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第40話 アルラウネ②

「――愛ちゃん、愛ちゃん起きて!」


 聞いたことのある声がする。見たことのある暗闇が広がっている。

 会ったことのある赤い魔法少女がそこにいる。


「アマンダ、さん?」

「わっ。もう私のことを知ったんだね! 最近の魔法少女って展開がはやーい」


 まただ。 私が危なくなった時、死んだ、と思った時に必ずこの人は現れる。

 何かしらの魔法なのかそういった能力なのかは分からないし、いつの間にかこの空間でしゃべれるようになってるけど、なんかもうどうでもよくなってきた。


「さ、愛ちゃん。戦いはこれからだよ! 愛ちゃんのお母さんとお客さんが大ピンチだ! 一緒に悪いアルラウネをコテンパンにやっつけちゃお!」

「もう、あなたがやってよ」


 私は目を閉じたまま、ぶしつけに言った。


「え? なんで? 魔法少女として正義のために戦わないの?」

「だって、私はあなたなんでしょ。よく分かんないけど、伝説の魔法少女っていうんならあなたが全部やれば簡単に敵を倒せるじゃん」

「はぁ。あのさぁ、気持ちは分かるけどもうちょっとやる気出してよね。魔法って感情で強くなるんだからさぁ」

「どうしてあなたは、私にあの記憶を思い出させたの?」


 もしアマンダが私の体を操っているというのなら、私の眠っていた記憶を呼び起こすわざわざ必要はなかったはずだ。

 あんな思い出したくもない嫌な記憶を、掘り起こす必要は。


「だから魔法は感情で強くなるって言ってるじゃん。アイの魔法はね、優しさや思いやる気持ちだけじゃなくて、怒りや憎しみの感情にも反応するの。だからミザリーとの決闘の時は、あなたの生の感情がそのままあなたの強さを引き出したってわけ」


 言われてみると確かにアロエ怪獣の時やミザリーとの戦いのときは、怒りの感情で魔力が強くなった。

 だとしても、そもそもこの人が戦えばいいだけなのでは、という疑問は残るのだが。


「いやいや。確かに愛ちゃんの中にいる魂は私なんだけど、肉体は私じゃなくて愛ちゃんの物なの」

「じゃあ私を強くして、あなたが復活しようとしてるってこと?」

「違うよー。私じゃなくて愛ちゃんが戦わないと意味ないんだって」

「意味ないって、だってあなたが私の力の源なんでしょ?」


 アマンダが首を横に振る。もはや意味分からない。

 こんなの幼女先輩じゃなくたって、ちんぷんかんぷんだよ。


「いーい? 私があのアルラウネとか他の魔法少女とかと戦って勝つのは簡単だよ。でもそれじゃ繰り返すだけなの。おんなじことをまた繰り返すだけ」

「同じこと? 何を言って」

「とにかく! ケミィも言ってたでしょ。愛ちゃんは愛ちゃん。アマンダ・アマリリスじゃなくて、あなたはあなたなんだって」

 

 そうやって自分だけなんでも分かってるくせに、他人に苦労を強要して。

 あげく正論っぽいことを言ってこちらを言いくるめようとして、ほんとズルい人だ。


「もう、いいよ。私がやればいいんでしょ。私がやれば」

「いいね! その意気だよ、愛ちゃん!」


 瞳を開くとまぶしく光が差す。

 太陽のような温もりと一緒に、アマンダ・アマリリスの姿が目の前でほほ笑む。


「じゃ、頑張って! あとケミィにもよろしく」


 私は星をつかみ取る。

 乱暴に、強引に。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 目を開けると、アルラウネの攻撃が当たるギリギリのところで盾の魔法を発動できていた。

 私はまだ、死んでいない。


「あん? 死にぞこないのくせに、あたしの攻撃を防いだ?」

「だあああああああああああああ!」


 私は向こうが返してきた反射攻撃を、そのまま爆発を載せて返した。

 目には目を、歯には歯を、 反射には反射だ。

 

「おもしれぇじゃん。アイ・アイヴィシャス・ウォール!」


 向こうも反射魔法。

 そっくりそのまま私の魔法が、巨大なツタに乗って返ってくる。

 

