幽霊とコミケ
「今年も色々あったけど、こうやって同性ふたりで過ごすクリスマスも悪くねえな」
煙草を口に咥えながら、和希が言った。
「うん。学業にバイトに大変だった。相変わらず、一緒に過ごす恋人もいないし」
理央は缶ビールを開けた。
クリスマスに予定がなかった二人は、理央の家で共に過ごすこととなった。
「そういや、お前、真琴にこっぴどく振られていたもんな」
「ちょっと。それを今言うか?」
和希にからかわれ、理央はむくれた。
「まあ、怒るなって。これでも食べとけ」
和希はイカの形をしたスナックを手に取り、理央の口に運んだ。
「ありがとう」
「そういえば、年末の例の準備は終わったのか?」
和希が聞いた。
「なんとか。――そういえば、今年の一大ニュースといえば、大学での幽霊騒ぎかな?」
「ああ……」
和希は二週間前の出来事を思い出した。
***
**
*
二人の通う大学は、都内でもそれなりの偏差値の学校である。
「最近、夜に、講義室で幽霊が出るっていう噂知っている?」
同じ学部の堀部優那が言った。
「なんだそれ」
和希は鼻白んだ。話題が小学生の怪談のようだと思った。
「へえ。誰か見たの?」
理央は続きを促した。
「うちの友達が見たらしく、怖くて逃げちゃった。他にも、別の日に幽霊らしき姿をみているんだって」
「ふうん」
和希は素っ気なく返すが、理央は頷きながら聞いていた。
「なんか、白く、ふわふわした感じの女の人が立っていて……」
「顔は見たの?」
と理央は言った。
「暗くて、髪に隠れて、ちゃんと見えなかったらしいけど、なんか不気味に笑っていたらしいよ」
堀部はおおげさに腕を擦るが、馬鹿馬鹿しいと思い、和樹は失笑した。
「さっきの話、どう思う?」
食堂に向かう最中、理央が言った。
「どうって……。別に何とも思わないし、ただの見間違いかイタズラだろ」
和希は肩を竦めた。
「うーん」
理央は唸り、不安げな顔をした。
「そんなことに頭を使うなよ。ちゃんと前を向いて歩かないと、人にぶつかるぞ」
和希が注意した刹那、理央は女性と衝突した。彼女は転び、臀部を床に打った。
「ごめん。不注意で」
理央は手を伸ばし、女性に謝罪した。
「いいの。私も不注意だったから」
立ち上がりながら女性は言った。顔をしかめて、スカートに汚れがないか確認していた。
「幽霊のことを考えていたら、つい」
「幽霊?」
理央の弁明に、彼女は首を捻った。
「うん。夜の講義室で、幽霊が出るっていう噂があって」
「へえ。そんな噂があるんだ」
彼女は話題に喰いついたが、
「あ、これからランチかな? ごゆっくり。私の名前は道重小夜っていうの。幽霊騒ぎがあったら、また教えてね」
簡単に自己紹介を済ませると、去っていった。
*
数日後。
堀部が青ざめた顔で話しかけてきた。
「見ちゃったよ、私。幽霊……」
「本当に?」
理央は色めき立った。
「うん。スーツを着た、男みたいな感じだった」
「学生か誰かを見間違えたんじゃないのか?」
和希の指摘に、堀部は首を振った。
「違うの。一瞬でいなくなったから……」
キャンパスで道重小夜を見つけると、理央は堀部の目撃情報を伝えた。
「――ということがあったらしい」
「……」
道重は深刻な表情をしていた。
「どうしたの?」
理央が尋ねると、
「もしかしたら、幽霊の正体わかったかも。教えてくれて、ありがとう」
そそくさと去っていった。
「忙しない子だな」
和希は苦笑した。
翌日。
大学教授が盗撮容疑で逮捕された。
***
**
*
「結局、幽霊の正体は教授だったんだよな」
和希は煙草をふかしながら言った。
「うん。盗撮カメラを設置しているところを、堀部ちゃんは目撃したみたい。設置している時に物陰に隠れたせいで、幽霊のように消えて見えたんだと思う」
「道重さんが教授を追いつめたんだっけ?」
「そう。友達が教授のセクハラ行為に困っていたらしくて、それでピンときたらしいよ」
理央は缶ビールを飲み干した。
「でもさ」
和希は眉をひそめた。
「うん?」
「あとで出た幽霊はスーツをきていたから教授ってわかるけど、その前の幽霊は誰なんだ?白く、ふわふわしていたんだろ」
和希の発言に、理央は笑った。
「あー。そうだよね。不思議だよね」
「お前、なにか知っているだろ?」
和希が聞くと、理央は立ち上がり、クローゼットを開いた。
「これ、なんだかわかる?」
理央は白を基調とした衣装を見せた。数年前にアニメ放送していた魔法少女の衣装だ。
「私ね。学校でコスプレの衣装作りをしていて……」
「えっ。じゃあ、まさか」
「そう。衣装を作って、ちゃんと採寸など合っているかどうか、着ているとこを目撃された。恥ずかしくて、私だって言えなくて」
理央ははにかんだ。
「それでね。衣装、もう一着あるから、年末のコミケに一緒に行かない?」
今夜のクリスマス女子会は長くなりそうだと、和希は思った。
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