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第13話 虹の魔法少女⁉ 七光りのシエル ①

 私たちは食堂におもむいた。

 色とりどりの魔法少女たちが大勢で押し寄せて行列を作っている。

 これは時間がかかりそうだ。


 並んでいると虹色の髪をした少女が、私と舞ちゃんの元に近づいてきた。

 人形のような幼い見た目で、肌も白くて目がぱっちりとしている。

 外国人なのだろうか。そして特徴的なのはやはり虹色の長髪。

 綺麗でキラキラしているけど、長時間見ていると眩しくて目が疲れてくる。


「よう舞、聞いたぜ〜。お前、魔法少女になれなくなったんだってなぁ」


 いきなりの煽り口調、不躾な物言い。口を開いた時に奥の八重歯がきらりと光った。

 最初に抱いていた印象と違って、残念な気分になる。


「何よ。いきなり話しかけてきて。私はあなたとお友達になった覚えはないのだけれど?」

「はっ! やけに強気じゃん。いいのかなぁ、そんな事言ってさぁ」


 私を間にして双方にらみ合う。

 なんとも魔法少女にあるまじきギスギス感である。

 正直こういう雰囲気は嫌いなので、間に入って場を和ませることにした。


「あのー、どちら様でしょう?」

「あん? 誰だお前?」

「えーっと、私の名前は諸星愛。いや、愛諸星? どっちで名乗ればいいのかな?」


 そもそもここって日本なのか日本じゃないのか分からない。

 言葉は通じるけど、人種もマチマチだしファーストネームを先に呼ぶし。

 異世界って言ってたけど本当は海外なんだろうか。

 アメリカ? イギリス?


「ウチの名前はシエル・アン・アークロード。誇り高き名門アークロード家の出自、七光のシエルだ!」


 シエルは誇らしげに腰に手を当てて、張った胸をドンと叩いた。

 ていうか七光ってそれ悪口なんじゃ……。


「えっとシエルちゃんはどこの国の人なの? あ、私は日本人だよ。あいむじゃぱにーずぴーぷる」

「なんだ、一般の出か? ウチは魔法界出身だ。お前みたいな下賎なのと一緒にすんな。ビンボーが移る」


 何ともこちらをバカにしたような態度だ。

 今時出身地が違うだけでそんなに言うか。


「私んちはそんな貧乏じゃないよ。両親共働きだし、お母さんは自営業やってるし」

「はっはっは! そーいう底辺の会話はウチ分かんねーわぁ。共働き? 自営業? それでぇ?」


 うちがあんまり儲かってないのは事実だが、面と向かって底辺と言われたら誰だってむっと来る。

 何か言い返さなきゃ。


「そんな事ないよ! 3食ご飯は出るし、年に一回くらい旅行連れてってくれるし。あとあと犬も飼ってるし!」

「あー、はいはいすごいすごい。ウチはユニコーン飼ってるよ」


 ユニコーン。

 翼の生えた馬で伝説上の生き物。現実にはいないけどここには存在するのか。


「え、ユニコーン⁉︎  すごーい! 見せて見せて!」

「しょーがねーなー、ちょっとだけだぞ……って、話が脱線しまくってる! ウチが用あるのはお前みたいなビンボー人じゃねえ! お前だ!」


 シエルはそう言ってビシッと舞ちゃんを指差した。


「あいにくだけど私にはあなたにかまっている暇は無いの」


 舞ちゃんは毅然とした態度だ。

 クールなのはいいけど、ケンカ腰の相手にそれは逆効果だ。

 案の定、シエルは憎々しげに表情を滾らせた。


「バカにしやがって……。ウチと決闘しろ!」


 決闘って、もしかしてあの殺し合いみたいな事するのだろうか。

 それも魔法少女になれない相手に?

 そんなの受けるわけないだろうと思っていると、舞ちゃんはムッとした顔で口を開いた。


「望むところよ。その決闘受けて……ムガッ!」

「ちょーいちょいちょいちょい! ちょっと待った!」


 私は慌てて舞ちゃんのあまりにも好戦的な口を押さえて、後ろの方に連れて行った。


「何するのよ!」

「いやいや、何受けて立とうとしてんのさ⁉︎ 死んじゃうって!」

「魔法少女になれなくても少しくらいは魔法を使えるわ。それにあんなのに負けたんじゃ月夜家の名が廃る」

「あんなのって……どうしてそう好戦的かなぁ」


 全く私にはわからない感覚だ。

 決闘に勝つことがそんなに大事なのだろうか。


「あのね、申し込まれた決闘を断れば、自分のポイントを差し出さなきゃいけないの。それも相手が提示する分、上限なくいくらでもね。だったら受けて立った方がいくらかマシなのよ」

「でも死んじゃったら元も子もないよ。ここは私に任せて」


 私は咳払いをしてニコニコとしながらシエルの方に向かった。


「ねえシエルちゃん、そんな事よりお話ししよーよ。私の家の飼ってる犬はタマって言ってね、猫みたいな名前なんだけど犬なんだよ。あ、芝犬だよ。分かるかな、茶色い毛並みの尻尾がクリンとしたやつ。毎朝散歩に連れて行ってあげてるんだけど、小屋の中から一歩も出ようとしなくてねぇ、私がいっつも引きずって連れてってあげてるの。それでね!」


