Sクラスの進路②
「何のお話ですか?クララベル様とルードラくんが2人で話しているのは珍しいですね」
「あら、アドベイラ。ちょっと相談に乗ってもらっていたのよ。アドベイラはもう寮に戻るの?」
「皆さんが帰宅されるのなら私も帰ろうかと思っていますけれど…」
教室に戻ってきたらしいアドベイラは、自席に座って私たちの会話に加わった。セレン様とジュリオさんは先生の手伝いを頼まれて戻ってくるにはまだ時間がかかりそうなんだとか。
「そういえば、アドベイラに渡しておかないといけないものがあるんだったわ」
思い当たる節がないと首をかしげているアドベイラを横目に、かばんからある1枚の書類を取り出す。
「はい、合格おめでとう。春からは正式に立派な教師ね。これからもよろしく」
本来は各合格者の家に届けられる採用通知書。アドベイラに手渡しするのは、私からのちょっとした特別扱いだ。
「…っ!ありがとうございます、クララベル様!!」
アドベイラはこの夏の間に、学校教師の採用試験を受けた。筆記や面接はもちろん、実際に生徒たちへの指導の様子も見て合格を決定した。といっても、採用したのは私ではなく、パマダで学校長をしているキャペルだが。私はかなり多忙を極めているので、基本的な管理・運営は彼女ら各学校長に任せている。
「おめでとうございます、アドベイラさん。良かったですね、長年の夢が叶って」
「はい!ありがとうございます、ルードラくん」
嬉しそうに採用通知書を眺めている彼女の目には涙が光っていた。決して裕福ではない家で生まれ育った彼女の長年の夢が、今この瞬間に叶ったのだ。
「なになに?3人で何を盛り上がっているの?」
「来春からクララベル様の学校で働かせていただけることになったんです!」
「えっ、本当に!?やったね、アドベイラ!!」
「ようやく決まったんだ、おめでとう」
連れ立って教室に入って来たジュリオさんとセレン様。2人はアドベイラを祝福し、ジュリオさんに至っては彼女の手を握ってぶんぶんと上下に振っている。アドベイラはいきなり手を握られて顔を赤くしているが、それはきっと照れているからなのだろう。はたから見れば完全に恋する乙女の表情だ。それに気がついていないのは、この場にいる5人のうち本人とジュリオさんだけ。
ジュリオさんの熱烈な祝福とアドベイラの赤面がおさまった頃、私はジュリオさんに別件を切り出した。彼の就職先についてだ。
「ジュリオさんも王宮文官の採用試験を受けるとルードラさんから聞いたのですが、本当ですか?」
「えっ、あ、はい。…も、ということはまさかロザリンド様も受けられるのですか!?」
ジュリオさんは目の玉が飛び出てしまいそうな程に目を見開いて問う。今日はいつにも増して表情豊かだ。
「はい、そのつもりにしています。それで、ジュリオさんと一緒にグループディスカッションの練習ができたらな、と思っているのですが…」
「もちろんです。僕も練習しておかないと、と思ってはいたのですが、相手がいなくって。ロザリンド様相手なら最高の練習になりますね!」
グっ!と親指を立てているジュリオさんだが、彼の人好きする性格なら練習など必要ないのかもしれない。それはどうでしょうか…と苦笑した私は、よろしくお願いします、と彼の笑顔に応えた。
「練習なら人数が多い方が良いでしょう。僕も参加します」
「それなら私も。就職先が決まったので時間はたっぷりありますよ」
「じゃあ、僕も微力ながら協力させていただきます」
強力な助っ人のセレン様、アドベイラ、そしてルードラさんが加わって、試験対策チームが結成されたのだ。特にセレン様は騎士団の採用試験が迫っているのでお忙しいはずなのに、仲間はずれは許しませんよ、とでも言いたげな笑顔を向けられたら何も言えなくなる。
「まずはグループディスカッションの基礎から説明していきますね」
「はい、先生!よろしくお願いします!!」
「その先生というのはやめてください」
Sクラス恒例のジュリオさんとルードラさんの掛け合いを交えながら練習は進み、日は傾いていった。
「お父様から話は聞いたわ。文宮試験を受けるんですってね」
「「えっ!?」」
私が王女殿下のお言葉に答えるより先に、ジニア様とメイフェルが声を上げた。メイフェルはテーブルに手をついて立ち上がったので、殿下に座りなさいと注意されている。
「はい、そうです。試験に向けて、鋭意勉強中ですわ」
「そうなの、良い知らせが聞けることを楽しみにしているわね」
「ありがとうございます」
私と王女殿下の間で穏やかな空気が流れている中、他の2人は顔を見合わせて、状況を飲み込めずにいる。
「クララベル様、どういうことですの!?」
「文官試験って、ご結婚なさるのでは!?」
私は1つ1つ、2人の疑問に答えていった。王宮文官を目指していること、セレン様との入籍は私の誕生日を迎えたらする予定にしていること、婚姻の儀は2人が落ち着いてから行うことなど。全てを話し終わるまで、2人は何も言わなかった。
「…つまり、クララベル様は王国史上初の女性文官になられる、ということですね!」
「合格すればの話ですが、そういうことになりますね」
「さすがクララベル様ですわ。私には到底無理ですもの。幻の天才令嬢様は格が違います!」
ジニア様は両手を組んでこちらを見ているが、幻の天才令嬢という呼び名は何となく恥ずかしいので止めて欲しい。言っても無駄なのは私自身が1番よく分かっているが。
「クララベル嬢が試験に合格して王宮文官になったら、世の中は大きく変わるわ。楽しみね」
王女殿下は「ふふふっ」と笑って口元を扇で隠した。




