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第27話 いじわるミザリー①

 決闘が終わり、生徒たちは戦々恐々としながら教室に帰っていった。

 ジェーンはその後保険室に運ばれて、命に別状はないようだ。


 保健室の先生はリリー先生と言って、ナース服の上に黒いローブを身に着けた優しそうな人だ。

 おっきな注射の形をした杖? を持っていて、それをけがや病気した子にぶすっと刺す。

 するとたちまち元気になってしまうのだが、ジェーンは目覚めなかった。


 何度も言うようだけど命に別状はなく、気を失っているだけ。

 魔女である先生の魔法でもすぐに治らないほど、意識を失っているのだ。


「ジェーン、大丈夫かな……」

「気にしなくていいわ。ただの身内同士の争い、仲間割れよ」


 舞ちゃんはバッサリと切り捨てるようにそう言った。同じクラスメイトに随分と辛らつである。


「でも、友達だった子にあんなことするなんて……」

「この学園ではよくあることよ。仲たがいや裏切りなんて日常茶飯事、甘いことを言っていたら足元をすくわれるだけなの。それよりも自分のことを心配しなさい」

「なんかそういうの、いやだなぁ」


 まるで魔法少女モノではなくデスゲーム系の漫画みたいだ。

 そんな殺伐とした所、幼女先輩じゃなくても見たくない。

 とは言ってもミザリーは反抗してきた身内を粛正し、自分の強さを見せつけた。

 これからはさらに私への風当たりが強くなることが容易に予測できた。


 しかし、意外なことにクラスメイトからの嫌がらせは予想に反してぴったりと止んだ。

 ミザリーが何を考えているのかは分からないが、あまりの無風っぷりが逆に不気味に思えた。


 拍子抜けするほど平和なまま本日の授業が終わり、ケミィ先生が教室から出て行った後の放課後。

 やはりというべきか、ミザリーが直々に私たちへ接近してきた。


「なによ。なんか用?」


 舞ちゃんが警戒して前に出る。


「いいや。用があるのはお前じゃにゃい。愛諸星、ちょっと私と付き合え」

「え? 私?」


 何事かと思っていると、ミザリーの取り巻きが私たちの周りを囲んだ。


「どういうつもりかしら? リンチでもしようっての?」

「みいはこいつと話したいと思っただけにゃ。なぁ愛諸星、いいだろ?」


 ミザリーはそう言って私の肩を組んできた。


「いいよ。その代わり、舞ちゃんには手出ししないで」

「待ちなさいよ、愛!」


 止めようとする舞ちゃんを、取り巻きたちが阻む。


「大丈夫だよ、舞ちゃん。心配しないで!」

「にゃははは。決まりだにゃあ」


 そう教室を連れ出された。あくまでも愛想よく、仲良さそうに装って。

 周りから怪しまれないように笑顔を強制されながらも私はただついて行った。


 しかし、ミザリーが向かった先は学園の外であった。

 巨人専用のみたいな大き正門をくぐると、自動的に私たちの魔法少女服がぱっと消えた。

 そのかわりに普通の学校で見るような黒い制服の上にマントを羽織ったような服装に早変わりした。

 今更ながら魔法の学園って感じの要素が出てきたな。


 ちなみにこの時始めて学園を外側からみたのだけど、とにかく校舎が大きい。

 まず巨大な時計台があって、それを中心にぐるりと城壁のような壁がだたっ広い校庭をかこっている。

 

 その周りにヨーロッパ風の街並みが続き、種々多様なお店、そして別の学校が立ち並ぶ。

 よく見ると多くの建物の名前が魔法研究所だったり魔法の大学だったり。

 おおよそ教育に関係するものに占められている。


「愛にゃんは人間界出身だから珍しーかも知れねーけど、ここは学園都市ってやつにゃ」

「がくえんとしって、学校が沢山ある町ってこと?」

「まあ大体そんな感じ。ウチは女子高だけど男子校とかもあるよ」

 

