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第19話 激突! アロエ怪獣大進撃!①

 私たちはケミィ先生の研究所、ケミィラボに急いで駆け込んだ。

 

「すみませーん! 遅くなりましたー!」

「いらっしゃい。よく来てくれたわね」


 そうニコニコとお茶を出してくれた。

 決闘でかなり遅くなってしまったが、先生はそんなに怒っていないみたいだ。


「今日はお疲れ様。いろいろあって大変だったでしょう」

「そうなんですよー。さっきズーズーって子に決闘挑まれてー。昼休みにもシエルって子に決闘を挑まれたしー。それに舞ちゃんったら、魔法少女になれないのに決闘を受けようとして、止めるのが大変でしたよー。あ、ちゃんと決闘は勝ちましたよ!」


 舞ちゃんに睨まれたが、ケミィ先生はニコニコと話を聞いてくれた。

 やっぱりこの学園の中では優しい先生なんだなぁ。

 

「ええ、知っているわ。見事な決闘でした」

「でしょー。もっとほめてー」


 なんて言っていると、舞ちゃんがゴホンと咳払いした。

 とっとと本筋に入れってことだろう。

 

「ところで、用っていったい何なんですかー? 私そろそろ魔法少女っぽいことやりたいなぁ」

「安心して。今回がその魔法少女っぽいことよ」


 ケミィ先生はなんだか含みのある笑顔だ。

 それを聞いた舞ちゃんはうんざりしたような表情になった。


「まさか植物係ですか? 本来なら私がやっていた……」

「ええ。人間界に花異獣が発生しました。あなた達で退治しに行ってもらいます」

 

 久しぶりの人助けだ。

 ここのところ決闘とか勉強とかばっかりで息が詰まりそうだった私は、諸手を上げて喜んだ。


「やったー! 魔法少女っぽい!」

「あなたねぇ、あんまりのんきすぎると本当に痛い目見るわよ」


 舞ちゃんが苦言を呈する。

 さすがに喜ぶのは不謹慎だったか。


「うん。人が襲われてるんだもんね。ごめんごめん」


 頬を両手で張って、気を張りなおす。

 でも許してほしい。なんたって学園に入ってからずっと勉強勉強で息つく暇もなかった。

 たまには魔法少女らしく人を助けて良いことをしたかったのだ。


 ケミィ先生はそんな私に対しては何も言わず、懐から1円玉を取り出した。


「では私が人間界への扉を開きます。舞さんは愛さんのサポートよ。二人とも頑張って」


「はい!」

「……はい」


 私は勢いよく返事した。

 舞ちゃんはあんまり乗り気じゃないみたいだ。


「愛さん、いい返事ね。舞さん、植物係は大変な仕事だからその分責任も点数も上がります。だからしっかりシスターの事を見てあげて。それでは扉を開きます」


 ケミィ先生は一円玉を指で弾き、杖をかざすと巨大化。

 あっという間に空中に人間界につながる黄金のドアができた。

 中を見渡すと、時刻は夜で背の高いビルやマンションが見える。


「あ、でも私たちが人間界に行くとここの時間は進むのがゆっくりなんですよね。だとすると私たちはみんなよりも授業が遅れちゃうってことですか?」

「いい質問ね。でも大丈夫よ。あなたたちを送った後、業務が終われば少し未来の私が扉を開いて迎えにいきます。そしてあなたたちを最初に送った時間の魔法界に戻して、私が個人で元来た時間に戻れば、全員が通常通りに戻れるってわけ」

