第4話 入学試験! 魔法少女同士で決闘⁉①
私の力が人々の役に立てる。
そう考えるとすごく誇らしげな気持ちになってくる。
しかしヤル気満々な私を見て、他の二人は目をぱちくりとさせていた。
「ちょっとそれ本気なの? ちゃんと考えてものを言ってる?」
舞ちゃんが不服そうな顔で言ってきた。でも私のやる気はすでに満々だ。
「うん、本気だよ。つまり悪い怪獣を退治すればいいんでしょ!」
「怪獣じゃなくて花異獣! 全然なんにも考えてないじゃない! あんな化け物とずっと戦い続けるのよ。命の危険を伴うのよ。遊びでやってるんじゃないのよ?」
「うん。でも私が誰かを助けられるっていうんなら、私やるよ! それに、月夜さんは今魔法少女になれないでしょ。その分も誰かが戦わなきゃいけないんじゃない?」
「うぐ。確かにそうだけど……。あんな扉を潜るだけで怖気づいていた子が続けられるわけがない。魔法少女を舐めてると痛い目に遭うわよ」
なんだか捨て台詞みたいにそう言うと、助けを求めるようにケミィ先生の方を見た。
しかし先生はクスリと笑ってにこやかに言った。
「分かりました。では愛さんはこの魔法少女学園に入学する、ということで大丈夫ね」
「はい! 私一生懸命頑張って魔法少女をやります!」
「いや、はい、じゃないでしょう! 何考えてるんですか⁉」
荒ぶる舞ちゃんをケミィ先生は、まあまあ、とたしなめた。
「本人がやる気なら結構なことじゃない。それに愛さんの言う通り、あなたが魔法を使えない以上、あなたに与えられた役割を別の誰かが果たさなければならない。そうでしょう?」
「しかし、彼女は素人です。昨日まで一般の学校でのほほんとしてたような子なんですよ」
のほほんとはひどい言われようである。
私だってやるときはやるのだ。
「舞さん、魔法少女の力の差に生まれは関係ないといつも言っているでしょう。それに、彼女には素晴らしい才能が眠っているわ。あなたもさっきの戦いを間近で見ていたでしょう?」
「それは、そうですが……。うぅ、分かり、ました」
舞ちゃんはグッとうつむいて、唇を噛み締めた。
そうだ、私はこの子から魔法の力を奪ってしまったのだ。
だったらなおさらその分まで私が頑張らなきゃ!
「さて、私はこれから学園長への報告と愛さん転入の手続きをしてきます。その間ここでゆっくりお茶でもしてて」
ケミィ先生がそう言って杖を振ると、ティーカップが二つ座布団の前におかれた。
そしてポットがふわふわと浮いてきて、カップのなかに紅茶を注ぎ入れた。
「あ、そうそう。たった今から舞さんを愛さんのシスターに任命します。まだまだ分からないことも多いと思うから、先輩である舞さんが助けてあげてね」
「冗談でしょう? なんで私がそんなことを?」
「あなたが適役だと判断しました。私の独断と偏見でね」
「そんな。困ります!」
舞ちゃんが抗議しようとすると、先生は杖を振った。
すると落ちていた1円玉が再び巨大化して、床に先ほどと同じ扉を作った。
魔法って便利だなぁ。
「じゃ、私は行くわ。くれぐれもシスターとして二人仲良く、ね」
ケミィ先生はそう言い残すと、1円扉を開いて中に入っていった。
「待ってください。話はまだ……。ああ、もう!」
舞ちゃんが追いかけようとするが、先生が出ていった瞬間に扉が勝手に閉まって、ぺらぺらの1円玉に戻ってしまった。
こうしてみるとちょっともったいないような。
ぽつんと残された私は、同じく取り残されて床を眺めている舞ちゃんに質問をした。
「えっとぉ、シスターってなに?」
「お世話役よ。新しく転入してきた魔法少女に先輩をつけて基礎を教えさせるようになっているの。ほとんどの場合は上級生が役割を担うのだけど」
そう言って舞ちゃんは四つん這いのまま私の方を憎々しげに見た。
ということは舞ちゃんが色々と魔法少女のことを教えてくれるのだろうか。
だったら仲良くしなくちゃね。
「そか。じゃあ私、月夜さんのこと舞ちゃんって呼んでいい?」
「は? 何で?」
すごい勢いで立ってすっごい目で睨んできた。
