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福陰  作者: 板島 レオ
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第4章.歪な平穏教会

第4章です。どんどん明かされていく教会の真実。ミラを殺したのは誰なのか──────。

第4章. 歪な平穏教会


───いつまで続けるつもり?」


タッパのある琥珀髪の少女が、小柄な灰白色髪の少女に向かって言い放っていた。ミラとソニアの部屋の反対に存在するこの仮の書斎には、月夜の青白い光が突き刺している。


「なんだ。気づいてたんだ。」


灰白色髪の少女は、後ろを振り向き、不気味にニヤリと笑う。その右手には、刃渡り10cm程の血塗れのナイフが握られていた。


「気づいてるのはミラだけだと思ってたけど、考えが甘かったかな」


灰白色髪の少女は、そう言って左手で髪をかきあげる。すると、純血の紅い瞳が顕になった。


「……それで?」


琥珀髪の少女は、静かに眉間に皺を寄せ、睨みつけるようにして灰白色髪の少女を凝視する。


「安心してよ。1日1人って決めてるんだ。でもあんたも酷いよねー。私たちがこんなんだって知ってて誰にも言わないんだもん。ねぇ?


ソニア。」


灰白色髪の少女がソニアを嘲笑うかのような表情で責め立てる。


「……言っても誰も信じないでしょ。あんたが。イザベルがミラとマティスを殺したなんて。」


ソニアを軽薄な表情で見つめているイザベルの奥に、顔以外の皮膚が裂かれ赤黒く変わってしまった"マティス"が転がっていた。マティスの顔は不思議と安らいでいた。

イザベルはふふっ。と微笑み、ソニアに1歩ずつ近づく。イザベルの姿が近くなるにつれ、ソニアの心臓の鼓動も早くなる。本当に1日1人なのだろうか。

本当は自分を殺す為の嘘なのでは無いかと、恐怖と真偽がソニアの全身を襲った。イザベルはソニアの横で歩みを止めると、小さく囁いた。


「明日が楽しみだね。」

「……。」


イザベルはそのまま、ソニアの横を通り過ぎ、ソニアの髪をなびかせて自室へと戻って行ったが、ソニアは涙を浮かべたまま頭を抱えて蹲っていた。


「なん……で…こうなるのよ…!」


ソニアは一言だけ心情を呟き、庭を一望できる青白い廊下のガラスの壁に背中をつき、暫くの間涙を浮かべたまま放心していた。


「……明日絶対元に戻してあげるからね…。イザベル。」


ガラスに背中を預けていた体を起き上がらせ、立ち上がる。もう二度と人殺しはさせない……そう決意を胸に残し、自分の部屋へと戻ろうとしたその瞬間。─────ソニアの視界が完全に遮断された。




───あぁあー。マティスのせいで服が汚れちゃった。」


ソニアとの対談を終わらせたイザベルは、自室で赤黒く染まった服を1枚ずつ脱いでいた。


「どうせすぐパパが来てくれるし朝起きても大丈夫でしょ。」


イザベルは新しくタンスから出した服を着る。1人で安楽に浸り、ベッドに横たわり、イザベルは天井を見上げると、教会から出た後の事を考え、無い未来を想像する。父と美味しいものを食べ、楽しい遊びを一緒にみつけ、それらをしながらパパとずっと一緒にいる。暫くの間そう夢に浸っていた。すると、夢に浸っていた心を覚ますかのように、

