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第43話 仲直り①

 

 アルラウネを倒した私たち三人は、いったん学園へと戻ってきた。

 舞ちゃんはアルラウネの生首をホルマリン漬けにするためにケミィラボへ。

 私と先生は学園長に挨拶へ来たのだが。


「よくやりましたねアマンダ。まあ、あなたならあの程度の敵は造作もないことでしょうけど」


 相変わらず学園長は私のことをアマンダと呼ぶ。

 戻ってきてしょっぱなからこの言いぐさである。


 しかもこっちは命がけで戦ったというのに、それをさも簡単だったように言うなんて。

 さすがの私でもカッチーンとくる。

 私、この人の事、嫌いだ。


「学園長、この子は愛諸星です。訂正してください」


 代わりにケミィ先生が怒ってくれた。

 

「あなたがそう言うならそれでいいでしょう」

「あと『あの程度の敵は造作もない』という言葉も訂正してください。この子は一生懸命やりました」

「ふむ。分かりました。大変ごめんなさい」


 学園長はあっけなく頭を下げた。

 うーん、なんかもやる。


 挨拶が終わった後、先生と一緒に学園長室から出た、瞬間に私の怒りは爆発した。


「何なんですかあの人! めっちゃ嫌味言ってくるし、アマンダじゃないって言ってるのにそう呼んでくくるし! 超ムカつくんですけどぉ!」

「ごめんなさいね。あの人本当は悪気はないのよ」

「ぜっっったい悪気ありまくりだよ! 学園長は私のことが邪魔で、いじわる言ってきてるんだ!」


 考えられることは一つ。

 あの人は私がアマンダになってほしいから私の人格が無くなってほしいと思っている。


 それならあの口ぶりも納得できる。

 きっとそうに違いない。


「あのね、学園長は人の気持ちがないだけなの。だからあんまり嫌ってあげないで?」

「あんな人嫌いですよ嫌いって、え? 人に気持ちがないってそっちの方がひどいような……」

「ほら。あの人、呪いで人間の機能を失っているでしょう」


 あ、そうか。そういうことか。

 脳も人間の機能だとすれば、感情もまた人間の機能ってことだ。


「あとね、普段から魔法界や人間界を見て回っているでしょう。だから嫌なものを見すぎて、心が壊れちゃってるのよ」

「……そっか」


 理由を知っても、やっぱりもやもやする。

 うーん、と悩んでいると、突然先生に足を止められた。


「愛さん、危ないわ」


 前を見ると目の前に青空と白い雲があった。下を見ると小さな魔法少女学園。

 ここは学園の遥か上。学園長の部屋は、天空に位置していたのだ。


「な、ななな、なんでこんなところに学園長室があるんですかぁ!」

「言ったでしょう。あの人は上から私たちのことを見ているって」

「だからって本当に空に住む人がどこにいるんですかぁ!」

 

 ケミィ先生がすっともと来た道を指さした。

 やっぱり学園長は、この学園で一番まともじゃない!


 と、下を眺めているとある事に気が付いた。


「……ねえ、せんせい、これって?」

「愛さんは、魔法界を上からのぞいたことがなかったわね。残念ながら、これが現実よ」


 個々の真下には魔法少女学園、その周りには中世ヨーロッパ風の街並み。

 その町をぐるりと外壁がかこっていて、その外には。


「植物……」


 木、草、花。おおよそ視界に入る世界のすべてが巨大な植物によって形成されていた。

 地表には土の代わりに苔がびっしりと敷き詰められ、木々が天を貫くように伸びている。

 海や川までも、水生植物に覆いつくされ、その大半を翡翠(ひすい)色に染められている。

 

 まるで太古の地球を彷彿とさせる植物の惑星。

 そこで食物連鎖の頂点に存在するのは恐竜ではない。


「そう。あれは魔法の森。決して立ち入ってはいけない、花異獣たちが住む森。私たち魔法界の住民は、植物に支配されているの」


 限りなく咲き誇る無数の花異獣を見つめて、ケミィ先生は険しい口調でそう言った。




 そうして、魔法で地上に戻った私は、寮で舞ちゃんと遭遇した。

 相変わらずむっつりとした表情、でもどこか緊張がゆるんでいるような。


「どう、久しぶりの実家は楽しかった?」


 珍しく優しい口調。

 舞ちゃんはやっぱり変わった。


 私のことを恐れているような、気づかっているような。

 前はもっと気軽だったのに。


「ねえ舞ちゃん。舞ちゃんはここ、やめないよね?」

「……」


 無言。気まずい沈黙が流れる。

 それでも私は空気を読まずに言った。


「魔法少女を続けるよね? また私と一緒に勉強してくれるよね!」

「……あなたは、天才だから。私なんかいなくてもやっていけるでしょ」


 すごくつらそうな表情、何とか絞り出したような声。

 違う違う違う。

 私が言いたいのは、そんなんじゃない。


「舞ちゃん。学園を辞めないで! ずっと今まで努力してきたんでしょ? ずっと今まで勉強頑張ってきたんでしょ? ここでやめるなんて、そんなのもったいないよ!」

「いや、私別にやめるなんて一言も……」

「絶対やめる気だったよ! 私、舞ちゃんが荷物をまとめてたこと知ってるよ!」

「あれは断捨離してただけよ」


 あれ、そうだったのか?

