説得
王宮の一室に集まった8人の貴人。上座から国王陛下、王妃殿下、お祖父様、お義父様、お義母様、お父様、お母様、そしてセレン様。そんな方々の前に立ち、私は説得を試みようとしていた。
「本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。しばしお時間をいただきまして、私の今後に関してお話しさせていただきたいと思います」
左手に資料を抱え、右手で軽くドレスをつまみ礼をする。今日、この場で全員を納得させることができなければ、夢を追うことは難しくなってしまう。この夏が過ぎて、王宮文官の採用試験が終わってしまえば、時期的にも他の職を探すのはほぼ不可能となる。セレン様との結婚式も控えていて忙しくなるだろうから。
これから自分がどうしたいのか、どうすべきなのか説明していく。
貴族令嬢として、次期侯爵夫人として目立ちたくないのなら、外で職を持つべきではないとわかっていること、王宮文官がいかに忙しい仕事なのか理解しているということ。それでも目指したいのだという強い意志があること。
「どうか、お許しいただけないでしょうか。イバラの道だということは分かっています。でも、どうしてもこの夢を諦めることなど出来ないのです。お願いしますっ!」
両手で資料を抱えて、深々と頭を下げた。部屋に、長い沈黙が流れる。
「クララベル、頭を上げなさい」
初めて聞いた、お父様の低く厳しい声。恐る恐る頭を上げた。
「覚悟は、出来ているんだな?」
以前、セレン様にも同じことを聞かれた。お父様は、社交界で揶揄される覚悟、自分の意図しない方向性で目立つ覚悟、周りに迷惑をかけてまで夢を追いかける覚悟があるのか、と聞いているのだ。
正直怖い。でも、私にはセレン様をはじめとしたたくさんの味方がいる。私の内面を見て親しくしてくれる人達がいるのだ。だから大丈夫。私は1人じゃないから戦える。
「はい、もちろんです」
「…分かった、許可しよう」
「っ!ありがとうございます!」
「ただし!この場にいる全員の許可が得られたらの話だ」
国王夫妻とお祖父様、お父様、お母様、セレン様の許可は得ている。あとはお義父様とお義母様だ。セレン様からは、特に反対されなかったと聞いていたが、直接賛否を伺ったことは無い。
「私たちはもちろん賛成だ。むしろクララベル嬢が進んで王宮文官を目指してくれるというのなら、こちらとしてはありがたい限りだからな」
「私は勧めた側の人間だからな。可愛い孫が頑張ると言っているのだから、反対する理由などないよ」
国王夫妻とお祖父様は笑顔を浮かべてそう答えてくださった。残るはカートレッタ侯爵夫妻だけだ。
少し不安に思っているのが顔に出ていたのだろう。お義父様が私の顔を見てニコッと笑い、発言した。
「私たちも賛成します。何かと障害は多いかもしれませんが、彼女なら乗り越えられると信じています。目標のために頑張る姿を見てきましたから」
「それに、私は彼女を助けるためなら何も躊躇うことなどありません。それがたとえ社交界全体を敵に回すことだったとしても」
お義父様とセレン様の言葉は、私の心にじんわりと染みて広がった。
お父様は4人の言葉を聞いて、深く頷き、私の目をまっすぐに見つめた。
「これだけの人がクララベルのことを応援してくれているんだ。中途半端なことは許されないぞ」
「えぇ、承知致しておりますわ」
ここまで話が纏まって、国王夫妻とお祖父様には退席頂いた。お忙しい御三方の時間をこれ以上長々と頂戴する訳にはいかない。
「全く、ララの行動力には驚かされるよ。国王陛下とアイドクレース公爵閣下の御前で反対など出来るはずがないとわかった上で集めているのだからタチが悪い」
若干の恨めしげな視線を送ってきたお父様には苦笑いを返しておく。こうでもしなければお父様は認めてくれなかっただろう。だから私も少々強引な手を使ったのだ。
「まぁまぁ、子供というものはいつの間にか成長しているものですよ。特にクララベル嬢は幻の天才令嬢、なんて呼ばれているんですから、これぐらいは造作もないでしょう」
「買い被りすぎですわ、お義父様。ただ、御三方にも聞いていただくべきだと思ったまでですから」
それから私たち5人は、両家の今後について話し合った。私とセレン様の結婚はいつにするのか、もしも私が文官試験に落ちたらどうするのか、など。主にご迷惑をおかけするのは侯爵家側の準備に対してなので、お義母様の意見を中心に議論していった。1時間程度の話し合いで決まったのは以下の内容だ。
・入籍は私が16歳の誕生日を迎えた時に行う
・婚姻の儀は私の進路が確定し、2人の生活が安定してから行う
・私が文官試験に落ちた場合は、カートレッタ侯爵家の若奥様としての勉強を行う
婚姻の儀をする前に入籍をするのは、セレン様の強い希望ゆえだ。私は落ち着いてからでもいいのではないか、と提案したが、セレン様は猛反対した。早く籍を入れて、私の周りにいる男たちを牽制したいのだとか。そんなことをしなくても、私に声をかけてくる人はほとんどいないし、私がセレン様以外の誰かに靡くことなど絶対にないのに。
「入籍をしてしまえば、さすがの王家も横から掻っ攫うなんて真似はできないはずですからね…」
黒い笑顔を浮かべたセレン様がぼそっとこぼしていたのは後日の話だ。




