友人
宴もたけなわだが、そろそろお開きの時間だ。あと30分もすれば学生寮の施錠時間になってしまう。この時間を過ぎてしまうと、学生寮の門と建物の扉が施錠される。もしも事前に申請をせずに遅れて締め出されてしまった場合、当直の先生のところへ行って事情を話し、鍵を開けてもらう必要がある。この際、遅れた理由によっては反省文を書かされることもある。
今日は急遽開催された会なので、申請を出していない。だから、何としても施錠時間までに3人を学生寮に帰さなくてはならないのだ。
「食器類は私たちが返却しておきます。3人は早く寮へ戻ってください」
「すみません、お2人にこんなことをお願いしてしまって…」
アドベイラは心底申し訳ないという顔をして謝ったが、ただトレーの上に重ねた食器をカフェテリアまで運ぶだけなのでそんなに気にしないで欲しい。セレン様だって、これくらいは何とも思っていないはずだ。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「はい、ありがとうございます」
カフェテリアの食器返却口にトレーを返し、私たちも帰路に着く。ヴェラに声をかけてからここに来たので、すでに馬車が正門の前につけているだろう。
「今日は楽しかったですね。急でしたけど、ジュリオさんの誘いに乗って良かったです」
「そうだね、こんな機会はなかなかないから僕も楽しかったよ」
私たちは、貴族社会特有のお堅い食事会に参加することはあっても、自由に軽食をつまんで飲むような形式の会に参加することはない。どちらかというと平民が親しい人たちと開く食事会の形式だからだ。前世でごく普通の平民として生活していた私はまだしも、セレン様は慣れない空間だったことだろう。でも、セレン様の楽しかったという言葉に嘘偽りはないような気がするので、きっと本当に楽しく過ごすことができたのだ。
おやすみなさい、と挨拶をしてそれぞれの馬車に乗り込む。遅いので伯爵邸まで送ろうかと言われたが、アカデミーから見て侯爵邸と反対方向にある伯爵邸に来てもらうのは流石に申し訳ないので、丁重にお断りした。
「今日は随分とお楽しみになったようですね。お顔の色が明るい気がいたしますわ」
ヴェラの言う通りだ。セレン様に演台へ押しやられた時にはどうなることかと思ったけれど、頑張って良かったと思う。もしもあの時セレン様が質問に答えていたら、こんなふうに達成感を持って打ち上げの会を楽しめなかったはずだから。
叙勲式から1週間、明日はアイドクレース公爵閣下のお屋敷にお見舞いへ伺う予定になっている。今日はセレン様にプリン作りを教わる日なのだが…
「と、いうことで、ただいまより第1回『カートレッタ様にスイーツ作りを教わろうの会』を開会いたします!!司会は私、ジニア・ブランカが務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします!」
「いえーーい!」
私に司会役を任されてテンションが上がっているジニア様と、そのノリに全力で乗っかるルアーラ様。
「今日は何を作るんですか!」
「そうですよね、気になりますよね!?」
さらにそこに加わるメイフェル、アナウンサーかのように進行するジニア様を微笑ましそうに眺める王女殿下とグレシャム様。
ちなみに先生役のセレン様はこの軽くカオスな伯爵邸の調理場を、呆れ顔で眺めている。
「…ララ、どうしてこんなことに?」
「えぇと…王女殿下にお手紙で、アイドクレース公爵閣下へのお見舞いの品はセレン様に教えていただきながら作ろうと思います、とお伝えしたら、ぜひ自分も参加したいと仰りまして…」
「それでどうしてこの人数に?」
「分かりませんわ…セレン様と王女殿下をお迎えしようと車止めで待っていたら、なぜか馬車が次々と入ってきたんです」
セレン様は、なるほど、ララはどちらかというと被害者だったんだね。と言って、仕方がないなという意を込めたであろうため息をついた。
「一緒に作るのは何人ですか?」
手を挙げたのは、司会役のジニア様とルアーラ様、メイフェル。そして意外にもグレシャム様だ。もちろん、そもそもの目的である私も参加する。結局のところ、王女殿下以外はみんな挑戦することにしたらしい。
「それじゃあまず、女性陣は髪を纏めてください。それができたら、手を綺麗に洗ってくださいね」
「「「「はーい!!」」」」
なんだか楽しい会になりそうだ。
「全員準備が整いましたね。今から作業を始めますが、プリン作りは意外と難しいんです。ちゃんと、話を聞いてくださいね!」
「もっちろん!!」「カートレッタ様の邪魔は致しませんわ!」「任せてくれ!」
わちゃわちゃとして始まった「カートレッタ様にスイーツ作りを教わろうの会」だが、思いの外順調に進んだ。この国の貴族の慣習として、「料理などは平民がする仕事だ」というものがあるので、私とセレン様以外は包丁を持つことはおろか、調理場に立つことさえ初めての体験のはずなのに。
本当は、ララとセレンのイチャイチャ会になるはずだったんです…
なんか気づいたらみんな来てました(?)




