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福陰  作者: 板島 レオ
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第6章.阿鼻叫喚

第6章です。神父スコットによって犯されたソニアの元に辿り着いたカイルとイザベル。果たして彼らはこの状況を脱すことが出来るのか──────

第6章.阿鼻叫喚


───神父様はどこだ。」


扉に背を預け足元に火がついたかのような焦った顔をしてカイルは呟いた。途端。


「…!?ぅが…ぁあ!」


イザベルの海馬に耐え難い疼痛が走った。


「イザベル!?」


両掌で頭を抑え悶え苦しむイザベルを背景に、苦しむイザベルを見て、いてもたってもいられなくなったカイルは、イザベルにすぐさま駆け寄った。

と、同時に、イザベルの脳に大量の記憶が蘇る。

イザベルがミラとマティスを切り裂いた事。カイルとソニアを騙し殺そうとしている事。一日1人を殺すという残虐。瞬間。その全てを思い出していた。

何度も喘ぎながら悶え苦しむイザベルの背中をカイルは何度も摩った。あれから何時間経っただろうか。何分経ったのかは正確には分からなかった。数分なのか数時間なのか。それとも。数秒なのか。


只只、イザベルは、泣いていた。


「…なさい……ごめん…なさい…」


イザベルは只只懺悔する。カイルはそれを、静寂を保ったまま聞いてきた。


「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」


イザベルは、涙を零しながら振り向き、呟いた。


「カイル…あたしが…私が、


ミラとマティスを殺したの」


カイルの目が見開かれると同時に、カイルの思考が数秒止まった。状況の整理に時間がかかったようで、すぐさま目を閉じ声を出した。


「……そうか。」


カイルは少し微笑んで宥めるようにいった。


「それでも、俺は最後までお前を信じる。言ってくれて。ありがとう。」


暖かな優しさと、背中から伝わる手の温かさがイザベルの心に沁みるように伝わった。


「な…んで…?なん…で?」


「俺はお前の事をよく知ってるつもりだよ。お前は優しい。俺はいつまでもお前の味方だ。」


イザベルは他者の視点で俯瞰する。死んでしまった者のため。カイルの為。ソニアの為。今自分のすべき事を。


「…ごめんね。全部終わったらちゃんと償うから…」


イザベルは立ちあがり呟いた。


「ありがとうカイル。もう思い出したよ。私。パパの居場所知ってる」




──────質素な町。その一角に、琥珀髪の少女が1人いた。身体を震わせ、独り路地の壁に寄りかかっていた。少女には両親がいなかった。数時間前、強盗が家に入り込み、少女を庇った。そう。死んでしまったのだ。そして少女は走った。何度も何度も転びながら、再び立ち上がる。町の人間が軽蔑するような目を向けてくる。転んだ拍子に泥や血が滲んだ服は、奴隷を連想させた。そして少女は、そんな目をもろともせず、町の路地に逃げ込んだのだ。


「(ここまでくれば大丈夫)」


そんな事を考えていた少女は、安堵して壁に寄りかかっていた。


「お父さん…お母さん…!」


自分の眼から一雫の涙が溢れ落ちる。ハズだった。


「よお。お嬢ちゃん」


声のした方へ向けた途端、その声の主は、既に目の前に迫っていた。そして、美しく富んだソニアの胸をわしずかみにした。


「い…!!?」


嫌。そう叫びたかった。しかし既に手遅れだった。声の主に口を塞がれていた。


「いや〜いい体してるねぇ君。下も触らせてくれよ。」


何度も何度も胸部を触り、遂には声の主はその手をソニアの下半身に伸ばした。

…と同時に、金属で固いものを叩いたかのような、轟音が響き渡った。声の主はソニアから手を離しその場に倒れた。


「…え…?」


驚愕し固まるソニアの目の前には、20代程の容姿をしていた声の主。それが、血を流し倒れていた。


「大丈夫かい?」


涙で滲んだ目をもう1人の声の主に向けた。そのもう1人の声の主は、ソニアに手を差し伸べている。助けて。そう叫びたかった。涙を落としその場に崩れ落ちる。それを見たもう1人の声の主は、一言発した。


───私の教会に来ないかい?」と。


"拷問室"。そこに行く為には、イザベルの部屋の真下にある、女神像を調べる必要があった。女神像の背面には、1つのボタンがあり、地下への階段が開くシステムだった。イザベルとカイルは、ミラの死体があったトイレの隣にある、その像を調べた。すると、イザベルの記憶通り、紅く輝く1つのボタンがあった。


