手紙と報告書
お昼すぎ、アドベイラの授業が終わるのを待って帰路につき、半日かけて王都まで帰ってきた。もう外は日が落ちて真っ暗だ。普段なら晩餐を終えて湯浴みをしているくらいの時間だろうか。
「2日間、お疲れ様でした。明日はアカデミーもお休みですから、ゆっくり過ごして疲れをとってくださいね」
平民組3人は学生寮へ戻り、セレン様は侯爵家の馬車に乗り換える。私も疲れたのでまっすぐ伯爵邸へ帰ることにしよう。
「おやすみなさいませ、セレン様」
「おやすみ、ララ」
「お疲れ様でございました。有意義な旅になりましたか?」
「ええ、楽しかったわよ。書類は明日確認するから部屋の机に運んでおいてもらえるかしら」
「承知いたしました」
自室に戻って制服を脱ぐと、どっと疲れが襲ってきた。湯浴みをしている間にはもうほとんど意識がなく、気がついたらベッドの上だった。
明日は朝から確認しないといけない手紙や書類がある。早く起きないと…
「おはよう、ヴェラ…もう朝なの?」
「いつもより少し遅いくらいですよ。さぁ、お召し替えしますよ」
ベッドから起き上がって机の上に視線を送ると、想像していた数倍の量の手紙が置かれていた。
手紙のほとんどは社交のお誘いで、たとえいかないとしてもお断りの返信をしなければならないのだ。私が社交界に少しだけ顔を出すようになって4年。社交始めの時期になると毎年のように大量のお誘いが届く。それにしてもこの量は異常だ。
「ヴェラ、全て私宛てなの?」
「もちろんですわ。ララ様が高等部に進学されて親しくしたいとお思いになる方々が増えたのでしょう。旦那様はすでに関わりのある家からのもの以外は全て断っても問題ない、とおっしゃっておられました」
お断りの手紙を認めるだけで今日1日が終わってしまいそうだと静かにため息をついた。
私が社交界に顔を出すのは、王宮で開催される社交始めと社交締めの会、そして王女殿下、ジニア様、メイフェルからの個人的なお誘いがあった時だけだ。故に「幻の元完璧令嬢」などと呼ばれているらしい。これは社交好きのジニア様から聞いただけの話だ。
自分の爵位よりも1つ以上上の家門に社交のお誘いを送ることは失礼に値するため、私の元へ届く手紙はほとんど伯爵家と子爵家からのものだ。たまに「◯◯の時にご一緒した◻︎◻︎男爵家の…」などというものが届くこともあるが。
1通ずつ目を通し、参加する必要があるかどうか判断して仕分ける。それが終わったら、テンプレートをコピーするかのように同じ内容のお断り文を書いていく。
「お誘いありがとうございます。大変申し訳ありませんが、当日は別件のため欠席させていただきます」とだけ記し、間違っても「またお誘いください」などとは書かない。
全てを終えた時にはもう、晩餐の時間になっていた。明日はアカデミーだというのに、課題も終わっていないし体の疲れも取れていない。今日は夜更かしコースだろうか。
「ララ、昨日は随分と早く寝たみたいだね?」
「う、あ、はい…」
セレン様にごまかしは効かない。全てを見抜いた上での発言なのだ。
「ゆっくり過ごして疲れを取るように、と言ったのはララだよ?元々体が強くないんだから、もっと自分を大事にしてよね。また倒れたりしたら怒るよ…」
目を鋭くして覗き込まれると、はい、気をつけます…と言う他なくなる。
3時間分の必修授業を受けたら、残りは研究に使ってもいい時間になった。私たちはSクラスの5人でチームを組んでいるので、研究もそのままHR教室で行う。他のグループは研究専用の教室を借りているみたいだが。
「いやぁ、楽しかったですね!また行きたいです」
「遊びに行ったんじゃないんだけど?」
「そうですよ、ちゃんと報告書をまとめないと公休届出せませんからね!」
みんないつもの調子だ。研究のための視察とはいえ、我が領を楽しんでもらえたのなら良かった。それに、私としてもちょっとした修学旅行みたいで楽しかったのは事実だし、アドベイラの恋バナが聞けたのも嬉しかった。
「とにかく、早く報告書をまとめますよ。ただでさえ学長からプレッシャーをかけられているんですから」
ルードラさんによると、リーダーである彼は学長室に呼ばれ、期待しているぞと言われたそうだ。私も学長に呼び出されたことがあるから分かるが、そのプレッシャーは想像以上だ。
「えっと、視察の目的は『前例の詳細確認』で、日付は…」
「ルードラ、ここは分けて書いたほうがいいんじゃない?」
「確かに」
報告書は男子3人が真剣な表情で記入し始めたのでお任せする。私とアドベイラは学校から持ち帰ってきた資料を種類別にまとめることにした。と言っても大した量でも内容でもないので、ただの雑談タイムになるのだが。
「女子もちゃんと仕事してくださいよ!?」
「「はーい」」
「どの口が言ってるんだか…」
さすがはSクラスというところだろうか、雑談や冗談を言いながらも報告書と資料はまとまった。研究は極めて順調、いいことだ。




