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第12話 毒薬の魔女シリンジ・メディスン先生

 怪しく薄暗い部屋の中。ぐつぐつと煮立った紫色の液体の入った大きな鍋。

 シリンジ・メディスン先生がぐるぐるとかき回している。


 尖った鼻としわしわな顔、腰が曲がり背が低くぼさぼさの白髪がとんがり帽子から飛び出ている。

 緑のローブに身を包みいかにも悪い魔女ですと言うようなニヒルな笑みを浮かべた。


「ひぇっひぇっひぇ。舞諸星、マインの魔法の概要を答えておくれ」


 私と舞ちゃんの名前と苗字がごちゃませだ。

 一体どっちを呼んだんだろう。


「あなたが呼ばれたのよ」と舞ちゃんが私を肘で小突いてくる。

 えーと、確かマインってケミィ先生が使っていたあの凄いやつだけど。


「えっと、物を操る魔法です」

「ウヒヒヒヒ! 半分は合っているのう。マインの魔法は束縛の魔法じゃ。欲望や願望といった人間の本能的な感情によって発生する。他人や物の持つ魔力に自身の魔力を送り込み、そのものの持つ魔力を増減させ、使役し、操り、我が物とする。4つの呪文において原初となる魔法なのじゃ」


 シリンジ先生はそう言ってカエルやらクモやら小動物の死骸を鍋の中に入れ始めた。

 それらは一瞬で溶けて骨も残さず謎の液体の中に溶けていく。

 おえぇ。


 シリンジ先生の授業は魔法薬学。

 いろんなお薬を研究して作る、とっても魔女らしい学問である。


 はて、魔法少女とは?


「マインの魔法を魔女は好んで使う傾向にあるが、完全に使いこなすには鍛錬が必要じゃ。まだまだお主にはできんよ。さぁ、できたよ。たーんとお食べ」


 トン、と目の前に紫色をした謎のスープの入ったお皿を出された。

 ポコポコと泡が煮だって小動物の小骨が浮いている。

 

 いやこれを、たーんとお食べ、なんてかわいく言われましても。


「いただきます」


 と舞ちゃんは間髪入れずに目の前に置かれたお皿を手に取り、ごくごくと勢いよく飲み始めた。

 そして口の中いっぱいに含んだ状態で、涼しそうな顔をして言った。


「ふぁやくあなたも飲みなさいよ」

「いや、無理無理無理!」


 さすがに見るからに毒物だと分かるものを口に入れるのは本能的に拒否感がわく。

 でも他のみんなも飲んでるし、案外おいしいのだろうか。


 イヤだなぁ、怖いなぁ。

 でも遠くの方で笑っているシリンジ先生も不気味で怖いんだよなぁ。


「ええい、ままよ!」


 私は意を決して紫色の謎スープに口を付けた。

 その瞬間、かつて味わったことの無い苦みが口の中を襲った。


 ピーマンとかゴーヤとかそんなレベルじゃない。

 風邪薬と青汁と苦虫をすりつぶして混ぜてような、ひどい苦さであった。


「まっずぅ! おえぇぇぇ」


 ちょっぴりだけでも、もう吐きそうだ。

 私だけなのかと思ったけど、他のみんなもげんなりとした表情をしている。

 

 舞ちゃんはよくこんなの一気飲みできるなぁ、と思ったけどよく見れば顔が青くなってる。

 呑み込めないでいるのか、頬を膨らませて体も小刻みに震えてる。


 ちょっとした悪戯心がムクムクと湧いてきた。

 膨らんだ舞ちゃんのほっぺたを指でツンツンっとしてみる。


「ン―――!」


 怒った舞ちゃんに頭をシバかれた。痛くないけど謎スープをちょっと溢しちゃった。

 その後舞ちゃんはゴクリゴクリと口の中に残っていた液体を飲み干し、今度は顔を赤くしてさらに怒ってきた。


「なにすんのよ!」

「だって、舞ちゃんの顔がハムスターみたいになってて可愛くて、つい」

「か、かわっ……。ついじゃないのよ、このバカ! あなたもさっさと飲みなさいよ!」


 舞ちゃんは私の口を掴んで無理やり開き、紫色の液体を直接流し込んできた。


「ンむ―――! 止めでぇぇぇ」

「ほらほら、もっとゆっくり噛みしめるように味わいなさい」

 

 少量ずつ流し込まれ、もぐもぐと咀嚼させられた。

 苦い、苦すぎる!


