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第5話 入学試験! 魔法少女同士で決闘⁉②

 私たちは部屋を出て廊下を歩いた。

 さっきの古臭い部屋と大違いでお城みたいに綺麗な内装だ。

 真っ白でシミ一つない壁、赤いカーペットが床に敷かれ、シャンデリアのような照明が道を照らす。

 服装と相まってちょっとしたお姫様になった気分だ。


 そこを通りながら試験会場に向かう途中、私は気になっていたことを質問してみた。


「ところで私、希望ヶ丘中学校に通ってるんですけどここに入学しても大丈夫なんですか?」

「心配はいらないわ。ここ魔法界はあなたたちがいた人間界とは時間軸が違っていてね。ここでの1時間が向こうでは1分ほどになるの。だからあなたは向こうでの面倒なことは考えず、試験に集中していいのよ」


 何もない壁を抜けて別の通路に出たり、外に出る道と思っていた所から階段が伸びたり、迷路のようになっている魔法の通路を私たちは歩き続けた。

 ちゃんとついて行かないと、すぐに2人とはぐれて迷子になってしまいそうだ。


「そっかぁ。やっぱり魔法ってすごいんだなぁ。あ、でもここにいたら余計に年取っちゃうってこと? それは困るなぁ」

「うふふ。それも問題ないわ。魔法少女の状態であるかぎり、体内を流れる魔法の力で体が老化することはないから安心してここにいて」

「老化しない⁉ それって年を取らないってことぉ! す、すごい……」


 流石、魔法少女っていうだけのことはある。

 ずっと少女のままでいられるなんて、お母さんを連れてきてあげたら泣いて喜ぶだろう。

 もう一家全員でここに引っ越しちゃおうかな。


「のんきすぎよ。言っておくけれど、試験に落ちたらあなたはもうここにいられなくなるんだからね」


 舞ちゃんは嫌みたっぷりにそう言った。

 さっきから言葉の節々にトゲがある。

 仮にも魔法少女なんだからもうちょっと慎みというか手心を加えて欲しいものだ。


「舞さん、あんまり試験前にプレッシャーをかけちゃダメよ」


 ケミィ先生が優しくたしなめる。

 やっぱり大人だなぁ、ちょっと憧れちゃうかも。

 ん、まてよ。

 先生は魔法少女を卒業して魔女になったって言ってたよな。

 てことは今何歳なんだろうか。聞きたいような聞きたくないような。


 なんて考えていると、いつの間にか王様の部屋の前のような立派な扉が目の前にそびえたっていた。

 ケミィ先生が杖を振ると、扉が大きな音をキシキシと立てながら開いていく。

 その向こうには体育館のようなグラウンドのような大きな運動場が広がっていた。

 白線やテープが引かれていない土と砂だけの殺風景な楕円形広場。


 通常のものと違うのはそこが断崖絶壁に囲まれており、両サイドにある入り口から木製のつり橋が掛かっていることである。

 私はその落ちたら死ぬつり橋を恐る恐る前に進んだ。

 建付けがすこぶる悪く、渡るごとにギシギシと足元が揺れる。

 

