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【完結】ネガティブ令嬢、今世こそ自分を愛します!  作者: らしか
第2章

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お別れ

「おはようございます、セレン。昼食の時間になりましたわ。ご気分はいかがですか?」

「…おはよう。久しぶりによく眠れたよ」 


何度か瞬きをしたセレン様はベッドから降りた。

朝食もとらずに寝るよう言ってしまったので、きっとお腹が空いていることだろう。そう思って持ってきたランチセットを掲げて提案した。

「天気も良いことですし、温室でピクニックをしませんか?」と。



伯爵家の庭園は大輪の花々が目立つ、かなり華やかな場所だ。この世界では温度の管理が難しいとされる温室も完備しており、季節を問わず多くの種類の花が咲き誇っている。これらは全て女主人であるお母様の指示によって整えられており、その趣味趣向が色濃く反映されている。


この温室はシェルファとささやかなティータイムを過ごしたり、王女殿下、ジニア様、メイフェルを招待してお茶会を開いたりした場所だ。今はガーベラやアザレア、チューリップが咲いている。


「セレンと温室に来るのは久しぶりですね。いつも私の部屋かサロンでしたから…」

「確かにそうだね。温室は少し遠いから、せっかくの時間がもったいないって思うことの方が多かったかな」

「そういう理由だったんですね…」

8年越しにまた、新しい事実を知った。


テーブルの上に食器やグラスを並べ、フルーツやサンドイッチを盛り付けていく。本来はサンドイッチという食べ物自体が庶民食なのだが、私たちはアカデミーのカフェテリアなどで食べ慣れているので、よく好んで食べるのだ。

堅い、前世で言うところのフランスパンのバゲットのようなパンに、レタスやトマト、きゅうりにサラダチキンが挟まれている。私が書類を決裁する合間に食べることが多いので、伯爵家のサンドイッチは絶品。セレン様はたまごサンドがお好きなので、それを食器に乗せた。


すべてが整い、手伝ってくれていたヴェラたち使用人は下がった。

「それでは、お腹も空いたことですしいただきましょうか」

「そうだね、相変わらずとても美味しそうだ」

サンドイッチを手に取って頬張ったセレン様は、「うん、美味しい!」と笑った。私たちの周りを囲むように咲く花のせいか、いつもよりずっとキラキラして見える不思議。


「ララが伯爵邸の中とはいえ、外で食事をしようって言うなんて珍しいね」

「そう、でしょうか?…そうですね、セレンに隠し事も無くなって、すっきりした、というのが大きな理由かもしれませんわ」

「なるほどね、確かに笑顔が増えて、目が合うようになった気がするよ」

自覚がなかったところを指摘されて、少し気恥ずかしいような気もするけれど、良い方向への変化に、心から嬉しく思う。


冬の昼にしては日差しが良く差し込んで春のような温室には、ゆったりとした時間が流れる。他愛もない、ただ私たちの思うままに言葉を交わすだけの時間に、幸せを感じた。ずっと、こんなふうに過ごせたらいいのに。


「そういえば以前、セレンにピアノを披露するという約束をしたことを覚えておられますか?随分と月日が経ってしまいましたが、昼食の後、約束を果たすというのはいかがでしょう?」

「あぁ、覚えているよ、懐かしい。いいね、楽しみだ」



常に扉が開放されているホールの中に鎮座するピアノ。これは、私が7歳の誕生日にお父様とお母様からプレゼントしてもらったものだ。いつも、私の気が向いた時に弾けるように管理されている。

ピアノの椅子に座って、鍵盤蓋を開く。前世と合わせても、誰かの前で演奏を披露するのは初めてなので、鍵盤に置いた指がぷるぷると震える。きっと、どんなに下手な演奏をしても、セレン様は褒めてくれる。でも、自分から聞いて欲しいと言った手前、中途半端なことはできない。これは私にとって、弱い自分と決別をする大切な時間なんだ。


ふっと短く息を吐いて、心を決めた。初めの1音鳴らすとあとはスムーズで、特に意識しなくても弾けてしまう。それほど、何度も繰り返し弾き、聞いた曲なのだ。

私のすぐ隣に立ち、目を閉じて静かに聞いているセレン様は、左手で口元を押さえている。どうしたのだろうか。手は止めず、聞いてみた。


「…ララの演奏は、人に想いを伝えることができるんだ、って思って」

ただそれだけの、短くてシンプルな言葉。それなのになぜか、どんな褒め言葉よりも心の奥深くに沁みて、嬉しいと思った。今の私だけではなく、過去の私もが褒められたような気がした。


途中までしかない曲を弾き終わった私は、振り返ってセレン様の顔を見た。悲しみでも、哀れみでもない。頑張った子どもを褒めるような、そんな顔。

セレン様は私の頭に手を乗せて、優しく撫でた。えらい、えらい、よく頑張ったね、と。



これでこの曲を弾くのは最後。私はもう、鈴白歌音ではなくて、クララベル・ロザリンドなのだから。私の過去は変えられないし、簡単に忘れられるものでもない。当然、かつてのクラスメイトたちを許せたわけでもないし、私のトラウマがなくなったわけでもない。それでも、過去の自分に囚われて、恐怖に支配されるような生き方は辞める。私はララとして、ロザリンド伯爵令嬢として、次期カートレッタ侯爵夫人として生きていかなければならないのだから。

これにて第2章完結です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

かなり精神的に成長したララですが、まだまだこれから大変な人生が待っている予定です。この先も引き続き、よろしくお願いします!


第1章完結時に引き続き、今回もSSを投稿する予定です。ぜひご一読ください。

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