「まだまだぁ! アイ・ラブリー・シールド!」


 こちらも応戦する。

 向こうの方が実力は上なのかもしれないが、魔法の力自体は負けていない。


 反射合戦だ。


「アイ・アイヴィシャス・ウォールアイ・アイヴィシャス・ウォールアイ・アイヴィシャス・ウォール!」

「アイ・ラブリー・シールドアイ・ラブリー・シールドアイ・ラブリー・シールドぉ!」


 反射するたびに魔法の威力が高まり、速く強くより激しく勢いを増していく。

 狭い室内で魔法合戦のボルテージが、青天井に上昇する。


「キシ! キシシシシ! あたしと張り合うなんて、魔法少女のくせにやるじゃん!」

「わ、ら、う、なああぁぁぁあ!」


 お互い同属性の呪文、アイの魔法は強力だが直線的。

 その優劣は、単純な魔力の差によって決まる。


 私は魔力だけで、この敵とやりあっている。


「ああん、魔法少女さん、これ以上はやめてぇ」


 急に、アルラウネは猫なで声で媚びた声を出した。


「このままじゃ、あなたのお母さんとママが死んじゃうよう」

「……」


 私は絶対に敵から目を離さなかった。


「あれぇ? いつも魔法少女だったらこういうとよそ見してくれるんだけどなぁ」

「舐めないでよ。そんな手に私は引っかからないから」


 私の魔法は人や建物に被害を与えず、敵だけを焼き尽くす。

 反射魔法がその効果をそのまま跳ね返すのなら、私の魔法の効果も適用されるということ。


 そしてこいつは最初に仕掛けてきたように、だまし討ち上等。

 嘘つきで陰湿で残虐な、典型的な敵役だ。


「魔法少女さぁん、お母さんを助けてあげてぇ。キ、キシ、キシシ……ギャハハハハハ!」

「だ、ま、れええええぇぇぇぇぇぇ!」


 シールドの魔法を唱えた瞬間に、盾が砕けて反射だけが残る。

 向こうも同じ、壁が砕けると同時に反射のみが発動する。


 この勝負は、先に魔力が切れて全ての攻撃が乗った反射を丸ごと食らった方が負ける。


「ちっ。アイ・アイヴィシャス・ウォール!」

「アイ・ラブリー・シールド!」


 無駄な会話が無くなった。

 相手に余裕がなくなってきた証拠だ。

 かくいう私にも余裕はない。

 魔力はとっくのとうに底をついている。


 そう、私はもう限界だ。


「ちっ、ウザくなってきたな。もうそろそろ諦めろって! アイ・アイヴィシャス・ウォール!」

「うおおおおおお! アイ・ラブリー・シールドぉ!」


 私の魔力はとっくに限界を超えている。

 でも、私じゃなくてアマンダなら、その魔力は無尽蔵に残っている。


「ちょっとストップストップ! アイちゃん、すとーーーーっぷ!」


 私の口が勝手に開いた。

 私の中のアマンダの人格が焦っている。


「無茶しすぎだよ! このままじゃ私が主人格になっちゃうって!」

「あんだ? 一人で何言ってんだ?」


 アルラウネの頭にはてなマークが浮かんでいるが、説明してやる義理も道理もない。


 私の頭の中の考えでは、私が覚醒すると私の人格が消えて、主人格に入れ替わる。

 現頼、覚醒というものは限界を超えた先に発生するものだ。

 間違っていなければ、限界以上の魔力を出せば私は消失するということ。

 だから私は全力をもって魔法を出し尽くす。


 だってそれが、アルラウネを倒すには最善の選択だから。


「アイ・ラブリー・シールド! フルパワー‼」

「聞いてないし! もー!」


 私の左の口が勝手に開いて、私の右の口が私の言葉を話している。

 私の髪の右半分が赤色に染まっていく。


 私の魔力が膨れ上がるたびに、私は私じゃなくなっていく。


「ん、なんだなんだ? あたしが押されている、だとぉ⁉」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 私の人格が完全に消えようとしたとき、視界の端に私のお母さんが見えた。

 いや、私のお母さんじゃなくて諸星愛のお母さんか。


 ……ごめんね。

 もう私は死んじゃてるんだって。


 でもその前に、魔法少女になったことも話してなかったね。

 魔法少女学園に入ったことも、魔法少女になってからのことも、まだなんにも話してない。


 いや、そもそも最後に自分のことを話したのはいつだっけ。

 部活や学業が忙しくて、近況報告とかが全くできていなかった気がする。


 私はお母さんに育てられた記憶は鮮明にある。

 怒られたことも、一緒に喜んだ来とも、初めてお店を手伝った時のことも。


 全てを自分の事として思い出せる。

 でもそれは私の記憶じゃない。


「お母さん、今まで育ててくれて、ありがとう」


 一言だけ呟く。

 私の冒険はここでおしまい。

 消えるのはちょっと怖いけど、それでお母さんや多くの人が救われるなら、絶対にその方が良い。


 でも最後にもう一度、お母さんと一緒にシュークリームが食べたかったなぁ。


「マイン・アルカナム・クラフトワークス」


 ぴたり、と膨れ上がった反射魔法が空中で止まる。

 かろうじて残っていた理性で振り向くと、そこにはカンカンに怒ったケミィ先生が立っていた。

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