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第15話 聖域の魔女ヴィヴィアン・ヴィヴァレンツ先生

 前回までのあらすじ。同じクラスの魔法少女シエルが舞ちゃんに勝負を挑んできた。

 魔法少女の力を失った舞ちゃんが決闘なんてしたらおおけがしちゃう。

 

 そんな時、私が舞ちゃんの代わりに戦って、見事勝利!

 舞ちゃんが魔法少女になれるまでは、私が舞ちゃんを守らなくっちゃ。

「たはー! 勝っちゃったよー。どうだった? 私の決闘っぷり」

「別に。私が戦っても結果は同じことだったわ」


 決闘に勝ったというのに、舞ちゃんは相変わらずふてくされたような顔をしてツンケンとしている。

 私が勝ったのが気に入らない、というより自分が戦えなかったのが不服なようだ。


 でも魔法少女になれないのに生身で戦うなんて危ないったらありゃしない。

 やっぱりこの子は守ってあげないといけないなぁ、と思ってしまう私なのであった。


 と、シエルが出て行った決闘場の出口から、ほわーっと光の粒がこちらに向かってきた。

 そのまま私の杖に吸い込まれるように消えて、代わりに先端のハートがほんのりと光った。


「なあに、これ?」

「あなたが決闘に勝ったから点数が譲渡されたのよ」


 杖のハートに魔法の文字で40と映し出された。

 前の点数が30点だったから10点上がったってことか。


「おー。やっぱり決闘に勝ったら結構もらえるんだねぇ」

「そうね。ま、殺傷ありの方がより効率的に稼げるけど」


 そう聞くと複雑な気分になる。

 私は魔法少女になりたいだけで、別に殺し合いをしたいわけではないのだ。


「そーいえばさ。あのシエルって子、マイセルフって言ってたけど舞ちゃんの魔法とは違うの?」

「あれは遺伝で発生する珍しい魔法代名詞よ。感情の起伏に反応せず本人の調子に左右されないのが特徴ね。そしてマイン以外の全ての魔法に有利を取れるの」

「有利?」


 私が聞き返すと、舞ちゃんは呆れたように言った。


「昨日勉強したでしょ。忘れたとは言わせないわよ」

「あー、確かアイマイミーの魔法でじゃんけんみたいになってるんだっけ?」


 魔法には相性が合って、アイはミーに強くミーはマイに強くマイはアイに強い、らしい。

 で、マインはどの属性にも相性の優劣はない。って何かのゲームみたいだ。


「まあマイセルフの使い手なんてめったに会わないし、相性がいいといっても彼女のように使いこなせなければ意味がないけどね」

「でもさぁ、3つも相性良いなんて、なーんか特別性って感じでずるいなー」

「そういいものでもないわ。魔力消耗が激しいし、珍しいといっても遺伝の影響が強いってだけで実力があるとは限らない。結局は使い手によるから、そこまで羨ましいとは思わないわね」


 確かに相手の自爆と言う形だが、やけにあっさり勝ってしまった。

 マイセルフの魔法が特別だといっても、あの子が特別弱かったのだろうか。

 

 特別ってことが別にいいこととは限らない。

 舞ちゃんが自分でも勝てるって言ったのはまんざら強がりでもないのかもしれない。


 考えていると、ぐぅ~、とおなかの音が鳴った。

 魔法少女でもおなかが減るのだ。


「じゃあそろそろお昼ご飯を……」

「何を言っているの? もう昼休憩は終わりよ」


 時計を見ると、次の授業まであ10分前になっていた。


「えぇ~。決闘もお昼に含まれるのぉ?」

「あたりまえでしょう。戦場ならいつ敵が襲ってくるかわからないんだから、そんなの関係ないわ」


 私たちは魔法少女だし、ここは戦場じゃないんですけど。

 そんなぶっそうなと言うツッコミを入れる前に、舞ちゃんが走り出した。


「わわっ、待ってよー」


 私もすぐに後を追いかけた。次の授業は白魔術。

 移動教室で、3階にある聖堂室にて行われた。


 あ。ちなみに移動教室っていうのはそのままの意味じゃなくって、移動する教室ってこと。

 場所が定まってなくって学校中のあっちこっちに移動する。

 だから残り時間10分を全部使って探すことになり、ついぞ昼ご飯は食べられませんでしたとさ。


「それでは愛諸星さん、アイの魔法の概要をこたえてくださぁい」


 修道服の上に黒いローブ。下っ足らずでおっとりした話し方。

 しかしその線が細くて繊細そうな顔の上半分には、生々しいやけどの跡が残っている。

 ヴィヴィアン・ヴィヴァレンツ先生は、糸のように細い目をにほほ笑ませた。


「はいはいはい! アイの魔法は与える魔法です!」

「正解です~。さすがに自分の適性となる魔法のことは知っているようですね~」


 ケミィ先生に教えてもらっていて助かった。

 え、あの時聞いてなかったじゃないかって? 

