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【完結】ネガティブ令嬢、今世こそ自分を愛します!  作者: らしか
第3章

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覚悟

3ヵ月前、私たちは高等部4年生になった。あと1年で卒業ということもあり、研究や授業は大詰め。

すでに進路を定めている人たちは、そこに向けて準備を進めている。高等部の8割は貴族の男子なので、ほとんどは騎士団か王宮文官あたりだが。そろそろ自分も進路を決めなければいけないと分かってはいるのだが、この悩みを周りにうち明けるわけにもいかず、長い間決まらないままだ。


決して、セレン様との結婚を渋っているわけではない。むしろ、想い合った相手と結婚できるのだから、この上なく嬉しいことだ。それならなぜ、こんなに悩んでいるのか。それは恐らく、私が転生者であることに由来している。

日本では、男女関係なく、ほとんどの人が何かしらの職に就いていた。だから自分も、という思考はいたって正常だと思う。でも、この世界では、貴族令嬢としては異常だ。貴族令嬢の役割は、実家と婚家に利益をもたらすことで、それが幸せだとされているから。その全てを否定するつもりはさらさらないが、それだけではないと思うことも許してほしいと考えてしまう。


だからといって、何か就きたい職があるわけでもない。そもそも侯爵夫人として生活しながら職に就くのは難しい。何より前例がない。恐らく、高等部への進学を許可してくれたお父様でさえ、反対する。



きっと、そんなふうに悩んでいるのに気づかれたのだろう。夏の長期休暇中である今日、とうとうセレン様は私を問いつめた。何に悩んでいるのか、と。

どう説明しようか、大いに頭を悩ませる。当の本人に、卒業した後に花嫁修行をする道でいいのか、だなんて簡単に相談できるはずがない。


「えぇと…そうですね。卒業後の進路について、少し悩んでいるのです」

「我が家で花嫁修行をすることになっていたよね。…もしかして、嫌になったの?」

セレン様は不安そうな顔をして私の顔を覗き込んできた。


「いえ!決してそういうわけではありません。ただ、このモヤモヤとした気持ちのまま花嫁修行に入るのは、指導してくださる方々に失礼だと、そう思うのです」


緊張を解くようにほっと息を吐いたセレン様は、私の手を握って言う。

「家の方針は関係なく、僕はララの意思を尊重したい。本当はどうしたいの?」


それから、私の部屋には長い長い沈黙が流れた。急かされるでもなく、ただ頭を回す時間が経って、ようやく意思が固まった。

深呼吸をして心を整えた私は、セレン様の瞳をまっすぐに見つめる。

「…私は、どこかで職に就きたいと思っています。侯爵夫人として生活しながら職を持つのは決して簡単なことではないことも、貴族令嬢の選択として間違っているということもよく分かっています。それでも、許されるのなら挑戦したいと思ってしまう自分がいるのです」


セレン様は目を見開いて予想外だった、という顔をした。驚くのも無理はない。でもどうか、拒絶はしないで欲しい。

そんな思いが影響したのか、握る手に力が入っていたらしい。

「ララの気持ちはよく分かったよ。正直に話してくれてありがとう。そうだな…僕の考えとしては、ララが何かの職に就くことに反対はしない。むしろ、豊かに生きられるのならそれが1番だと思う。でも、世間はそう甘くないのはララもよく分かっているよね。ララの考えに賛同できない人達だっている。時には心無い言葉をかけられることだってあるかもしれない。一緒にいられない時間も増えるだろうからね」


そこまで一気に話したセレン様は少し間を置き、真剣な顔をして続けた。


「それでも、その道に進む覚悟はある?」


周りと違う、ということは、よくも悪くも目立つのだ。人は異端を排除したいと考える。異端者の考えを理解し受け入れるよりも、目の入らない所へ消し去ってしまった方が楽だから。残念ながら、これが社会の(ことわり)だ。歴史もそう語っている。

かつての私だって排除された側の人間だった。声が変だと言われ、人見知りをして競争心がない異端としていじめの対象になった。1度痛い目を見たはずなのだ。今回も傷つく結果になることは目に見えている。

それでも挑戦するのか、セレン様はそういうことを聞いている。


「私はこの世界に来て、優しくしてくれる家族や友達、そしてセレンに出会って変わりました。もう傷つけられても、消えたくなったり死にたくなったりはしません。私には、自分以上に私を愛してくれる人たちがいるから。私は今世こそ、自分を愛して幸せになると決めたのです。だから、覚悟はできています」


「そっ、か。そうなんだね…ララも強くなったんだね」

「大切にしてくれるセレンのおかげですよ」


セレン様は、嬉しそうな、でもどこか寂しそうな顔をした。見つめ合っていた私たちはどちらからともなく、固いハグを交わした。



「このことは、僕の口から両親に伝えておくよ。もしかしたらララから説明を聞きたいと言われるかもしれないから、その時は応じてね」

「もちろんです。ありがとうございます」

セレン様は理解を示してくれたわけだが、課題はまだまだ山積みだ。第一、お父様とお母様を説得しなければならない。そして貴族令嬢である私を雇ってくれるところも探さなければならない。

これからまたしばらく、忙しくなりそうだ。

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