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第7話 星の魔法少女サリナ①

「やっと終わった。どうせ時間の無駄だからさっさと棄権すればよかったのに」

 

 サリナはそう言って面倒くさそうにため息をついた。

 この人は私の事を完全に馬鹿にしている。


 こちらのことをなめ切っているというか、ここにスマホがあったらポチポチしてそうなくらいの、そんな心の底から見下してるって感じ。

 イヤな雰囲気。

 魔法少女とは思えない態度だけど一応先輩なんだし、こちらもあいさつくらいはしておかないと。


「あの、初めてなので分からないことが多いですが、よろしくお願いします!」

「はいはい。よろしくよろしくっと」


 私の部活動で得た直角90度の一礼を見ても、どうでもよさそうに前髪をいじっている。

 なんとも感じが悪い。

  こういうタイプの先輩、うちにもいたんだよなぁ。


「それではこれより決闘式魔法戦を執り行う。愛諸星、杖を構えろ」


 ヒルグリム先生に言われ、私は慌ててハートの杖を取り出した。

 しかし手元が滑って地面に落としてしまった。

 焦って拾いあげたが、それを見たサリナはくすくすと笑っている。


「うわぁ。もう失格になってた方が良かったんじゃない?」

「うぅ、ごめんなさいぃ」


 あぁ、不安だなぁ。本当に大丈夫かなぁ。

 助けを求めて後ろを向くと、すでに舞ちゃんとケミィ先生は向こう岸にいた。


「こら! よそ見しない!」


 舞ちゃんに怒られた。

 もうちょっと私にやさしくしてほしいものである。

 不安がまるで払拭されないまま、私はしぶしぶサリナの方を見た。


「愛さん、リラックスリラックスー」


 ケミィ先生の声がした。

 そうそう、試合前なんだからこれくらいの声掛けが欲しかった。

 言われたとおりに肩の力を抜いて、体中の緊張をほぐして。


「それでは決闘式魔法戦、開始!」

 

 なんて言ってる間に始まってしまった。

 ヒルグリム先生の全身が蝙蝠に包まれて、竜巻のように蝙蝠が1か所に集まり、霧散する。

 するとこの場から先生の姿が忽然と消えてしまった。

 蝙蝠たちが全て飛び去ったと同時に、サリナが杖をこちらに向けて呪文を唱える。


「アイ・スターライト・ショット!」


 すると先端の星型が杖から射出され、ものすごい速さでこちらに向かって飛できた。

 私と同じで『アイ』って言ってるな。……ってそんなこと言ってる場合じゃ無い!


「わわわっ!」


 私はとりあえずそれを避けた。速かったけど直線的だから何とかなった。

 でも間髪入れずに次々とサリナが呪文を唱え、次々と星型がびゅんびゅん飛んでくる。


「ほらほらよけてばっかりかー。アイ・スターライト・ショット、アイ・スターライト・ショット」

「ひゃっ! うわぁ! ぐえっ!」


 襲ってくる星の弾丸をかろうじて避ける。

 3回目のは転んで顎を打ってしまったものだ。

 しかし星の弾丸が地面に当たった所が深くえぐれているのを見る限り、直撃を食らえばひとたまりもないだろう。


「逃げてばっかりじゃなくて魔法を使いなさいよ!」


 と舞ちゃんからヤジが飛んできた。

 そんなこと言われましても、怖いものは怖いんだよう。

 どうしようもなく逃げ回っていると、サリナが急接近してきた。


「ミー・スターライト・エッジ」


 杖の星型がパッと消えたかと思えば、サリナの腕に黄色い光の粒が纏りついた。

 よく見ると小さな星型が集まってチェーンソーのように腕の周りを高速で回転している。

 それが直接私に向かってブンッと振るわれる。


「うお! 危な!」


 何とか直前で避けたが、サリナの攻撃はそのまま地面を深くえぐり取った。

 っていやいや、こんなの人に向けちゃダメでしょ。


「ちょこまかちょこまかと鬱陶しいなあ。さっさと私に負けちゃえ!」


 次々と襲ってくる凶刃を、紙一重で躱して避けていく。

 運動神経があってよかった。

 クリケットをやっていなければ即死だった。


「ちょ、ちょっとタンマ!」

「逃げても無駄無駄! アイ・スターライト・エッジショット!」


 サリナの腕に纏われていた星の粒が、一斉に私に向かって襲い掛かってきた。

 しかもさっきのより数段速い。

 ダメだ、避けられない。


「きゃあああああ!」

 

