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第45話 虹の魔法少女⁉ 七光りのシエル③

 (きら)めく7色の髪。宝石のような虹の瞳。

 大きな虹色のリボンのついた黒いとんがり帽子の下には、お人形のような整いきった端正(たんせい)な顔立ち。

 白のブラウスの上から黒いジャンパースカートを身に着け、いかにも良いところのお嬢様と言ったような姿。

 虹の魔法少女シエル・アン・アークロードは黙っていれば絶世の美少女なのである。


「マイセルフ・ヴィブジオール・レインボーロード‼」


 魔法を唱えるとキラキラと七色の光が彼女の前に道を作る。

 障害物をすり抜け、どんなところにでもかけられる、不思議な魔法の虹。

 その乱立した七色の道を自由に、縦横無尽(じゅうおうむじん)に決闘場を駆け巡る。

 その姿はまるで妖精(ようせい)のようにかわいらしく、美しい。


 自らの作り出した魔法の虹の上を歩くことができる能力。

 とても魔法少女らしく、見栄えのいい能力なのだが。


「ミー・プロトゥインクル・フィスト!」

「へぶっ!」


 魔法の力がこもったジェーンのこぶしが顔面に直撃した。


 シエルの魔法はすり抜け効果があるが、発動している間は必然的に自分の攻撃もすり抜けてしまう。

 そのため攻撃するタイミングですり抜けしないようにしなければならないのだが。

 そのタイミングにうまく合わせられて、逆に攻撃されてしまったのだ。


「へへっ、やっと捕まえたぜ。シエルちゃんよぉ」

「くっそぉ、離せよぉ!」


 移動手段としては有効のだが、攻撃手段としてはいまいち。

 いくら物をすり抜けられるといっても相手にダメージを与えられなければ意味はない。

 決闘相手のジェーンに首根っこを摑まえられたシエルはジタバタともがいた。

 しかし一度捕まってしまえば、もう手遅れだ。

 

「ミー・プロトゥインクル・フロントチョーク!」

「うぎゃあああ!」


 頭の上から首を締めあげられて、たちまちシエルは情けない叫び声をあげた。

 痛みで魔力をうまく練れてないし、呪文を言うひますら与えられていない。


「どうする? 降参か?」

「ムリムリムリ! ギブギブギブ!」


 シエルがジェーンの腕をぺしぺしとタップする。

 勝負が決まった。


「やりぃ! ハッハー!」


 このところいいところがなかったジェーンは久しぶりの勝ち星を挙げて悠々と決闘場を去っていった。

 残されたシエルは顔を地面に着け、おしりを突き出した、なんともみじめな感じになっていた。


「おーい。大丈夫っすかー」


 そこへ友達のズーズーが駆け寄って、ちょんちょんと指先で頭をつつく。

 シエルは戦いのダメージか、ショックを受けているのか、頭を上げようとしなかった。


「ちくしょう。また負けた……」

「これで10連敗っすよ。そろそろ点数がガチでやばいんじゃないっすか?」


 元々成績は下位の方で、途中入学の私と競るくらいの順位だったのだが。

 私の場合ミザリーに勝ったのが大きく、持ち点60が一気に倍の120点。

 大幅に成績順が上昇した一方で、シエルは連戦連敗。

 こちらが心配になるくらいの成績不振である。


 その時パッと決闘場の中央に、クラスの順位表が映し出された。

 見てみると私の順位は23位。下にズーズーの名前がある。


「見て見て舞ちゃん! 私また順位が上がったよ!」

「成績下位には変わらないじゃない。調子に乗らない」


 相変わらず手厳しい。

 しかし順位表を見た魔法少女たちは自分の成績を見て、あーだこーだとざわつき始めている。

 喜んでいる子や落ち込んでいる子。あの子がすごい、あの子が落ちた。

 この光景は半ば魔法少女学園の風物詩だ。


 ちなみに舞ちゃんの順位は5位。前は2位だったけど、魔法少女じゃなくなって大幅に落ちてしまった。

 私は悪いことはしていないのだが、なんだか申し訳ない気分になってしまう。


 そしてシエルの成績はというと、順位は最下位のまま点数は30。

 赤点ギリギリ。それを超えて下回ると退学が危ぶまれる危険なラインになる。


「やべえよ。やべえよ……」

「まあそんなに気にすることないっすよ。わっちだって決闘の勝率はそんなにだし」

「これ以上負けたら、姉さまに叱られる……」

「あー」


 ズーズーが何かを察したようにすすすっと、シエルの元から離れていった。

 それと同時にキャーキャーと黄色い声援が後ろの方から聞こえてきた。


「ごめんあそばせ」


 柔らかなその声に、びくりとシエルの肩が震える。

 そこに立っているのは煌めく虹色の髪、人形のような顔立ち、お嬢様のような魔法少女衣装。


 シエルとそっくり。しかし顔つきは大人っぽくお上品でおしとやかな印象を受ける。

 背もシエルより一回り大きく、まるでモデルさんのように足がスラリと長くてスタイルがいい。

 