「はえぇー。だからあの時先に先生が帰ってたんだぁ。あったまいいー」


 よく考えられているものである。

 まるでお父さんが見ているむずかしいSF映画みたいだ。

 でも時間まで操るなんて、魔法って本当にすごいんだなぁ。


「時空間魔法はとても難しいから、まず一年生では無理ね。さ、今こうしている間にも人々が悪い植物に襲われているのよ。無駄話をしている暇はないわ」

「はい! あ、でもなんで先生はついて来てくれないんです?」 

「ごめんなさいね。学園の決まりで魔法少女の成長を促すために、魔女の先生は極力出向かないようにしているの」

「そっかぁ。先生が来てくれたら百人力なんだけどなぁ」


 仕事を全部生徒にやらせるのは教育機関としてどうなのか。

 まあ生徒同士で決闘させてる時点で今さらな話だけど。


 文句を言っていても仕方ない。

 私と舞ちゃんは扉の向こう側に渡った。


 場所はよく知らない所だ。

 スマホを見てみると時刻は8時。

 日付は魔法界に初めて行った日と同じで、まだ全然時間がたっていなった。


「どこかの街のようね。花異獣の発生箇所近くに送ってくれているはずだから、この辺を探すわよ」

「ちょっと待って。流石に夜遅いし、お母さんが心配してるだろうから一応連絡しておかないと」


 あんまり時間がたってないとはいえ、夜のかなり遅い時間だ。

 晩御飯を作って待ってくれているであろうお母さんに申し訳が無い。

 私は「友達の家に泊まる」という旨をLINEで連絡した。

 怒ってないといいけど。


「あなたって、つくづく魔法少女に向いてないわね」


 舞ちゃんは呆れるでも怒るでもない、何とも言えない微妙な表情をしていた。

 なんというかそう、憐れんでいるような顔だ。


「え? でも私には私の生活があるわけで……」

「ええ、そうね。あなたは悪くないわ。それ送ったらさっさと行くわよ」


 なんだか棘があって含みのある言い方だなぁ。

 と、お母さんから『了解』のスタンプが届いた。

 良かった、怒っていないみたいだ。


 私はホッとしてスマホをしまい、舞ちゃんについていった。

 屋上からビルの中に堂々と不法侵入する。

 階段を下りて部屋の中を覗いても人一人いない。


 しかし夜の建物の中というのはお化けか幽霊でも出てきそうですごく不気味だ。

 と言ってもそのお化けのようなものに今から会いに行くわけなんだけど。


「ねえ舞ちゃん、手を……」

「嫌よ」


 即答された。

 相変わらずのデレが一切ないツンツンである。


 ちょっとくらい良いじゃないか、ちょっとくらい。


「あー、だったら何かお話ししようよ。ちょっと気がまぎれるかもしれないからさぁ」

「愛、私はあなたに謝罪しなければならないわね」


 舞ちゃんは振り返ってそう言った。

 すごくまじめな顔つきだった。


「これは本来私に与えられた役割だった。あなたが戦う事なんてなかったの。なのに私のせいであなたを巻き込んでしまった。こうなったのは全部私の責任よ」


 じっと見つめてくる瞳には曇りなど一つもない、澄み切ったガラス玉のような目だった。


 私は、なんだか感動した。

 だって舞ちゃんがそこまで私の事を思ってくれているなんて、心配してくれているなんて思っていなかったから。

 それに比べて私は一人で浮かれて、いつまでも子供っぽくて、なんだかバカみたいだ。


「いいよ! 私が選んだことだし! 私、舞ちゃんの代わりに頑張るからさ!」

「そう。良かったわ。この先に高い魔力を感じる。多分、花異獣がいる」


 非常扉が指差された。

 階にして5階。


 ついに来たかという気分になる。

 私は自分を奮い立たせるために、ハートの杖をぎゅっと握って提案した。


「この扉は私が開けるよ。舞ちゃんはどこか危なくない所に離れてて」

「……分かったわ。じゃあ、どうぞ」


 扉の取っ手に手を掛ける。舞ちゃんの思いを裏切る訳にはいかない。

 杖をギュッと握り締めて勇気を振り絞る。ガチャリ、とドアを開ける。


「グルルルルルルルルル」


 そいつは唸り声を上げて、100坪くらいの大きなオフィスの3割方を埋め尽くしていた。

 側面にトゲトゲの付いた硬く厚い先の尖った葉。細い幹の先にある赤いぶつぶつとした果実のような花が何本も揺れており、根っこでできた足を折りたたみ鎮座している。

 

 多肉植物アロエの花異獣。

 この間の奴よりもグロテスクで巨大なクリーチャーであった。


 私はそっと扉を閉めた。

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