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【完結】ネガティブ令嬢、今世こそ自分を愛します!  作者: らしか
第2章

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お祖父様

ソファに座るように促されたので、一言断ってから腰を下ろす。本来は私よりも身分が高くて男性であるセレン様が公爵閣下の近くに座るべきなのだが、今日は私の付き添いという形なので私が近くに座った。


「つ、つまらないものですが、お見舞いの品を持参いたしましたので…お口に合うといいのですが」

「気を遣ってもらってすまないね。ありがたくいただこう」

後ろに控えていたヴェラが先ほどの執事長にプリンを手渡したのを横目で確認し、にっこりと笑っておいた。


「クララベル嬢もセレンも忙しいのに悪いね。君たちの叙勲式で騒ぎを起こしてしまって申し訳なく思っているんだよ」

「いえっ!閣下がご無事で何よりでございます」

「そうですよ、ご自分のお体を大切になさってください」

ベスビアナイト王国の元王族であるアイドクレース公爵は、もっと厳しくて怖い方なのかと思っていたけれど、笑顔が優しい方だった。


「それはそうとクララベル嬢、気になっていることがあるのだが聞いてもいいかね?」

「はい、もちろんでございます。何なりと」

閣下は、そうか、と微笑んで続けた。


「王宮の医師に後から話を聞いたところ、クララベル嬢がよくわからない方法で私を助けたと言っていたんだ。彼が言うには、クララベル嬢が手を施してくれなければ手遅れになっていたかもしれないとね。私は意識がなくてよく覚えていないから、どういった方法だったのか教えてもらえないだろうか?」


あの時は咄嗟のことで何も考えず、ただ目の前の閣下を助けることだけに集中していたけれど、この世界には胸骨圧迫による心肺蘇生法なんてものは存在しない。だから、周りにいた貴族の誰かに御身に触れるなと言われたことも、この世界の常識としては間違っていないのだ。

どう説明しようか、としばらく頭を悩ませた結果、何も言い訳が思いつかなかったので、理屈だけ説明して逃げ切ることにした。


「閣下がお倒れになった時、呼吸と脈拍が止まっていました。このままでは閣下の命が危ないと思い、私が閣下の心臓を外から圧迫することで脈拍を取り戻そうとした、というわけでございます。緊急時とはいえ、許可を頂かずに閣下の御身に触れてしまい、大変申し訳ございませんでした…」


どうか、私がどうしてその方法で脈拍が戻ることを知っているのかは追求しないでください…またクラス対抗戦の時のように、東方の書に書いてあったと嘘をつくことになってしまうから。


「…なるほど。私は医学のことはさっぱり分からないが、今こうして元気に生きているのは間違いなくクララベル嬢のおかげということなんだな。謝罪だなんてとんでもない。クララベル嬢は命の恩人だよ。セレンも、ありがとう」

「いえ、私は彼女の手伝いをしたまでですから。礼は彼女にお願いします」


どうやらなんとか逃げ切ったみたいだ。安心してふっと短い息が出る。



「そうだ、クララベル嬢に渡すものがあったんだ。どうか受け取ってほしい」

「閣下から私に、ですか…?」

執事長が数枚の書類を私に手渡してくれた。赤い、アイドクレース公爵家の家紋印が押されたその書類の表紙には、大きな字で「宣誓書」と書かれていた。

状況がまるで飲み込めない私は、表紙をじっと見つめて固まった。


「内容としては、今後、クララベル嬢がアイドクレース公爵家の後ろ盾が必要だと思った時や、力を貸してほしいと思った時に頼ってくれ、というものだね。なに、命を救ってもらったお礼だよ」

つまり、ベスビアナイト王国で国王陛下の次に権力を持つアイドクレース公爵閣下が私に手を貸してくださるということ。これがあればなんでもできてしまうのでは…?


「こ、こんなものはいただけません!私には過剰です…」

「負担に思う必要はないんだ。おじいちゃんに力を借りるくらいの気持ちで頼ってくれたらいいんだよ」

「閣下をおじいちゃんだなんて!ますます受け取れませんっ!」

「ははは!可愛い孫娘ができておじいちゃんは嬉しいぞ」


快活に笑って嬉しそうな閣下を見ていたら、それ以上なにも言えるはずもなく、仕方がないのでありがたく頂戴することにした。ついでに閣下だなんて堅苦しい呼び方はやめて、お祖父様と呼んでほしいと言われたので、渋々了承した。ただの伯爵令嬢である私が、国1番の大貴族で元王族である閣下のことをお祖父様呼ばわりするだなんてあってはならないことなのだけれど、本人の強い希望なのでどうしようもない。


「それではお祖父様、また様子をお伺いにきますね。どうぞ、お体に気をつけてお過ごしください」

「あぁ、ありがとう。クララベル嬢も、セレンも、気をつけて帰るんだよ」

「はい、失礼致します」



公爵邸の応接室を出て、乗り慣れたカートレッタ侯爵家の馬車に乗り込んでようやく、緊張の糸が解けた。なにやらとんでもないことになってしまったが、お元気そうな姿を見られて安心した。

この宣誓書はいつかどうしても必要になるその時まで、厳重に保管しておくことにしよう。この紙切れ1枚で国が大変なことになる可能性だってあるのだ。そんな恐ろしいものを易々と置いておけるはずがない。もちろん、私が悪用する気は全くないのだが。

ララの実のお祖父様は既に両者ともに他界しています。

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