 私だって後でノートを見返すとかしてやるときはやるのだ。

 

「魔法少女には個々人で適正となる魔法の属性があります~。それは主に最初に心に浮かんだ呪文となる場合が多いのです~。最初に思い浮かぶのがアイの呪文だなんて、とても魔法少女向きで素敵です~」

「今褒められた? 褒められたよね? いやぁ、それほどでもぉ」


 舞ちゃんが私のスカートをグイっと引っ張って、座らされた。


「すぐに調子に乗らない」

「はぁい」


 なんとも手厳しい。

 正解したんだからちょっとくらい喜んだっていいじゃないか。


 先生は特に気にしてなさそうに教科書を開いた。

 聖堂室は協会のようになっていて、私たち生徒が座る席は横一列につながっている。

 つまり椅子だけあって机がない。あんまり授業向きの場所ではなさそうだが。


「では今日の授業は精霊学です~。各自召喚魔法で自分の精霊を呼び出してください~」


 精霊学ってことは、もしかして魔法少女モノによく出てくるマスコットの事だろうか。

 マスコット。それは魔法少女に必ずセットでついてくる、かわいらしい生き物

 それはお話をしたりアドバイスをくれたり力をくれたりする、魔法少女に必須の不思議な生き物。


 やっと。やっと、この学園にも魔法少女っぽい科目が出てきた。

 先生の一言でクラスのみんなが精霊を召喚し始める。

 犬だったり猫だったりぬいぐるみだったり。

 それぞれ個性的な魔法の生き物を次々に呼び出している。


 よーし、と私はすごくワクワクしながら腕をまくった。

 魔法少女モノには不可欠なパートナーとのご対面イベントだ。


「いい。召喚魔法を使う時はサモンと唱えるの」

「分かったよ舞ちゃん! いくぞー! サモン!」

「あ、まだ話の途中!」


 私が杖を振ると、ぼわわーんと白い煙が巻き起こった。

 晴れてマスコットとご対面、かと思ったら。


「これが、精霊?」


 空中に大きな丸い火の球が現れた。

 どう見ても生き物って感じではない。

 しかも、それが次第に体積を大きく膨らませているのだ。


「これは火の精霊、サラマンダーですね~。しっかりとした詠唱ではないのに呼び出せるとは~」


 火球がどんどん大きくなっていっているのに、先生は変わらずのんびりとしている。

 教室の天井を覆うくらい大きくなってきた。なんかやばそうな雰囲気だ。


「さすがですね~。愛諸星さん~」

「セリフ続いてたの⁉ ってか先生危ない!」


 サラマンダーさんは無理やり膨らませた風船のように破裂し、ドカーンと爆発を引き起こした。


「また爆発落ちかー! ……ってあれ?」


 爆発したのになんともない。

 伏せていた身を起こすと、ヴィヴィアン先生は杖を掲げていた。


「結界を張っておきました~」


 よく見ると透明な壁のようなものが私たちの周りを取り囲むように張られていて、爆発の火から生徒全員を守っていた。


「魔力を与えすぎると暴走してしまうので、気を付けてくださいね~」

「は~い」


 あまりにものんびりとしているから、ちょっと話し方が移ってしまった。

 おっとりしているけど、やっぱり先生はすごいんだなぁ。


「本日の授業はここまでです~。ご清聴ありがとうございました~」

「ありがとうございました~!」


 魔法少女たちはのんびりとしている暇はない。

 すぐに次の授業に向かわなければ。


 生徒たちが出て行ったあと、ヴィヴィアン先生は自分の張った結界を見つめた。


「……」


 ミシリ、と音が響く。

 その魔法の結界に入ったヒビを見た先生の糸目が、少し見開かれた。

続く!

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