを殺傷無しにする必要は無かったのではないか?」

「そうしたのは愛諸星のためではないわ。この子の、サリナ・ユメノのためよ」


 サリナの意識が戻ったのか、バッと起き上がった。

 そしてみるみる今にも泣きだしそうな顔になった。


「あの、ごめんなさ――」

「待ってください! 今のは間違いです! ヒルグリム先生。もう一度、もう一度チャンスをください!」


 サリナは私が謝ろうとしたのを無視して、ヒルグリム先生に懇願した。


「お前には失望したよ、サリナ。直情的な行動、相手の力量を見誤る短絡さ、鍛錬の積まれていない粗末な魔法。お前は、腑抜けた」

「まだ、私はまだ戦えます! ……グッ!」


 蔑むような冷ややかな視線を受けてなお、サリナが立ち上がろうとするが動くことが出来ないでいる。

 その様を見向きもせずにヒルグリム先生は高々と叫んだ。


「この決闘式魔法戦、愛諸星の勝利とする! よってここに魔法少女学園への入学を認める! そして、敗北し落第点となった夢乃紗理奈には、退学を言い渡す」

「い、いや……。いやああああああああ!」


 悲痛な叫びと鳴りやまない拍手。

 ケミィ先生は何も言わず、サリナを抱きしめあやしていた。

 

 何なんだこの状況は。

 何かが違う。何かが間違っている。

 この学園は、何かがおかしい。


「ようこそアイ・モロボシ。私はお前を歓迎する。次は授業で会おう」


 ヒルグリム先生がそう言うと、蝙蝠に囲まれて霧のように姿を消した。

 サリナの涙と惜しみない拍手はずっと続いている。

 私は一人、ポツリとつぶやいた。


「こんなの、魔法少女じゃない……」

続く!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