「突然お邪魔して大変申し訳ありません。シエル、また負けたようですねぇ」

「ね、姉様……」


 クラスの子たちが「ラルク様ー」とキャッキャキャッキャしている。有名人なのだろうか。

 ラルクと呼ばれた人はファンの子たちに手尾振りながら、スタスタと真直ぐにシエルの方へ赴くと、品の良い微笑みを浮かべた。


「外へ出なさい。理由は、分かっていますねぇ?」

「……はい」


 シエルは力なく返事すると、トボトボとお姉さんについて決闘場の外へ出て行った。

 あの生意気なシエルがこんなにしおらしくなるなんて、 何か訳アリのようだ。


 こういうのを見ると首をツッコまざるを得なくなる。

 私はこっそり二人についていった。



 

「先ほどの決闘。あれは何ですの?」

「はい。ごめんなさい……」

「はぁ……。あなたにはアークロード家の人間としての自覚がたりないのではなくて?」

「ごめんなさい。次は価値化すので、だから……」


 廊下に連れ出されてから、何やらぐちぐちと成績についての事を言われている。

 耳を澄ませている限り、シエルの方は言われっぱなしで何も言い返せていない。

 大人しく怒られて「はい、はい」と繰り返すだけ。

 そのうちにラルクの手が伸びて、シエルの頬を平手打ちした。


 パアンと音が響き、シエルが床に倒れこむ。

 私はいてもたってもいられず、勢いよくその場に飛び出した。


「ちょっと! 何やってるんですか⁉」

「あん? 誰ですの?」


 鋭い7色の眼光が突き刺さって来る。見られているだけでピリピリとした感覚が肌に伝わる。

 近くにいると私でもわかる。この人、他の魔法少女と比べて魔力量が段違いに高い。


「も、諸星? どうして……」

「ごめん。隠れて見てた。あの、ラルク先輩ですよね。いくらなんでも暴力はやりすぎですよ!」


 ラルクは怒っている私を半ば呆れているような目で流し見て、シエルに言った。


「この子はあなたのお友達かしら? いかにも低俗な輩ね」

「あの、友達じゃないです」


 そんな。友達と思ってくれなかったなんて……。

 ってよくよく考えてみると、別に友達じゃなかったな。

 一回決闘したきりだし、何なら嫌がらせを受けていたくらいで。


「と、友達じゃなくてもクラスメイトを心配するのは当然ですよ!」

(しつけ)がなっていない子がいたものねえ。いいわ、なら決闘を」


 とラルクが言いかけると、シエルが手をバタバタと振りながら間に入った。


「ちょっと待ってください! こいつはほんとに何の関係もありませんので!」

「シエル、無理しなくてもいいよ。助けてほしかったら素直に言って」

「助けてなんかほしくない! さっきのはただウチが滑って転んだだけだ!」

「ウソ。さっきお姉さんに暴力を振われて……」

「お前には関係ないだろ! いい加減うっとうしいから消えてくれ!」


 泣きそうな声で叫ばれた。

 私は思わず開いた口をふさいでしまった。


「ふうん。本当にただのクラスメイトなのね?」

「そうです。ウチと諸星は、それ以外に関係ありません」

「そういうことなら、部外者はお引き取り願えるかしら?」


 空気の読めない私でも分かる。

 いくら姉妹だとしてもこの二人の関係はただ事ではない。

 

「……シエル。本当にいいの?」

「ああ。頼むから、もうウチとお姉さまに関わらないでくれ」


 ここまで言われるなんて。

 でもこれ以上、他人の家族事情に首を突っ込むのは無理なのかもしれない。

 当人が拒否している以上、助けることはできないのかもしれない。

 でも。


「分かった。でもね、私はいつでも味方になってあげるから」


 そう私は、シエルの手を取って強く握った。


「なんで? ウチはお前にひどいことをしたのに、なんで……?」

「昔の話はいいよ。シエルは今、困っているんでしょ?」


 シエルの虹の瞳が潤む。少しだけ手が握り返される。

 そして何かを言おうとして、口元がギュッと締まった。


「ごめん。ありがとう。でも、本当にいいから……」


 握っていた手がほどかれる。

 そしてシエルは、ラルクと供に廊下を歩いて行ってしまった。

 姉妹並んで歩いているはずのその後姿は、どこか寂しげに見えた。


「命拾いしたわね」


 2人が去った後、そう舞ちゃんに声をかけられた。

 陰で見守ってくれていたようだ。


「ねえ、あの人って何者?」

「ラルク・アン・アークロード。虹帝の異名を持つ2年生学年3位の実力者よ」


 3位と言うことはとてもすごい人なのだろう。

 でも、いくらすごくても妹にあんな仕打ちをするなんて尊敬はできない。


 一体この学園の強さって、何のためにあるんだろう。

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