ただ結婚したかったハンナ
ハンナは厳しく伯爵に問い詰められた。
「ダイアナート子爵から頼まれただけです。滋養に良い薬だと言われただけ・・・」
「いつから毒に・・・」
「分からないが少しずつ体調が悪くなったのは、1年前・・」
「毒と分かっても飲ませたのか!」
ハンナは顔を上げることもできず爪が食い込むほどに手を握りしめる。
徐々に体調を崩すことで毒を飲ませているという感覚はあまりなかった。ただこの1週間で投与回数を増やしたためか死相が見られるほど衰弱した。この時ハンナの中で『毒殺』を意識した。ハンナは『子爵と結婚できる』それだけに目を向けていなければ心折れてしまいそうだった。
震える手で「この手紙を・・・・」
ハンナは侍女服のポケットから手紙を数通取り出した。ダイアナート子爵からの指示の書かれた手紙をハンナは保管してあった。読んだら燃やすように書かれていたが、ハンナ自身への手紙、毒殺の実行者としての疑心暗鬼が燃やす行為に至らなかった。ハンナは不安と緊張の毎日だった。執事は泣き崩れるハンナを紐で縛り上げた。
殺人未遂と窃盗でハンナは手紙と毒と共に憲兵に捕らえられた。ハンナの尋問と証拠の手紙と毒薬でダイアナート子爵家に捜査が入った。ダイアナート子爵関連の不審死も併せて精査された。
エリザベーナは憲兵の姿を見て半狂乱になった。ベッツの事は父がやった。飲ませたのはハンナだと叫んだ。自分は無関係だと主張した。それでも事情聴取のため憲兵にエリザベーナは両脇を抱えられ連れていかれた。
タロット医師は診断書と毒薬の分析書を1通は伯爵にもう1通を軍警部に提出した。貴族の関わる事件だけに慎重に捜査された。ダイアナート子爵とエリザベーナは自白剤を使用された。
子爵は偶然手に入った毒薬を口うるさい父親に飲ませたら体調を崩し爵位を継承できた。それをきっかけに子爵は軽く毒を盛って自分の思うように人を動かせる力を持った。実際、即死毒でなかったので毒殺をしたと思っていない。
それだからこそ子爵は気軽に毒を飲ませて、死にはしないけど目の前から排除していた。余りの無自覚さに調査官は驚いていた。エリザベーナは自白剤を服用してもしなくても変わりなかった。ただ、伯爵と結ばれるのが運命だ。父がそれを後押ししてくれただけ。自分は直接指示は出していない。ハンナが欲にくらんで仕出かしただけだと話した。
3ヵ月後、ダイアナート子爵家は取り潰しになった。子爵とハンナは投獄後死刑となった。子爵家に隠された毒はもう小瓶1本が発見された。毒の精製が不十分のため金額の割に効果が低かったらしい。闇の商人から偶然手にしたので入手先までは調べられなかった。
子爵の妻は体調が悪くなったことに不審に思い実家に逃げ戻っていたのだ。
以前から女性関係が騒がしく浪費がかさんだ。妻に内緒で、妻の実家に借金していた。我儘なエリザベーナに苦言を呈しても耳を傾けるどころか父親と一緒に暴言を浴びせる。
体調を崩した時でさえ二人は、母の身を、妻の身を心配することはなかった。子爵夫人は精神を病んだエリザベーナを引き取ることはなかった。エリザベーナは毒殺に直接かかわっていないということで、北の厳しい修道院に送られることになった。
父親の死刑も子爵家の没落もエリザベーナは理解できていない。ブルックリン伯爵夫人になるのだとぶつぶつひとり言を続けていた。




