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第11話 熱血の魔女アテナ・スパルティウス先生

 ヒルグリム先生はきっちり時間通りに寸分の狂いなく授業を終えた。 

 やっと解放されたと息つく暇なく、魔法少女たちは別の教室へ一斉に大移動を始める。


 設備に魔法が施されていないだけで魔法自体は使ってもいい。

 ほうきに乗って飛んだり空中を闊歩したり虹の上を走ったり。


 魔法少女たちはそれぞれ魔力を存分にふるって移動する。

 授業に一秒でも遅刻すると減点対象となるため、なんかもう全員必死である。

 

 一方、私と舞ちゃんは全力ダッシュをしていた。

 校舎が無駄に広くて道が入り組んでいるからもう授業が始まる前にへとへとだ。


 それも次は実技の授業でグラウンドに集合。

 やっとの思いでたどり着くと、どの魔法少女よりも早く、物理魔法専攻のアテナ・スパルティウス先生が屈伸をしてウォーミングアップしていた。


 オレンジ色の髪を後ろで縛り、赤いジャージの上に更に真っ赤なローブを纏った個性的な格好だ。

 身長はヒルグリム先生よりも低いが、筋肉が引き締まっていて洗練されたスポーツ選手のような体形。

 大きな瞳の黒目の中心には輝かしく五芒星のマークが光っている。


「さぁ今日は魔法武術の授業だぜ。その前にミーの魔法の概要だ。愛諸星、分かるか?」


 また当てられた。今日はツイてないな。

 えっと確か決闘の時にサリナがちょろっと使っていたやつだっけか。


「魔力を身に纏って、直接、えと、戦う魔法です!」

「ミーの呪文は、解放の魔法。勇気や元気、向上心と言った正の感情によって発生する。その効果は己の肉体強化として現れ、魔力が続く限り上昇し続ける。よく分かったな!」


 えへへ、と頭を下げる。この先生は比較的まともだ。

 その並外れた体育会系的な精神論を除けば。


「では手始めにグラウンド1000周! ミーの魔法を使って身体機能を維持するんだぜ!」


 ギャグみたいな回数でもはやフルマラソンよりも長距離だが、これを授業初めに必ず行うらしい。

 なんでも基礎的な体づくりと魔力を生み出す持久力の訓練になるとかなんとか。


「ゼーゼー……。舞ちゃんもう疲れたよぉ」

「ハーハー……。今、話しかけないで。集中力が、切れる」


 私は舞ちゃんの隣を走っているが、みんなはとっくに走り終えて実技に移っている。

 まだ10周も走り切っていないのに、私の体力はとっくに底をついてしまっていた。


「どうしたんだぜ? 舞の方はともかく愛はミーの魔法を使えないのか?」

「つ、使えないですよぅ」


 私は今アイの魔法しか使えない。

 だからこうやって魔法を使わずひたすら走っているのではないか。


「そうか。だが努力すればいつかは使えるようになるぜ。俺も一緒に走ってやるよ!」


 アテナ先生はそう言うと超高速で走りだし、一瞬で100周くらい周ってきた。


「な? 努力は実を結ぶんだぜ! 今は使えなくても気合と根性で乗り切れば、きっと明日は強くなる。全ての子供は可能性を秘めているのだから!」


 そんなキラッキラした瞳で熱血的な根性論を言われても、無理なものは無理である。

 先生は私たちを追い抜いてはるか先に行き、ゴール付近で手を振ってきた。


 しかしムリなものは無理。限界ったらもう限界だ。

 バタッと私は地面に倒れ込むと、すぐさまアテナ先生が駆けつけてくる。


「おーい、大丈夫か?」

「ご、ごめんなさい、もう無理れす……」

「諦めるなよ! 努力すれば絶対にできるって! 俺を信じてもう一度トライしてみようぜ!」


 やっぱりこの先生もまともじゃない。

 もうおうちに帰りたいよう。


「うぅ、もうやだよう。本当に限界なんですよぉ……」

「ほう? 本当にそれがお前の限界か?」

「か、勘弁してよう。本当の本当にもう無理なんですよぅ」

「いいや。まだいけるね」


 グロッキーな私に、アテナ先生はなぐさめるどころかさらにはっぱをかけてきた。


