お願い
「セレン様っ!どうしていきなり私に振ったのですか!?心臓が止まりそうだったんですからね!」
「ごめんね?でも、ちゃんとやりとげたでしょう?ララならできると思ったから任せたんだよ」
「それは確かに…そうですけどっ!」
研究発表会が無事に終了し、私はセレン様に先ほどの件を詰めていた。結果的になんとかなったけれど、私の心臓がギュッとなって寿命が縮んだ分の責任は取ってもらわないといけない。
「わかった、それならお詫びにララの願いをひとつ叶えよう。僕にできることならなんでもいいよ。それで許してくれないかな?」
「わ、かりました…もうこんなことしないでくださいね?」
「頑張るララは可愛いから約束はできないかも」
セレン様は悪戯をする少年のように笑って私をからかった。ここで強く抗議できないのは相手がセレン様だからだ。仕方がないなぁと思ってしまう。
「それなら早速、セレン様にお願いがありまして…」
首を傾げて続きを促されたので、遠慮なく続ける。
「今週末に、アイドクレース公爵閣下のお見舞いへ行くのですが、何かお見舞いの品にふさわしい物を教えて頂けませんか?私はお見舞いに行ったことがなくて、何を準備すれば良いのか分からないんです」
セレン様はしばらく悩んだあと、そうだ!と何かをひらめいたような表情をする。
「甘さが控え目の、やわらかいプリンはどうかな?ララが8歳の時、お見舞いに作って持って行ったことがあったでしょう?」
そう言われて、今まで忘れていたあの恥ずかしい記憶が蘇った。ララは病人だから、と言われて、プリンがひとつなくなるまで俗に言う「あーん」をやめてもらえなかったのだ。
思い出した瞬間、顔に熱が集まって熱くなる。それを目敏いセレン様が見逃すはずもなく、思い出しちゃった?と笑った。
「た、しかに、病人の胃には優しくて良いかもしれませんね。どこか美味しいお店を探しておきましょうか…」
ヴェラならすぐに良い店を見つけてくれるだろう。そう思ったのだが、セレン様から否定の言葉が入った。
「せっかくなら、ララが作るのはどう?毒味さえしてもらえば、差し入れできると思うよ。それに、ララが作ったものなら公爵様も喜んでくださるんじゃないかな?」
「私の手作り、ですか...私はセレン様ほどスイーツ作りは上手くありませんし。そんな物を閣下にお渡しするだなんて恐れ多いですわ....」
後ろ向きな発言をする私に、セレン様は優しくほほえんで、「公爵様は僕が作ったスイーツを美味しいと言って食べてくださる方だから大丈夫。それでも不安なら、僕も一緒に作ってあげるから」と言ってくれた。何と心強い。セレン様がいれば安心だ。
こうして私たちは、お見舞いに行く前日に伯爵邸でプリンを作って、翌日一緒に公爵邸へ行くことを約束した。
話にひと段落がついてすぐ、教室の扉が大きな音を立てて開いた。こんなふうにこの教室に入ってくるのは1人しかいない。ジュリオさんだ。
「セレン様、ロザリンド様~!せっかくなので皆で打ち上げしませんか!?」
よほど急いで走って来たのか、激しく息切れしている。それでも、わくわく感に満ちた笑顔で私たちを見つめている。
「会場はこのSクラスの教室で、食事と飲み物はカフェテリアで手配済みです。先生にも許可を頂いてきました!!」
もう完全に開催する気しかないジュリオさんを見て、参加しないとは言えない。正直、私も打ち上げという楽しそうな会にわくわくしているのだ。
「いいですよ。家に連絡だけしないといけないですけれど」
「僕も参加させてもらおうかな。楽しそうだし、たまにはこういうのもいいでしょう」
私たちの承諾を得たジョリオさんは、やったー!ありがとうございます!と言って嬉しそうに笑った。
「廊下まで声が響いてましたよ。もう少し落ち着いてください」
ジュリオさんの後ろからひょこっと現れたアドベイラの手には、大皿に盛りつけられた食事が乗ったトレーが握られていた。さらにその後ろには同じようにトレーを持ったルードラさんもいる。
「ごめんごめん、つい、嬉しくって」
こういうムードメーカーのジュリオさんのおかげで、Sクラスにはいつも明るくて楽しい空気が流れている。
アドベイラがもう1度往復しないといけないと言うので、ルードラさんの代わりについて行くことにした。ついでにヴェラとセレン様の従者の方に家への連絡を頼むつもりだ。
「楽しみですね。みんなで頑張ったご褒美ですから、思う存分食べたいです!」
「そうね、今日くらいは目一杯楽しんでも誰にも文句は言われないわ」
普段はお淑やかなアドベイラも嬉しそうなので、釣られて私も笑顔になる。私たちは寝る間も惜しんでこの発表会の準備をしてきたのだ。これぐらいのご褒美なら咎められるはずはない。
ヴェラに言伝をしてから、カフェテリアへ向かう。夕食時なので、学生寮に住んでいる生徒たちで賑わっている。ざっと150人ほどだろうか。
「初めてこの時間のカフェテリアに来たけれど、こんなに人が多いのね…」
「寮生のほとんどはここで食事をとりますからね。わざわざ外出許可を取って街に出るのも面倒ですから」
そんな話をしながら、料理人からトレーを受け取る。アドベイラは人数分の飲み物が乗ったものを、私はカラフルなデザートが乗ったものを手にして、再びSクラスの教室へと戻った。