「ひどいよう。まずいよう。舞ちゃんの鬼ぃ」

「何を言っているの。魔法薬学専攻のシリンジ大先生に作っていただいた特別な食薬スープなんだからね! ありがたーく飲むなさい!」


 そんなにすごい先生なのだろうか。

 確かに威厳というかただものではない感じだけど。


「良薬は口に苦し! ヒーヒッヒッヒ!」


 シリンジ先生はみんなが苦しむ顔を見て、面白おかしく笑っていた。

 なんだか魔女に近い見た目の人ほどまともじゃない気がする。


 あ、でも謎スープを飲んだらなんだか体が軽くなった。

 授業の疲れが吹っ飛んでいったようなさわやかな気分だ。


 口の中は喉奥まで苦いけど、どうやら先生の実力は本物なのかもしれない。


「ひっひっひっ。次はお前たちにも同じものを調合してもらおうかのう」


 材料を混ぜ合わせるだけなら私にもできそうだ。

 家庭科みたいなかんじなら、たまにお母さんの料理を手伝っている私にとってはお手の物だ。


 沸騰する鍋に、トカゲとかキノコとかの謎材料をつまんで入れる。

 そして鍋に火を掛けようとした、が当然のようにガスもコンロも無い。


「魔法を使っての調合に決まっているでしょう。さ、魔力を練りなさい」


 やっぱりそう言う感じですかそうですか。

 私は杖をかざして、ふんっ、と力んだ。


 すると鍋がぐつぐつと煮立ってきた。

 これは成功したのではないだろうか。


「やったぁ! できたぁ!」


 しかし喜んだのもつかの間、鍋の中の泡がぐつぐつを通り越してぼこぼこと鳴り始めた。

 何だかやばそうだ。


「ストップストップ! 火力が強すぎよ! もっと抑えなさい!」

「今抑えてるよう! 止まれ止まれ止まれ……ああー‼」


 ついに抑えきれなくなった鍋が爆発してピンク色のきのこ雲が教室中を包んだ。

 すると連鎖するようにほかの人の鍋も爆発していった。


 大惨事である。

 床や壁に色とりどりのスープが飛び散って、教室中がカオスなことになっている。

 もくもくと煙が上がり、あのとてつもなく苦い味が再び臭いとなって体内に入ってくる。


「ヴォエ!」


 目が痛い。鼻が痛い。唇が痛い。

 なんだか肌までピリピリしてきた。


 みんなゲホゲホとむせてえづいて咳き込んでいる中、シリンジ先生はニヨニヨと笑っていた。


「ヒッヒッヒ! 派手にやらかしたのう」

「ご、ごめんなさい。また失敗しちゃった……」

「失敗? お主は何を言っておる」

「どういうこと……? あれ、なんか体が軽い?」


 冷静になってみると、体のコリや疲れが全部なくなっている。

 目がすっきりして、鼻詰まりが解消されて、口の中がさっぱりした。


「そりゃ主成分が同じなんだから効能も同じじゃろう。調合自体は成功じゃな」

「じゃ、じゃあ合格ってこと?」

「ま、大まけにまけで合格にしといてやろう」

「や、やったー!」


 セーフ。

 ギリギリ首の皮一枚つながった感じだ。

 前二人の先生と違って、見かけによらず優しい先生でよかった。

 キンコンカンコンとチャイムが鳴った。

 ようやく昼休みだ。もうお腹はペコペコである。


「よしご飯食べ行こ! ごはん!」

「ちょっと引っ張らないでよ!」


 魔法少女たちは授業が終わったと見るや、速攻で教室を出ていった。

 教室に残った先生は爆発した鍋の中身を見た。


「しかし話には聞いていたがあの才能、末恐ろしいもんじゃのう」


 そこには全ての食材と液体が取り除かれた、新品同然の鍋が教室中に残されていた。

続く!

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