「諦めるなよ! 諦めるなよそこで! もっと、熱くなれよ!」

「だから、もうムリですってぇ!」


 いい加減ムカついた私は、その場で勢いよく起き上がった。


「ムリだって言ってるでしょ! これ以上は本当に死んじゃうよ!」

「へえ。これから死ぬってやつが随分元気そうだな」


 そう言われると、私はこれ以上できないと思っていたのに起き上がれた。

 足が痛くてしょうがなかったけど、動いてみれば思っていたよりも痛くないような。


「あれ? 私、まだ動ける? 先生が魔法で治してくれたの?」

「いいや。そいつはお前のイメージの問題だぜ」


 そう言うと先生はグラウンドに落ちている小石を拾った。


「お前はこれを素手で壊せるか?」

「え、そんなのムリですよう」

「そう思うだろうな。こんな石ころでも、人間にとっては固くて壊すことはできない。だがそれは普通の人間ならの話だ。お前は魔法少女なんだぜ」


 先生は私に向かって石を投げた。私はそれを目で追って避けた。

 避けることができた。


「お前は自分がグラウンドを1000周できないと思い込んでいる。その思い込みがお前を弱くしているんだ」

「そ、そうなのかな?」

「ああ。現にお前は花異獣を一体倒しただろう? そして決闘でもサリナを倒した」


 言われてみれば。

 確かに私は魔法を使ってなくても攻撃を避けれたし、受けたとしても全然平気だった。


「そっか。私って魔法を使わなくても体は魔法少女なんだ」

「ああ。そして魔力量と魔法少女の肉体の力は比例する。お前の力はこんなもんじゃないはずだぜ」


 そう言ってもらえると自信がわいてきた。

 今の私ならどこまでも走れそうな気がする。


「頑張ればなんとかなる! 俺も一緒に頑張るからさ! 努力は必ず実を結ぶんだ! やればできる! 俺たち魔女は‼ お前たち魔法少女の‼ 味方だ‼」

「はい! うおぉー‼」


 やる気になった私は全力疾走で走り抜けた。

 100周200周、300周とどんどん速度を上げてゆく。

 そしてついにゴールまで走り抜けることに成功した。


「やった! やったよ先生!」

「ああ、魔法なしで達成するとは大したもんだ。俺は今、猛烈に感動しているぜ!」


 私と先生はガッシリと抱き合った。

 絵にかいたような熱血系体育教師だけど、もしかしたらこの先生と私は気が合うかもしれない。


 ゴール直前、バタリと舞ちゃんが倒れた。

 魔法少女になれない状態で、バカみたいな周回をしても体を壊すだけだ。


「舞ちゃん、大丈夫⁉」

「手を出さないで!」

 

 私が抱き起そうとすると、それを払いのけて震える足で立ち上がった。

 そして過呼吸になって倒れこんだ舞ちゃんがゴールに手を付ける。


 その姿を見たアテナ先生の燃えさかるような瞳から、ダバダバと噴水のように涙が放出された。


「魔法少女になれない中、少ない魔力でよく頑張った! 合格だ! 舞月夜の補習を免除する!」


 言いながらギリギリと倒れた舞ちゃんを抱きしめている。

 なんというか情に熱いというか、暑苦しいというか。

 

「ぜえぜえ、……し、しぬ……」


 このままでは疲労と熱気で本当に燃え尽きてしまいそうだ。

 私はアテナ先生を舞ちゃんから引きはがした。


「先生! それ以上は舞ちゃんがやばいですよ!」

「ん? ああ、すまない。少しばかり感動しすぎてしまった!」


 座った状態からぴょいんと飛びのいて、一気に数100メートルは離れた。

 どんな体の構造をしているのだろうか。

 魔法(物理)ということなのか。


「それにしてもお前たちは見所がある。特に愛諸星、期待しているぜ」


 ほめられたのはうれしいことなのだが、何だかぞわっとしたものを感じた。

 これからみっちりしごいてやるぜ、みたいな雰囲気をビンビンに感じる。

 もしかしたら私たちは、やばい先生に気に入られてしまったのかもしれない。

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