でも舞ちゃんはこういうの苦手そうだし、ここは私が率先してコミュニケーションをとらなくちゃ。
「だってシスターってのになるなら仲良くしないと。それともお姉様って読んだ方がいい?」
「絶対に止めて。背筋に鳥肌が立つわ」
「じゃあ舞ちゃんで決定だね! 舞ちゃんも私のこと愛って下の名前で呼んでいいよ」
「馴れ馴れしい、気安い、距離が近い! 言っておくけど私はあなたのことを魔法少女として認めてないから」
ふいっとへっちを向いてしまった。
なかなか手強いなぁ。
「うーん、これが世に言うツンデレってやつですかぁ」
「誰がツンデレよ。全くデレてないでしょうが」
「またまたぁ。恋人繋ぎした仲じゃーん」
「あ、あれはあなたに魔力を譲渡するためよ!」
「ふーん。手を繋ぐと魔力を譲渡? することができるんだぁ。じゃあ私が魔法を使えるようになったら、舞ちゃんに魔法少女の力を返すことができるかもしれないんだね」
「そうよ。だからさっさとあなたには魔法少女になって……はっ」
惜しい、あとちょっとだったのに。
「図ったわね……」
「えへへ。でも私が魔法少女になった方が舞ちゃんも得するってことは確かだよね」
舞ちゃんは少し考え込んだが、すぐに顔を横にふった。
「いえ、やっぱりダメよ。あなたは魔法少女になるべきでは無いわ」
「えー。何でぇ?」
そっちの方が絶対いいのに。
なんだか意固地になっているみたいだ。
「とにかく、ダメなものはダメよ! あなたなんかに頼らなくても、魔法少女の力は私が自分の力で何とかするわ!」
「むー。強情だなぁ」
まあでも下の名前呼びで定着させることができたし、最初はこんなもんかな。
そんなこんなで友情を育んでいると、ケミィ先生が普通にドアから部屋に入ってきた。
「ずいぶんと仲良さそうじゃない。やはり私の目に狂いはなかったようね」
「仲良くなんてなってないです! 先生の目は節穴です!」
先生は直球で節穴呼ばわりされた目をニコニコとさせながら私に向かって言った。
「さて、愛さん。あなたの入学を認めるにあたって試験が行われることになりました」
「えー! 試験だなんて、そんなの聞いてないよぉ」
なんてこった。
試験だなんて私のもっとも苦手なことの一つじゃないか。
これは想定外の大ピンチだ。
もしかしたら魔法少女になれないかもしれない。
「心配はいらないわ。一般の出身は筆記が免除されて実技試験だけなの」
「実技試験だけ? だったら可能性あるってことだよね!」
「そうね。でもその分試験内容は厳しいものになるし、筆記試験は半年後にやることになるからたくさん勉強しないといけないわ」
「うへー。結局筆記もあるのかー。うー、頭がいたくなってきた」
まあ入学してしまいさえすればどうにかなるだろう。
最悪補習を受ければ。
ちょっとウォーミングアップでもしようかと身体を伸ばしていると、舞ちゃんが厳しい口調で言った。
「ちょっと待ちなさい。実技試験の内容を知らないくせにのんきなことを言わないで」
「大丈夫だよー。私、運動神経には自信があるんだ!」
「運動神経って……。あのねえ魔法少女の実技試験っていうのは――」
内容を聞けるかと思ったら、ケミィ先生は杖を舞ちゃんの口元に当てて言葉を止めた。
「ダメよ、舞さん。公平を期すために試験内容は言ってはならないの。分かるでしょう?」
「……はい」
大人しく引き下がっていった。
残念。
そう言えば転入の手続きをしないといけない。
お母さんになんて説明しようかな。
「では試験会場に向かいましょうか。あなたなら肩の力を抜いて自然体で受ければ大丈夫よ」
「よーし、頑張るぞー。おー!」
私はハートのステッキを突き上げて1人気合いをいれた。
ケミィ先生は相変わらずニコニコと優しく微笑んでいた。物腰が柔らかくていい先生だなぁ。
しかし舞ちゃんは唇を尖らせ、聞こえるか聞こえないかくらいの声でボソッとつぶやいた。
「……脳筋」
もしかしたら舞ちゃんはちょっとだけ、口が悪くてひねくれてて性格が悪い子なのかもしれない。
次回に続く!