 道行く人も学生服を着ていたり白衣を着ていたりして、やっぱりその手の人が多い。

 しかもただの人ではなく頭が犬猫などの動物だったり、耳が長かったり鼻が大きかったりする。

 人間じゃない種族がそこら中で普通に生活を営んでいて、本当に異世界って感じだ。


「はえー。学園の外ってこんな感じになってたんだぁ」

「にゃははは。驚くのはまだ早いにゃぁ」


 ミザリーはそう言ってその辺にあるお店に立ち寄った。 店の前に置いてあるパネルのようなものに手をかざすと、そこからチャリンと音がして黄色く光る。

 すると何もない空中からポンっと真っ赤なリンゴが出てきた。


「ほら、愛にゃんもやってみー」

「え、あ、うん……」


 愛にゃんとはやけになれなれしい。けどそれはそれとして好奇心が抑えられない。

 私がパネルにすっと手をかざしてみたらピンク色に光った。

 そして目の前におっきなおにぎりがポンと出てきた。


「ここでは魔力がお金代わりになるにゃ。実質タダにゃ」

「へぇ。だからミザリーのは黄色くて私のはピンクだったんだ」

「そういうことにゃ。魔力さえあれば心で思い浮かべた食べたいものが出てくるにゃ。それって愛にゃんの世界の食べ物かにゃ?」

「うん。ひ、ひさしぶりにお米が食べれる……」


 ここにきてからずっとパン食だったためお米が恋しかったのだが、まさか食べられるとは。

 私はパクリとかぶりついた。しかし以前食べていたものと違い、もちもちとした感触ではなく固い感じだった。


「あれ? おいしいんだけど、思ってたのと違う」

「そりゃ素材はここの物だからにゃ。愛にゃんの元居たとことは品種が違うのにゃ」


 味的には近いけど遠い感じだ。そのうち気にならなくなると思う程度の。

 それからミザリーはもう二回パネルを押した。

 すると黄色っぽい何かのドリンクが二つ出てきて、一つ手渡された。

 

「ほい。みいのおごりにゃ」

「あ、ありがとう」

「気にしなくていいにゃ。にゃははは」


 屈託なく笑う顔は年相応の少女そのもので、警戒していた私はなんだかホッとした気分だ。

 しかしそれと同時にあの決闘での残虐な一面を鮮明に思い出した。

 対戦相手の子を躊躇なく魔法の鋭利な爪で引き裂いた。

 いたぶって痛めつけて、そして屈託なく笑っていた。

 

 目の前にある笑顔とあの時の笑顔は、同じなのに同じじゃない。


「なぁ。愛にゃんはいつも舞の奴と一緒にいるけどさぁ、あいつと仲いいの?」

「え? う、うん。いろいろあってね。シスターっていうのになったんだ」


 私たちは大きな噴水の前に座ってまるで普通の学生のように一緒にジュースを飲んだ。

 レモネードみたいな味で、さわやかで普通においしかった。流石におにぎりとは合わないけど。

 近くのベンチにはクラスで見たことある子と年上っぽい女の子が仲睦まじく話している。

 鼻についた食べ物の汚れを拭き取ってあげているが、 あの人たちもシスターなのだろうか。


「ふーん。あいつってまじめだし固いし一緒にいてもつまんないだろ」


 そう思っていた矢先にいきなり悪口だ。

 まあ女の子らしいと言えばらしいけど。


「いや、そんなことないよ! 確かにちょっと捻くれてるけど、でも舞ちゃんってああ見えてすっごい優しいんだよ。なんだかんだで私の事心配してくれるし、勉強も教えてくれるし」

「へー。あいつがにゃあ。みいが前に遊びに誘った時、舞の奴『せっかくのお誘いだけど、私に遊んでいる時間はないの』とか言って拒否りやがったんだぜぇ」

「あはは。舞ちゃんらしいかも……」


 ミザリーは、うげぇ、と嫌そうな顔をした。

 食べ方が意外ときれいで上品だ。

 食べかすを溢していないし口周りが汚れていない。


「しかもプライド高いから他の奴らみたいにこびないしへつらわねえの。」

「そうなんだ。でもそこがかっこいいんだよね! 他の子とは違うって感じ」

「あー。そうだにゃあ。そうかもにゃあ」


 思っていた反応と違ったみたいで、ドリンクをごくごくと飲んで静かになった。

 もしかしたら本当は根は良い子なのかもしれない。


 私は対話を試みた。


「ねえ。なんで授業の時私たちに嫌がらせしてきたのに、今はこんなに良くしてくれるの?」

「嫌がらせ? 何のことかにゃ? これはただの友好の印にゃ」

「とぼけなくてもいいよ。授業前のシエルとかズーズーとか、魔法物理の授業の時も……」

「シエル? ズーズー? そいつら誰にゃ?」


 しらばっくれているのか、それとも本当に知らないのか。

 まだ判断が付かない。


「授業の時も、サラとかジェーンとかを裏で操ってたんでしょ?」

「誰の事だにゃ? みいはそんなモブキャラどもの事なんていちいち覚えて無いにゃあ」


 黒だ。

 分かり切っていたことだけど、この子は私たちにいやがらせを差し向けてきた張本人だ。

 しかも裏で糸を引いて自分の手は汚さない、厄介なタイプのいじめっ子タイプ。

 みんなちゃんと名前があって個性があるのに、それらを全部見ないふりをしている。


「あのね。私はできる事ならミザリーと仲良くしたい。みんなと仲良くしたいよ。でも、さんざん嫌がらせしといていきなり優しくされても、やっぱり私はミザリーの事が怖いよ」

「そうかー。愛にゃんはバカなのかと思ってたけど、意外と考えるタイプなんだにゃあ。反省反省」


 ミザリーは下をペロッと出して、にゃはは、と笑う。

 残虐に人を殺しかけたあどけなく幼い顔で可愛い子ぶっている。


「ミザリーはいったい何が目的なの? 私をどうするつもりなの?」

「単刀直入に言うにゃ。愛にゃん、みいと手を組め」


 そう言ってミザリーは食べ終わったリンゴの芯を道端に捨てた。

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