鈍感
セレン様に、私の全てを話した。自分が転生者であること、前世の記憶を持っていること、そして前世で受けたいじめのせいで人と関わるのが苦手だということ。
話し終えた後、セレン様は妙に納得したような表情をしていた。セレン様のことだから、きっと前々から何かに気がついていたのだろう。
セレン様の「これは、僕たち2人だけの秘密にしよう。公表して大事にするべきじゃないね。僕たちには敵も多いのだから」という提案のもと、家族や友達、ヴェラにさえも黙ったままにしておくことになった。罪悪感はあるけれど、公表したところで信じてくれる人ばかりではないだろうし、ただ混乱させる原因になりかねないので仕方がない。今までたった1人で抱えてきた分を、セレン様が支えてくれると言うのだから、それだけで十分だ。
話しているうちに空はすっかり暗くなってしまい、晩餐の時間を過ぎていた。私が目を覚ましたことは外に控えていたセレン様の側近によって伝えられていたらしいが、そっとしておいてくれたみたいだ。
「何か食べられそうなものはある?」
「体に不調は無いのでなんでも食べられます。…それはそうとセレン、もう遅いのでそろそろお屋敷に戻られた方が…」
「こんな日に簡単に離れられるわけないでしょう?僕は大丈夫だから、安心するまでそばにいさせてよ」
セレン様の言葉選びは、いつも私の負担にならないように配慮されている気がする。外野からは色々と言われているけれど、こういう所に彼本来の優しい気質が出ているのだ。
しばらくして部屋に届いたお粥とカットされたりんご。セレン様は、昨日のように食べさせてあげようか?といたずらに笑ったけれど、いたたまれない気持ちになるので丁重にお断りする。残念、と肩を竦めた姿に、心臓がドクンと跳ねた。
結局、セレン様も一緒に私の部屋で軽い夕食をとり、私が再び眠るまで手を握ってくれた。また恐ろしい夢を見たらどうしようと不安になっても、右手に感じるセレン様の温もりのおかげですぐに大丈夫だと安心できる。私にとってのセレン様は、それくらい大きな存在なのだ。
朝、ぼんやりとした視界に映ったのは見慣れた自室の天井。頬をつねったら痛かったので、間違いなく現実だ。眠るまでの間、隣にセレン様がいてくれたおかげか悪い夢は見なかった。
「あっ、おはようララ。起きたんだね」
「せ、セレン様!?」
起き上がってヴェラを呼ぼうと思ったちょうどその時、ガチャリと音を立てて開いた扉の奥から、セレン様が姿を現した。
私の感覚がおかしくなければ、まだ朝食の時間にすらなっていないはずだ。そんな時間にどうしてセレン様が私の部屋に?
「よく眠れた?うなされてはいなかったけれど…」
おそらく、心底不思議そうな顔をしていたのだろう。少し笑ったセレン様は説明してくれた。
昨日の夜、眠りについた私を眺めていたセレン様は、私が悪い夢を見ないか心配になり、一晩中隣で見守ってくれていたらしい。
日頃から日中は様々な仕事に追われて疲れているはずなのに、私のことを思ってここまでしてくれるセレン様には感謝しかない。
「つまり、昨日の朝から寝ていないってことですよね!?」
「大丈夫、今日はララのために1日予定を空けたから」
もちろん感謝はしているが、笑顔で言うことでは無い。睡眠不足は体調不良に直結するのだから。
私は多少強引にセレン様の手を引き、私のベッドに座らせた。
「ありがたいですけど…だめです、ちゃんと寝ないと!今日はお休みなんですよね?それなら1日、ゆっくり休んでください!」
「いや、僕は大丈夫だから…」
「セレン様が大人しく寝ないなら、私も隣で一緒に寝ますからね!?」
私の発言に目を見開いたセレン様は、黙ったまま大人しく布団に入った。
「ララって時々強気になるよね…」
「何か言いました?」
「…なんでもないです」
セレン様が目をつぶったのを横目で確認して、そっと廊下に出る。よく考えたら、まだ起きたまま、ネグリジェの姿だった。
部屋から出ると冷静になって、昨日の夜、寝る前のことを思い出してしまった。私、セレン様と…き、すをした…よね…?
頬や額に触れるキスは幾度となくされてきたけれど、唇は初めてだった。成人するまではしないと思っていたし、それが貴族社会の普通なのに…
ドキドキとうるさい心音をおさめて、ヴェラに身支度を頼んだ。
「ララ様、お顔が少し赤いですが、熱でもあるのですか?」
「へっ、あぁっ、いいえ…大丈夫、なんでもないわよ」
「それならよろしいのですが。カートレッタ様はどちらへ?」
「私の部屋で眠っているわ。静かにドレスルームから服を持ってきてもらえるかしら」
「か、しこまりました…」
珍しく歯切れの悪いヴェラを不思議に思ったが、戻ってきた時にはいつもの調子だったので気にしないことにする。今日は病み上がりということもあり予定もないので、ゆったり過ごすことにしよう。セレン様が目を覚ます、その時まで。