 地面をえぐり取るほどの攻撃魔法が、連続で100発くらい私の全身に直撃した。

 私の体は簡単に吹き飛ばされて、ゴロゴロと地面を転がった。

 崖に落ちるギリギリのところで体が止まり、砂ぼこりが激しく宙に舞う。


「ふふん。呆気なかったなぁ。これで点数ゲットっと」


 サリナは鼻歌交じりにスカートの裾をパッパと払うと、余裕綽々の笑みを浮かべながら背を向けた。


「……い、いったーい!」


 私はむくっと起き上がって体の痛いところを手でさする。

 血は出ていない。幸い傷は付いていないようだ。

 

 それにしても酷いことをするものだ。

 私が魔法少女だったからよかったものの、一般人だったら死んでいたよ?

 お父さんやお母さんに人に暴力を振っちゃいけませんって言われなかったのかな?


 そしてさっきまで余裕綽々だったサリナの笑みが、一気に崩れた。


「な、なんで起き上がってくるの⁉」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔っていうのはこのことを言うんだろうな。

 しかし好き勝手に人を攻撃しといてそれは無いだろう。


「なんでって言われても……。っていうか人に向けてこんなことやっちゃ危ないよ!」

「……ありえない。よけた? いや、ちゃんとあたったはず。呪文を間違えたか?」

「あのさ、先輩。やっぱりこういうのは人として良くないよ。うん。もう決闘なんてやめにしませんか? お互い痛い思いをするのもいやでしょ? ね?」

「ありえない。マジありえない……」


 私が注意喚起していると、サリナがぶつぶつと言いながら距離を取ってきた。

 力をためているのか、星型の杖にキラキラとした光の粒子が集まっていく。

 またさっきみたいにもう一度私に向けて攻撃してくるつもりだ。


 何でこんなことをするんだろう。

 何が楽しくてこんなことをしているんだろう。

 私は不思議で不思議でたまらなかった。


 記憶の中のアニメで見た魔法少女は、みんな友達で仲良しで、キャッキャうふふとしていたはず。

 それがどうだ。この学園では命を懸けて決闘だなんて。

 幼女先輩が見たら泣くぞ。


 心の中で呪文が思い浮かぶ。

「アイ・ラブリー・エクスプローラ」と。


 何やら力を溜めているみたいで隙だらけだし、試しに杖を相手に向けてみる。

 今なら当てられるかもしれない……いや、ダメだダメだ。

 里香ちゃんの時を忘れたのか。

 あんな危なっかしいもの人に打てるわけないじゃん。


「アイ・スターライト・シューティングスター!」


 先ほどよりも大きな星の弾丸が、呪文の文字通り流星群のように大量に迫ってきた。

 何の躊躇もなく何の迷いもなく、容赦なく人を殺せる力が襲ってくる。

 でも私は、今スターって二回言ったなぁ、などと頭の中でのんきにツッコミを入れていた。


「愛!」


 私の名前が呼ばれた。舞ちゃんの声だ。

 もしかして心配して声をかけてくれたのかな。


「いいから! 魔法を! 使いなさい!」


 よくよく見てみると、舞ちゃんやケミィ先生がちょうど私の後ろにいるではないか。

 あれが飛んでくるってことは、私を飛び越して二人に当たってしまうかもしれないじゃないか。

 そしたら地面がえぐれるくらいの威力で吹き飛ばされるってわけで、最悪死んじゃうかもしれない。

 それはだけは絶対ダメだ。どうにかして二人を守らなきゃ。

 そう思った時、心の中に別の魔法が思い浮かんできた。


「アイ・ラブリー・シールド!」


 私はとっさにその呪文を唱えた。

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