───キィ……。と。

部屋の扉がゆっくりと開いた。


「…イザベル。」

「…!パパ!!」


寝かした体を起き上がらせ、乱暴にベッドを蹴飛ばす。


そのままの勢いで、父、"スコット"の胸に飛び込む。おっと。と、スコットはニヤリとした表情で受け止める。


「イザベル。既にソニアは拷問部屋にいる。パパが拷問したら好きにしていい。」

「え!あんな警戒心ピンピンのソニアをもう捕まえたの!?やっぱりパパ凄いなぁ!」


意気にイザベルが返した。スコットはさらに不気味な笑みを浮かべた。イザベルはその笑みを見届けると、疑問に思った事を率直に聞いた。


「でも、カイルがまだ残ってるよ?あの"優しさ"の塊はどうするの??」


スコットは、ふむ。と人差し指を顎に当て、考える仕草を示すが、すぐに答えが出たのか、ゆっくりと口を開いた。


「いつも通りで良いだろう。ここは深い深い森の中だ。たとえ逃げたとしても2日後には命はないさ。」


イザベルもスコット同様に、不敵に笑みを浮かべ、そうだね。と溢す。


「パパ。」


ん?とスコットが前傾姿勢になり、イザベルに、目線を合わせた。


「愛してる。」


イザベルはスコットの耳元でそっと寵愛を囁いた。すると、調和するようにスコットが笑った。


「あぁ。パパもだ。」




───イザベル。ママは生まれつきの病気で死んじゃったんだ。」


あたしには、ママの記憶が少なかった。あたしが6歳になった後、先天性の病気で死んでしまった。

そう、パパがよく言っていたのだ。

気づいたら、ママは家のどこからも行方を消していた。あたしは、4、5歳あたりからよく腹痛や頭痛に悩まされていた。生理が来た訳でも、食べてはいけないものを食べた訳でも無い。

物理的に。そう。パパ。スコット・クラーク神父からの虐待によって受けた衝撃だ。腹を蹴られ、頭を揺さぶられ、時には裸にさせられ、体を触られた。時に怒鳴り散らかし、時に罵声を浴びせられた。

───いつの日か、自分の中で何かが割れる音がした。分からない。知り得もしない。それでも。

日々暮らしているうちに、1つだけ分かった事があった。ママが遠くに行っちゃってから2、3年過ぎた頃。パパがカイルを教会へ連れてきた。細身で体中怪我をしていて、もう一時で死んでしまうのではないか。そんな印象だった。でもパパは、神父として修道士として、迎え入れ、窶れたカイルを優しく介抱していった。それからパパは、あたしへの暴力を辞めた。理由は分からないけど、パパが優しくなったのはいつぶりだろうと素直に喜んだ。

カイルは徐々にそんな優しい神父の姿をしているパパを軽信し、感謝の念を抱いていった。カイルは、根は優しい。あたしが足早に階段を降りていた時、勢い余って転びそうになっていた。するとすかさず飛び出して、足を捻りながらあたしの体を受け止めてくれた。その頃辺りからあたしの中の何かが確実に変わっていた。カイルだけじゃない。次々にパパに担がれてくる帰るところが無い健気な孤児を、家族として、大切にしよう。そう思った。

だからこそ。パパの事はあたしは何も知らない。パパは優しい人。行く場所も帰る場所もない孤児を保護する、とても温厚で善い人。そう思い込んで、孤児の前では、余計な心配をかけさせない為に、元気ハツラツで、活気な少女である必要があった。

だからあたしは隠す。

自分が、どれだけ非力な人間なのかを。パパが、どれだけ恐ろしく厳格な人なのかを。




───目が覚めたら、イザベルは自室のベッドで仰向けになっていた。ゆっくり起き上がると、どうしようもない頭痛に襲われた。「……!?」必死に頭痛に抗い、手で頭を覆う。何かの夢を見ていたような。何か思い出さなくてはならないような。思い出せず、頭痛と共に苦悩を背負う。


「…いったぁ……」


悲痛な声と優しげな声が同時に漏れる。部屋には、太陽光の日差しが部屋中に照っていた。もうすっかり朝になってしまったらしい。


「……ミラ…」


食堂に向かおうか悩んだと同時に、昨日の悲惨な惨劇が思い浮かぶ。


「……何も考えたくない…。」


そう呟き、布団を肩まで被る。布団の中は暖かくて、気持ちが落ち着く。気がついた頃には、頭痛はなくなっていた。


「……ソニア…大丈夫かなぁ……」


心配と悲観の声を呟いた。その瞬間。

イザベルの部屋の扉がバン!と大きく開いた。カイルだった。カイルは走ってきたのか、息を荒らげていた。息を整える暇もなく、呟いた。


───イザベル!!ソニアはどこだ!!」と。

見て頂きありがとうございます。彼女らは一体何を望み何を熟すのか。存分にこれからもお楽しみ下さい。

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