牽制と惚気
アカデミーに登校できたのは、私の誕生日から2日後のことだった。セレン様は翌々日には登校していたのに、私ができなかったのはすべて、セレン様のせいである。あのような甘い攻撃をされると、日常生活中のふとした瞬間に思い出して、顔が熱を持ってしまう。それでも私は何とかして登校しようとしたのだが、照れている理由を聞き出したセレン様が、そんなに可愛い理由で顔を赤くしているララを他の男になど見せられない、と主張したのだ。その結果、この世界に来て初めて、2日連続のズル休みをすることになったのだ。
「クララベル様、おはようございます。そして、お誕生日とご結婚、おめでとうございます!!」
セレン様と一緒にSクラスの教室に入ると、すでに席についていたアドベイラが声をかけてくれた。セレン様はすっと私の隣を離れて自分の席に腰を下ろした。女性同士、気兼ねなくどうぞ、ということだろう。
「ありがとう。ようやく私も成人することができたわ」
クラスメイトの中で最も誕生日が遅い私は、当然だが成人を迎えるのも最後だった。最後のまとめの研究発表会の後に行われた打ち上げで、1人だけお酒が飲めなかった時の悲しみときたら、ずいぶんとこたえたものだ。
「これで一緒に飲み会ができますね!お話ししたいことがたくさんあるんですよ」
「そうね!アドベイラと一緒にお酒を飲みたいってずっと思っていたのよ」
わくわくと脳内で計画を立てていると、学生寮組の2人もやってきた。相変わらず、朝から元気だ。
「ロザリンド様!お誕生日おめでとうございます!!新婚生活は楽しいですか!?」
「声が大きいな。あ、お誕生日おめでとうございます」
ありがとうございます、と口にしようとした時、セレン様が椅子から立ち上がる音がした。
「もうララはロザリンドではないからね。今後は気をつけるように」
セレン様は圧のある顔と声で2人を牽制するかのように言った。2人にはちゃんとした想い人がいるし、私も浮気をする気などまっったくないので心配しなくてもいいのに。
「「はい、大変失礼致しました」」
こういうところは、2人ともしっかりしているのだ。無礼講とはいえ、貴族と平民という埋めきれない溝は無視しない、そんな姿勢だからセレン様も気を許しているのだろう。
「深刻に考えていただく必要はありませんけれど、確かに公衆の面前でロザリンドの名を呼ばれるのは問題がありますわね。おふたりさえよければ名前で呼んでください。アドベイラはララと呼んでも良いんですよ?」
カートレッタ侯爵令息夫人である以上、セレン様以外の男性に愛称を呼んでもらうわけにはいかない。でも、大切な友人で女性であるアドベイラになら。
「はい、クララベル様」
「では僕も同様にクララベル様、と」
「ラ、ラ様…ありがとうございます!嬉しいです」
ジュリオさんとルードラさんが来たのが遅かったこともあって、なんだかんだ話しているうちに始業の鐘が鳴った。
私たちSクラスの研究室は、卒業に向けて、論文を鋭意執筆中である。
「「ご結婚、おめでとうございます!!」」
「おめでとう」
「ありがとうございます!」
ジニア様とメイフェルからは熱烈な祝福を、カロリーナ様からは優しい祝福をいただいた。私の結婚祝いのために、私の平日休みに合わせてお茶会を開いてくださる3人が大好きだ。みんなそれぞれ、とても忙しいはずなのに。
「それで、新婚生活はいかがですか!?」
「た、楽しい、ですよ?」
最近のジニア様は、この手の話に対して圧が強い。ご自身も自由恋愛を夢見るようになったからだろうか。
「…なにかしら、歯切れが悪くってよ?」
「い、いえっ、その…」
周りは人払いがされているため誰もいないはずとはいえ、大きな声で言うのは恥ずかしかった私は、3人の耳に口を寄せて小さな、小さな声で言った。
「あ、の…セレン様が甘くて、甘すぎて…私の身が保ちませんわ」と。
3人の反応は三者三様だった。カロリーナ様は扇で口元を隠したが、目元のせいでニヤニヤとしているのがバレバレ。ジニア様はきゃぁ!と黄色い歓声をあげ、興奮冷めず、という感じ。メイフェルは勢いよくテーブルに手をつき、立ち上がって、座って、立ち上がった。
「カートレッタ様は、何と言いましょうか、クララベルに対する愛が重いですからね」
「これぞ溺愛ですわね!あぁ、わくわくいたしますわ!!ふたりきりの時はどのような感じなのですか?」
胸の前で手を組み、キラキラとした瞳でまっすぐ見つめられると、恥ずかしいとは思いつつも話そうと思ってしまう。
「そ、うですね…セレン様は私も腿の上に乗せて話すのがお好きなようですわ」
「それは、クララベルのお部屋で?」
「どちらかというとセレン様のお部屋でしょうか」
こんな、新婚生活の話をしているうちに、予定していた解散時間をゆうに超えたのだった。
「紅茶はストレートが1番、砂糖は十分よ…」
メイフェルがそんなことを呟いていたのは、耳に入らなかった。
ジュリオさんとルードラさんの想い人の話はまたいつかどこかで…