 下を見ると真っ暗な底の見えない崖が広がっている。

 緊張と怖さで目が回ってきた。

 魔法の学園を名乗るならもっといい設備を使ってほしいものである。


「ねえケミィ先生」

「なあに?」

「手、繋いでもらって良いですか? 橋を渡りきるまででいいので」

「うーん。それはちょっと公平を削ぐわね。怖いのならあなたのシスターに頼んでみたら?」


 ちらりと舞ちゃんの方を見るも、無視するようにそっぽを向かれた。

 私はさささっと移動して、舞ちゃんの横についた。


「ねえねえ、舞ちゃんさん。手を繋いでもいい? ちょっとだけで良いからさ」

「は? 何であなたなんかと手を繋がなきゃいけないのよ。ていうか舞ちゃんさんって何!」

「いやあ、流石にちょっと怖くなってきて。手を繋いでくれたらとても安心できるんだけど」

「ふん。あいにくだけどお断りよ。二度とあなたなんかと手を繋ぐもんですか」


 相変わらずツンケンしてる。

 だって知らない所だと不安が強くなっちゃうんだからしょうがないじゃないか。

 クリッケットの試合前とかなら理香ちゃんとよく手を繋いでたんだけどなぁ。


「お願いだよぉ。先っちょだけで良いからさぁ」

「い、や! そもそもあの女子同士で手を繋ぐ謎の文化だいっきらいなのよ。あんなの馴れ合わないと生きていけないような弱いやつのすることだわ」

「舞ちゃんのケチ! ひねくれもの!」

「ケチでもねくれものでも結構! あなたと手を繋ぐよりはよっぽどマシよ!」


 そうこういってる間に橋を渡りきってしまった。

 もうこうなったらなるようになれだ。


 一人意気込んでいると、崖の下から一斉に大量の蝙蝠が群れを成して飛んできた。

 蝙蝠たちは同じ場所に集まって人の形を作りだした。

 かと思えばすぐさま散り散りになってどこかへ飛んでいく。


 蝙蝠が消えたところには、背が高く目つきの鋭い女性が立っていた。

 黒いローブと黒いロングスカート、黒のロングヘアに黒のとんがり帽子。

 全身黒ずくめでいかにも魔女って感じ。


「久しぶりだな、ラボラトリー。お前が入学の推薦をするとは珍しい」


 魔法の力で現れたであろう黒髪の女性はケミィ先生の前に立った。

 ケミィ先生もけっこう大きいはずなのだが、この人はさらに高身長だ。

 たぶん2mくらいある。

 素直にかっこいい。


「ええ。私が連れてくる子たちはどこかの誰かさんに弾かれてしまいますからね」

「それはお前の連れてくるものにゴミしかいなかったからだ」


 前言撤回。

 人のことをゴミだなんてものすごく感じの悪い先生だ。

 しかも高身長からくる上から目線も相まって威圧感がすごい。


「私は無駄なことが嫌いでね。才能のないものにかまけているほどのリソースは我が学園にはないのだ。それも一般出身者など、時間も資源も何もかも全てが無駄だよ」

「あら、彼女は特別よ。学園長からの許可は取っています。それとも、全ての才あるものに教育の機会を与えるという我が学園の理念を無視するのかしら、ヒルグリム先生?」


 なんだか二人の間でバチバチと見えない火花が飛んでいるようだ。

 ヒルグリムと呼ばれた先生は、ふん、と鼻を鳴らすと体を翻して私の方に近づいてきた。

 頭3つ分ほど高い身長の人に見下されて、重たくて冷たいイヤな視線を感じる。


 はっきり言って怖い。

 私はこういう高圧的な人は苦手なのだ。


「この娘、確かに魔力量は申し分ないが、知性も精神力もまるで感じられない。こんなものに期待をかけるのは無駄以外の何物でもなかろう」


 本人を前に随分な物言いである。

 知性はともかく精神性くらいある。

 なんたって私はクリケット部で次期キャプテンに選ばれているのだから。


 ここまで言われて黙ってなんかいられない。

 文句の一つでも言ってやらないと。


「あ、あの!」

「何だ」

「……あのぉ、私はいったい何をどうすれば良いんですかねぇ? あははー」


 無理だった。

 ギロリって睨んでくる視線に耐えられずついつい怖気づいてしまった。

 ケミィ先生は苦笑い、舞ちゃんはあきれ顔になっている。

 仕方ないじゃん! 私、女の子なんだもん!


「では端的に試験内容を発表する。愛諸星は魔法少女学園二年生であるサリナ・ユメノと決闘を行い勝利すれば合格とする。以上だ」


 ヒルグリム先生がそう言うと、反対側の橋から橙色のフリフリが付いた黄色ベースの衣装を着ている、魔法少女と思わしき黄色いウェーブのかかった髪の女子がやって来た。

 手には先端に星のマークがついている杖を持っている。

 これは魔法少女の標準装備なのだろうか。


 そしてこちらを見て不躾にニヤニヤと口の端を歪めている。

 なんだか感じ悪い。


 ていうかさっき先生は何て言った? 

 何だか魔法少女にあるまじきワードが聞こえてきたような。


「え、決闘って言いました? 戦うの? あの子と? 入学試験なのに?」

「先程言った通りだ。彼女と魔法を使用しての決闘を行い、手段を問わず相手を戦闘不能にした方の勝ち。ルール無用。反則行為なし。殺してもかまわん」


 私はひどく困惑した。

 そんなの正真正銘、本物の決闘行為じゃないか。

 魔法少女として怪物から人々を守るためにここへ来たってのに、これじゃ詐欺にあったような気分だ。

 

「え、ちょっと待って! 殺してもいいなんて、そんなの……」

「なんだ? 文句でもあるのか?」


 無言の圧力とでもいうような鋭い眼差し。

 人を人とも思っていないような冷酷な瞳。

 ビビッて何も言えない私の代わりに、ケミィ先生が苦言を呈してくれた。


「この子はまだ魔法少女になったばかりなのよ。その条件は厳しすぎるのではなくて?」

「これは学園長と私で決めた正式な試験だ。それとも我が学園の代々受け継がれてきた伝統を無視するのか、ラボラトリーよ」

「それでも殺傷有はやりすぎです。もう少し生徒の事を考えて」

「くだらんな。ここで負けるようなら放っておいてもいずれは死ぬ運命だったというだけだ」


 参ったなぁ。

 決闘なんてまっぴらごめんだし、魔法少女になるのやっぱ止めますなんて今さら言えないし。

 私、これからどうなっちゃうんだろう……。

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