表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

制服女子が浮いている

人は地に足をつける生き物だ。

 これは現実を見て生きる、とかそういうものではなく、この地球上で生存する上での、絶対的な法則という意味だ。

 何故なら、地球には『重力』があるから。かつて、一つの果実の落下によって見出されたその力は、星の中心へと、あらゆる物を引っ張っていく。だから翼さえ持たない人間(ぼくたち)は、どんなに高くジャンプしても、両手をバタバタと振り回しても、地面から離れ続ける事は出来ないのだ。

 ではもし、何の道具も使わず、宙に浮かんでいる人がいたとしたら?

 どうして僕がそんな仮定を持ちだしたのかと言うと――今まさに、その光景が目の前に在るからだ。

 濃藍の髪の少女が、落としかけた炭酸飲料のペットボトルと、後ろに停めていた自転車と共に宙に浮いていた。どう見ても彼女の足は地面を離れ、しかも徐々に上へと引っ張られている。背中に翼だったり、頭に輪っかがある訳でもない。只の制服姿の女の子が、その周辺だけ『無重力になったように』浮いていた。

 それは、五秒にも満たない短い時間。すぐに彼女と浮き上がった物達は地面に落ちた。が、たったそれだけの時間でも、その光景が眼に焼き付くには充分だった。

 少女は再び地面に足をつけると、ネイルに彩られた手でペットボトルを拾い上げた。

「あっぶなぁ~~! あのまま落としたらブシャッて噴き出してたし! 間に合ってよかったぁ」

 彼女は安堵の息を漏らしつつ、通学鞄にペットボトルを入れる。落ちる直前で落下速度を奪われ、逆に浮かび出したそれは、彼女の足首よりやや上の位置から落下を再開した。お陰で液体に伝わる衝撃は大きく減らされ、中身が噴き出るという惨事を免れていた。

「ってか、ヤバッ! こんなトコで使っちゃった!! まぁでも、誰もいない……よね?」

 彼女は慌てて後ろを――つまり、僕のいる方向を見た。

「「……あっ」」

 完全に目が合ってしまった。先の光景に固まっていた僕は、指一本たりとも動けなかった。

 暫く僕らは、無言で見つめ合った。目を見開いたまま固まる彼女だが、僕の表情も同じだっただろう。

「ア……アハ、アハハ……」

 やがて、先に動いたのは彼女の方だった。苦笑いしつつ、自転車のスタンドを蹴り上げたかと思うと――

「……じゃあね!!」

「あっ、ちょっと!」

凄まじい速度で去っていった。僕はそんな彼女を、見送ることしか出来なかった。

「……あの人は……」

 誰もいなくなった道で、僕は彼女に見覚えがあった事に気付いた。

 高く結い上げた濃藍の髪、吸い込まれそうな真っ黒な瞳。僕と同じ『緑心寺高校』の制服と、人目を引く重そうなバスト。

該当するのは、一人だけ。

「四組の、真弓一果まゆみいちかさん……」

 高校二年生の五月終わり、晴れの日の朝。

 僕――遠前心太郎とおまえしんたろうと、重力を操る『重力系女子』真弓一果さん。これが、僕らのファーストコンタクトだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