「おい舞、こいつなんなんだ?」

「そんなの私が聞きたいわ。場所を変える?」


 駄目だ。

 二人とも私の超絶技巧抱腹絶倒トークに聞く耳持ってない。


「話だけでも聞いて! 二人とも喧嘩はダメだよ! 決闘なんて危ないよ! 決闘って犯罪なんだよ!」

「はあ。お前この学校に何しに来てんだよ?」

「何しにって、そりゃあ魔法少女になりに?」

「その魔法少女であり続けるために決闘しなきゃなんねーんだろ」

「いや、魔法少女って普通決闘しないよ! いい、魔法少女っていうのは人々を魔法で助けて……」


 私は持てる全ての知識を開放して魔法少女の素晴らしさを教えてあげようとしたが、二人に軽く無視されてしまった。


「じゃ場所変えるか」

「そうね」


「世界中に夢と希望を、ってちょいちょいちょーい! 話は終わってないよ!」


 教室を出ようとする二人を、両手をバタバタとさせて通せん坊する。

 するとシエルはけだるげそうに後ろ頭を掻いた。

 きれいな虹色の髪が無造作に振り乱される。


「あー、もう! そんなにいうなら代わりにお前が決闘するか?」

「なっ、待ちなさい! この子は関係ないわ!」

「でもこのままじゃ埒があかねーぜ。だったらこの一般人ちゃんに世間ってものを教えてあげねーとな」


 いつの間にか私が決闘する流れになってる。

 めちゃくちゃ嫌なんだけど、でも。


「いいよ、決闘しよう。その代わり、殺傷は無しね」


 今度は私が舞ちゃんを遮って言った。

 シエルがニヤリとほくそ笑む。


「な、何を勝手なことを!」

「大丈夫だって。私が上手いことやるからさ」


 ケミィ先生は言った。平和を望むなら平和を勝ち取れ、と。


 私は痛いのは嫌だし危険なのはごめんだけど、人が傷つくのはもっと嫌だ。

 それに多分舞ちゃんはほっといたら無茶しちゃいそうだし見ていて危なっかしい。

 痛いのは嫌だけど魔法少女の私なら死にはしないだろう、 多分。


「で、お前はウチに何を要求するんだ?」

「要求? 勝ったら何かくれるの?」

「おいおいそんなことも知らねーのか? 決闘するときはまず最初に敗者が勝者に献上するも物事を決めるんだよ。で、敗者はそれに従わなきゃならねーの」

「そっか。じゃあユニコーン見せてよ! ユニコーン!」


 伝説上の生き物なんてめちゃくちゃ見てみたいに決まってる。

 やっぱり馬みたいに乗れたりするのだろうか。


「ああそう。ならウチが勝ったら、舞と決闘する権利をもらう!」

「え。それってつまり、私が負けたら舞ちゃんはあなたと決闘するってこと? 」

「それ以外に何があるんだよ」

 

 なんてこった。

 わざと負けて場を納めるつもりだったのに、これじゃあ絶対に勝たなきゃいけないじゃないか。


「どうする? 受けるか? それともしっぽ巻いて逃げるか?」

「え、えっと、その前に質問。決闘でもし仮に勝負がつかなくて引き分けだったらどうなるの?」

「お互い何も無し。それか別の日に仕切り直しだ」


 それなら引き分けに持ち込めばいいか。

 できるかなぁ、私結構不器用だからなぁ。

 でもその場合お構いなしに舞ちゃんが決闘挑まれるかも知れないからなぁ。


「じゃあ、私が勝ったら舞ちゃんに決闘挑んじゃダメだよ」

「ユニコーンはどうするんだよ」

「あー、見たかったけどぉ……。しょーがないそっちは諦める!」

「決まりだな。じゃあヒルグリム先生のとこに決闘の許可を取りに行くぞ」


 あの先生かぁ。苦手なんだけど舞ちゃんを守るためには致し方ない。

 しかし当の本人は不服そうにこっちの方を睨んでいた。


「勝手に決めて……。もし負けたらどうするつもりよ」

「うーん。勝たないといけないからなぁ。なるべく穏健に勝って、最悪引き分けに持ち込むよ!」

「そううまくいくかしら。彼女もああ見えて魔法少女なのよ」

「でも舞ちゃんの力を奪っちゃったのは私だから、責任はとるよ! だから私に任せて、舞ちゃんは危ないことしないで!」


 私なりの決意表明をすると、舞ちゃんは観念したのかため息をついた。


「はあ、分かったわ。私が魔法少女になれるようになるまでの間は、あなたに任せる。でも私の代わりに戦うというのなら、負けるのは許さないわよ」

「うん。私に任せて! とは言えないけど、頑張ってみるよ。それに舞ちゃんの力をもらってるんだから、私は実質舞ちゃんくらい強いってことだもんね」

「どうかしら……」


 やっぱり舞ちゃんは気乗りしていないみたいだ。

 正直私だって不安でいっぱいだけど、なぜだか何となく何とかなる気がしていた。


 一応入学試験で私は上級生に勝てるのだ。

 2年生に比べれば同じ1年生同士だし、普通に考えれば先日よりは難易度は低いはず。


 でもやっぱり、怖いものは怖い。

 魔法少女同士の決闘なんて、本当はやりたくないんだけどなぁ。

次回に続く!

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