噂駆け巡る誕生会①
今日は私の16歳の誕生会を行うべく、朝早くからロザリンド伯爵邸に帰ってきている。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ。少し緊張しているだけだから…」
本日の参加者は国王夫妻やお祖父様をはじめとする約200人。これでもかなり絞った方だ、とお母様に言われて気が遠くなったのは1ヶ月ほど前の話だ。
錚々たる面々がお見えになるということで、私の緊張は限界を突破している。周りの人たちからしてみれば、何度もお会いしたことがある人たちばかりなのにどうして、という感想を抱くのかもしれないが、コミュニケーションに難がある私からすれば緊張しないほうがおかしいと言えるのだ。とは言っても、ひとたび淑女モードに入れば割と平気になる。今はまだ切り替えられておらず、手がこれでもかと震えているだけだ。
「お嬢様、そろそろお客様がお見えになるお時間ですので、会場の最終確認とご準備をお願いします」
侍女の声に嫌々ソファから立ち上がった私は、姿見の前に立って自分の格好を確認する。今日は、白いAラインドレスに紺のフィッシュテールのオーバースカートを重ねたドレス。髪は緩く巻いてハーフアップに。
いつもより数倍貴族然としている姿を見てゆっくりと息をついた私は、階段を下りて会場のホールへと向かった。
明るい、シャンデリアが煌めく会場内は、朝から張り切って準備してくれた使用人たちのおかげで予定通りに整っている。お父様が気合いを入れすぎたせいで随分と豪華な会になりそうな気がしていて今から不安に思っているのはおくびにも出さない。
「そこのテーブルはもう少し手前に寄せておいてもらえるかしら?料理を下げる動線とかぶっているわ」
「料理と飲み物は不足しないように常に気をつけておいて」
「何か問題が起きたら、私が歓談中でも臆さずに声をかけてちょうだいね」
会場内をぐるっと一周し終わったその時、ちょうど最初の招待客が到着したと知らせが入った。
「楽しみで早く来てしまいました。すみません」
「いいえ、ジニア様に来ていただけて嬉しい限りですわ」
1番最初に見えたのはジニア様だった。今日も素敵な笑顔で、ひまわりのようなドレスに身を包んでいる。
「改めまして、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。今日はどうぞごゆっくりお愉しみくださいね」
ジニア様とお話ししている間にも、続々と招待客が到着する。
メイフェル、カロリーナ様とグレシャム様にルアーラ様。そして、仕事終わりに急いで来てくださったセレン様。他にも、ロザリンド伯爵家と関わりのある方々が揃っていく。
お忙しい高貴な方々を除いてある程度人が集まったので、開会の挨拶をしておくことにした。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。私クララベルは、先日16歳を迎えることができました。これも全てはここにお集まりの皆様をはじめとする多くの方々があたたかく見守ってくださったおかげにございます。本日はそのお礼のひとつといたしまして、ささやかながらお食事等をご用意させていただきましたので、どうぞごゆっくりとお楽しみくださいませ」
この世界にはマイクなんてものはないので、なるべく皆さんに聞こえるよう、声を張ったつもり。失礼のないように深々と淑女の礼をして壇上からおりた。
私から全体への挨拶が終われば、あとは自由な歓談タイムだ。親しい人と話すも良し、新たな縁を求めて声をかけるも良し、食事を楽しむのも良し。不本意ながら本日の主役である私は大勢の人に囲まれて楽しむ余裕などないが。
「ララ、隣にはいられないけれど近くにはいるから。何かあったら声をかけてね」
「はい、分かりました。お気遣いありがとうございます」
セレン様もその地位を盤石なものとするため、社交に勤しむようだ。
「先ほどは堂々としておられて素敵でしたわ!そういえば、風の噂で王宮文官の試験に合格されたとお聞きしたのですが、本当ですか?」
「えぇ、事実ですわ。先日、行政部より正式に合格の通知をいただきました」
どうして個人の合否が知れ渡っているのかはさておき、史上初の女性文官ということで、噂好きが多い社交界で話題になるのは仕方がないし予想していたこと。ましてその人が、露出の少ない「幻」ならなおさら。
「さすがですわ!ちなみに、ご結婚はいかがなさるのですか?ただでさえお忙しいというのに、文官としてのお仕事が始まるとさらに時間の余裕がなくなるのでは…」
進路の話をすれば、当然この話も出てくる。本人たちも私と同世代の令嬢ゆえ、身近な話題なのだ。
ちらりと隣の令息集団の中にいるセレン様を見ると、私の視線に気がついてこちらに来てくださった。
「ご令嬢がた、ご機嫌麗しゅう。ララ、どうかした?」
「お呼び立てしてすみません。私たちの結婚の話はしてしまっても良いのでしょうか?」
私たちの結婚には、さまざまな政治的意図が絡んでいる。元はと言えば政略結婚の予定だったので当たり前なのだが。そのため、それらに関する情報は厳しく統制されているのだ。私がカロリーナ様たちにお知らせできたのも、お義父様から許可をいただいたからである。




