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【完結】ネガティブ令嬢、今世こそ自分を愛します!  作者: らしか
第3章

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有名人

アカデミーは夏の長期休暇に入った。ほぼ日本のシステムと同じで、約1ヵ月の休みだ。過ごし方は人それぞれだが、学生寮に入っている生徒の多くは、地元に帰省する。Sクラスの3人も例に漏れず、それぞれ寮を出ていった。しばしの別れだ。アドベイラとは、パマダの学校で会うことになるだろうが。


高等部に所属している貴族たちにとって、夏休みほど忙しい時期はない。中等部でアカデミーを卒業した人たちとは踏んだ社交の場数が大きく異なる。そのため、交友関係を広げようとほぼ毎日社交に励む。そんなことをしなくとも、良くも悪くも知名度が高い私とセレン様、社交嫌いのメイフェルはいつも通りだ。


「お嬢様、長期休暇とはいえリラックスしすぎですよ」

初日の今日、ずっと働き詰めで疲れている体を休めていた姿を侍女に咎められた。ソファの背もたれに体を預けて脱力するのはやりすぎか、と姿勢を正す。かわいい弟のシェルファに、最近働きすぎだから今日は仕事禁止と言われたので、私の執務机の上には1枚たりとも書類がない。そうなると当然のように暇を持て余すわけで。


「シェルファ、久しぶりに私とお出かけしない?」

「いいよ…って、そんなに久しぶりでもないと思うんだけどなぁ」

ブラコンを自覚、自称している私に言わせれば、1ヵ月空いたら久しぶりなのだ。中等部4年生になり、ぐっと背も伸びたシェルファだが、お母様譲りの可愛らしい顔は変わっていない。無意識に手を伸ばして金髪を撫でると「子ども扱いしないで」と軽く睨まれてしまった。



私とシェルファの外出はいつも突然決行されるので、今日のように行き先は決まっていないことの方が多い。ロザリンド伯爵邸を出てしばらく歩くと王都で1番栄えているメインストリートに辿り着くので、いつもこの辺りを見て回るのだ。貴族、しかも男性が街を歩いて買い物をするのは珍しいが、シェルファは幼い頃から特に疑問を示さず付き合ってくれている。彼は私と違ってかなりの天才肌気質なので同級生からは近寄りがたいと思われているらしいが、こういった一面を見せればさぞモテることだろうに。5歳で婚約が決まった私に対して、シェルファは11歳となった今でも婚約者が決まっていない。


「今回の縁談も断ったって聞いたわよ。結婚願望がないわけではないのでしょう?」

「もちろん。父上と母上を見て憧れてはいるんだけどなぁ。姉様が理想的すぎて、他の女性に魅力を感じられないのかも?」

「またそんなことを言って。私はシェルファが思っているほど出来た人間じゃないわ」

「まぁ、そういうことにしておくよ」

微妙に不服そうなシェルファを横目に、以前アドベイラと一緒に来たことがある雑貨屋に立ち寄った。小鳥と花束の装飾が施されたティーカップを購入し、ついでに紅茶を売っているお店にも向かう。私が好んで飲むものと、セレン様が好んで飲むものの両方を購入した。


歩き疲れたので近くにあったカフェに入ると、お店の中がザワっと一瞬騒がしくなったので何事だと首を傾げた。しかし、シェルファは気にした様子もないので私も気にしないことにした。席に着いた私たちはメニュー表を見ていたのだが、ちらちらとこちらを伺うような視線を背に感じてこそっとシェルファに尋ねた。


「ねぇ、シェルファ。視線を感じるのだけれど、何か変なことでもしてしまったかしら?」

「…姉様の容姿が人目を集めているだけじゃない?」

「シェルファの方じゃなくて?」

「それも少しくらいはあるかもね」

前世の中世ヨーロッパでは男性向けとして普及していたらしいキャノチエ、日本で言うところのカンカン帽を被ってはいるものの、銀髪を隠せるほどではない。お忍びでもないので気にしていなかったのだが。


「やはり銀髪は目立つのね…」

「そういうことじゃないんだよねぇー」

やはり、お父様の金髪を受け継いでいるシェルファと比べて、お母様の銀髪を受け継いでいる私の方が視線を集めてしまう。


「お待たせいたしました、本日のおすすめケーキセットでございます。以上でご注文の品はお揃いでしょうか?」

「はい、ありがとうございます」

「どうぞごゆっくりお楽しみください」

2人分のケーキセットを持ってきた店員は、丁寧に礼をして下がっていった。目の前に並べられたのは、アールグレイと綺麗にコーティングされたザッハトルテ。伯爵家の料理人やセレン様が作ってくださるスイーツももちろん美味しいのだが、たまに市井のものを食べたくなる時があるのだ。

フォークで一口サイズに切って口に含む。甘さ控えめでビター寄りのチョコレートを使っているらしく、アプリコットジャムの酸味と良いバランスだ。


「姉様が結婚したら、こうやって出かけることもできなくなるんだよね…」

いきなりそんなことを言い出したシェルファの顔は、寂しそうに曇っている。確かに、カートレッタ侯爵家の若奥様が王都を歩くなんて許されると思えない。馬車を使うか、すぐ近くに護衛をつけるならまだしも。


「そうね…私の身に何かあったら、たくさんの人にご迷惑をおかけすることになるから」

「残念だけど仕方がないね。姉様が結婚するまでにしたいこと全部しておかないと」

こういうふうに言うところはまだまだ子どもなのだ。なにも会えなくなるわけではないので、そこまで意気込む必要はない気もするが、可愛いので黙って眺めておくことにした。

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