 私ってば早とちりしちゃったのだろうか。


「と、とにかく、私は舞ちゃんに残って欲しいの!」

「なんであなたがそこまで?」

「だって初めてできた魔法少女の友達だから! ううん、私ね、魔法少女になる前からずっと友達になりたかったの!」

「ん? え? どうして?」


 言ってしまった。

 案の定舞ちゃんは困惑している。


「だって、だって自分だけ特別って感じの雰囲気を出してて、かっこよかったんだもん!」

「ふ、ふーん。あら、そう」


 舞ちゃんは平然を装っているけど、顔をカアッと赤くしている。

 チャンス到来、畳みかけるなら今だ。


「あのね、聞いて! 私は本当は私じゃなかったの! 私の正体は、伝説の魔法少女アマンダ・アマリリスだったんだよ!」 

「は?」


 さっきと打って変わってトーンが暗くなった。

 完全にいぶかしんでいる。

 

 でも、この機を逃したらずっと本当のことを言えないままになるかもしれない。


「聞いて! 舞ちゃんが私を助けた時に、アマンダって人の魂が私にとりついて、そのまま生まれ変わっちゃったんだって。で、私は私の記憶があるけど、私じゃなくって、ん? あれ?」


 それで何だっけ?

 冷静に考えるとすごいややこしくて難しいぞ。

 舞ちゃんもよくわかってなさそうに首をかしげてるし。


「と、とにかく! 私にアマンダがとりついたときにね、舞ちゃんの力を全部使っちゃったんだって。だから、だから、舞ちゃんが魔法少女になれないのは、私のせいなの……」

「そ、そう……」


 ひどい沈黙が流れた。

 うまく説明できなくてもどかしいけど、ちゃんと伝わっただろうか。


「だから私が強いのは別に私の実力じゃなくって、アマンダの実力で、ええっとぉ」

「要するに、私が魔法少女になれなくなったのがあなたのせいってことね」

「うん。そうみたい……」

「……」


 するといきなり舞ちゃんが、ぐいぃっ、とほっぺを引っ張ってきた。

 

「イテテテ! なにするのぉ?」

「そんなこと知ってたわよ! 伝説とか何とか訳分かんないこと言って、ごまかそうったってそうはいかないんだから!」

「ち、違うよぉ。本当なんだってぇ!」


 舞ちゃんがパッと手を離した。

 私は引っ張られたほっぺたをさすさすとさすった。


「ばーか。別に怒ってないわよ」

「え、ほんとぉ?」

「ええ。あなたの言っていることは信じられないけど、確かにそう考えたらつじつまは合うわね」

「そうなんだよぉ。まいっちゃうよねぇ。あははー」


 再び沈黙が流れる、けど今度はそこまで気まずい沈黙じゃなかった。

 ちゃんと一緒にいて心地いい静かさだった。


「私はね、歴史ある魔術士の家系でね、生まれた時から魔法少女になるように義務付けられていたわ」


 舞ちゃんはそうポツリ、ポツリと語り始めた。

 自分の事を自分から話してくれるのは、これが初めてだ。


「でも生まれつき魔力量が低かった私は、月夜家ではいないものとして扱われたわ。透明な存在だった。でも私は努力して学年2位にまで上り詰めたの。自分の力で、自分自身の実力で、戦いぬいてきた」


 きっとその穴を埋めるためにすごく努力していたんだろう。

 たくさんつらい目に合わされながらも負けずに頑張ってきたんだろう。


 そう考えるとすごく申し訳ない気持ちになった。


「そうだったんだ……。私のせいで、ごめ」

「謝らないで」


 口を人差し指で止められた。

 舞ちゃんは私の目を見て言った。

 力強く、まっすぐな瞳で。


「私は絶対に自分の力で魔法少女に戻って見せる。そしてあなたを超えて、最高の魔法少女になって見せるわ!」

「う、うん」

「だから、別にあなたがこのことで責任を感じる必要はないから」


 そう言ってプイっとへっちを向いてしまった。

 でも舞ちゃんなりに前を向いてくれたんだなってことが、伝わってくる。


「……うん! これからもよろしくね、舞ちゃん!」


 私が右手を差し出すと、舞ちゃんはおずおずと握り返してきた。

 その手をブンブン振ってみると、うっとうしそうに振りほどいてくる。


 気まずかった関係もこれで元通り。

 明日からの学園生活は今よりもっと楽しくなる。

 そんな予感が胸に煌めいた。

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