「…開けるよ」

「…ん。」


イザベルとカイルはお互いに顔を見合せ、決心した。絶対にソニアを助けると。紅く輝くボタンを押すと、女神像が2つに裂け、地下への階段が姿を現した。イザベルとカイルは同時に地下へ駆け込む。が、案外地下への階段は短かった。この教会の2階へ上がる段数とほぼ同じ感覚だった。階段を下りると薄暗い廊下が続いており、左側にたった1つの金属製の扉が大きく開かれていた。


───……が……ぁ……。


誰かの唸り声だった。


「(…ここか。)」

「(お願い…無事でいて…!!)」


ソニアの無事を祈りながら、イザベルとカイルは部屋を覗いた。


「ソニア!!!!」

「え……?ひっ…!!」


その部屋は、酷い死臭が漂っていた。部屋は所々赤く染まり、壁には拷問器具のようなものがぶら下がっており、イザベルのイメージに地獄を思わせた。

…が、どんな地獄を見ようとも、それを見た瞬間。イザベルは瞬く間に言葉を失った。

───そこには神父…スコットがいた。裸のまま体液を流し絶望した表情をしているソニアの前に立っている。遅かった。


「パパ…?ソニア…。ソニア…!」

「…遅かったか…」


カイルが歯を食いしばる。


「おやおやこれは…イザベルに…カイルか。」


神父は感心したように振り向いた。


「その様子だと…イザベルはもう克服してしまったみたいだね。残念だ。」

「神父…様…!!なぜこんなことを!」

「なぜも何も。私がこうしたいからに決まっているだろう?」

「…お前はもう神父なんかじゃない…!人殺しだ…。ただの人殺しだ!!」


イザベルは哀しみか絶望か憂いか。そんなイメージを思わせる表情をしていた。


「…な…んで…?なん…でこんな事をしたの…?」

「聞こえなかったか?イザベル。さっきから言っているだろう。私がこうしたいから。とね。」


神父はイザベルの方を向くと、1歩大きく踏み込んだ。


「…!?イザベル!!!」


一瞬の出来事だった。カイルの声が聞こえたと共に神父は私にナイフを振り下ろしていた。死。それを連想させられた。しかし、神父のナイフがイザベルの体に突き立つ瞬間、カイルによってイザベルの体が大きく吹き飛んだ。イザベルは背中を壁に勢いよくぶつける。しかし視界はそれを捉えていた。


「…え…。」


カイルの首に、神父のナイフが突き刺さっていた。

カイルはその場に倒れる。カイルの首から見たこともない程の量の血が流れ出ていた。


「…カイ…ル…」


カイルが死んだのだ。自分のせいで。何も出来ない無能のせいで。1人の友達、親友が。死んでしまった。自分のせいで。


「さぁイザベル!!これで最期だああ!!!」


容赦の無い神父の刃先がイザベルに向かってくる。

終わりだ。自分の手でミラ、マティスを殺し、カイルも巻き込んでしまった。ソニアは犯されたように放心状態で絶望に暮れている。

私のせいだ。


私のせいだ。



私の…せいだ!!!


「…なっ…」


その瞬間。イザベルの"いつも隠し持っていたナイフ"が、神父の胸を貫いていた。


「恨んでいいよ。パパ。全部私のせいにしていいから。死んで。」


イザベルは神父を何度も串刺しにする。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。スコット神父はまるで殺されたマティスやミラのように、無惨な抜け殻になっていた。神父はまるで裏切られたかのような表情でイザベルを見上げていた。


「…さようなら。パパだった人。」


イザベルは神父を見下すように見下ろす。が、イザベルの目には涙で潤んでいた。


「…ごめんなさい…みんな…」


イザベルは泣き崩れた。手に持っていたナイフを投げ捨て泣き叫ぶ。全て自分のせいだ。私のせいだと絶叫する。その声は、教会の外まで響いていた。森の木々がざわめき、鳥やカエルは鳴き叫ぶ。

まるで自分達の仲間がやられたように。何度も何度も阿鼻叫喚する。イザベルは、もう、


死にたがっていた。

見て頂きありがとうございます。全てが終わりました。いえ、まだ残っていますね。

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