視察②
別邸の各部屋についている湯殿は、源泉から遠いこともあって残念ながら温泉ではない。そのため、温泉に入りたいなら、パマダの街まで降りる必要がある。もう完全に日は落ちていて真っ暗なので、伯爵家の馬車を出して向かうことにした。先触れとして使用人を送ったので、到着すればすぐに入れるだろう。
「ロザリンド様、ありがとうございます!!」
ジュリオさんは嬉しげにお礼を言ってくれたけれど、大したことはしていないので気にしないでほしい。目立たないように、馬車は温泉宿の裏口につけてもらった。私の目立つ銀髪やセレン様の黒髪を見れば、すぐにバレてしまうのだが。
「それじゃあ、また、1時間半後にロビーに集合ということで!」
男子3人を見送り、残った私とアドベイラも個室へ向かう。最初は2人とも別の個室にしようとしたのだが、アドベイラが「もしクララベル様がよろしければ、ご一緒したいです」と言ってくれたので、広めの個室にした。
背中を流し合いっこして、一緒に湯船に浸かる。久しぶりに浸かった温泉は最高で、旅の疲れを癒してくれ、アドベイラとの会話も弾んだ。
「クララベル様、その…少しご相談があるのですが…」
いつもお淑やかでありつつ明るいアドベイラが、こんなふうにためらいながら話すのは珍しい。何事かと思い、続けるよう促す。
「実は、最近気になる人が出来たんです…」
なんと、中等部1年生の頃は恋愛に興味がないと言っていたアドベイラに、気になる人が出来たというビッグニュース。食い付かずにはいられない。
「えっ、本当!?」
「これが恋愛感情なのかわからないのですが…」
温泉のせいか、恋バナのせいか、頬を赤く染めたアドベイラは、視線を泳がせながら答えた。
「ちなみに、相手は誰なのか聞いてもいいのかしら?」
「えっ、と…ジュ、ジュリオくん、です…」
「えぇぇー!?」
おそらくこの世界に来て1番大きな声に、脱衣所で待機していたヴェラが「どうされましたか!?」と心配してくれた。ごめんなさい、なんでもないわ、と伝えて、小声で話を戻す。
「それで、ジュリオってあのジュリオさん?」
「そう、です。まだ本人には言わないでくださいね?ただ、少し気になるというだけなので…」
まさかの告白だったので、私のせいで本人にばれてしまわないように気をつけようと誓った。この世界で初めての友達を応援したい気持ちが膨れ上がるが、我慢だ。
「それで、気になると好きの違いを教えていただきたいなと思ったのですが…」
「うーん、難しいことを聞くわね。私は気がついたらセレン様のことを好きになっていたから、そんなふうに悩んだことはないし…」
「そうですよね、すみません」
なんとか私の力を貸してあげられないだろうか…
「そうだわ、私は分からないけれど、セレン様ならわかるんじゃないかしら。今度2人で会った時に聞いてみるわね」
「そんな、お2人の時間を割いていただくなんて恐れ多いです…」
「大丈夫、バレないように少し聞いてみるだけよ」
渋々頷いたアドベイラを確認してから、どうやってセレン様に聞こうか作戦を練る。案がまとまった頃、ヴェラがそろそろ上がりましょうと声をかけてくれたので、この楽しい時間に終止符を打った。
再びロビーに戻ると、今度はルードラさんがぐったりとした様子だった。一体男湯で何があったのだろうか。小声でセレン様に聞いても、内緒です、心配しなくても大丈夫ですよ、と黒い笑顔で言われたので引き下がるほかない。とても気になるのだが。
「それでは皆様、おやすみなさいませ」
「おやすみなさい!」「おやすみ、ララ」
伯爵邸のロビーで男子3人と別れ、私はアドベイラと一緒に自室へ下がる。本当は、本来の目的である明日の視察のために早く寝るべきなのだが、友達と一緒に一夜を明かすというワクワク感のせいでなかなか寝付けない。アドベイラも私と同じなようで、目をあわせては笑い合っている。
「クララベル様と同じベッドで寝るだなんて、カートレッタ様に恨まれてしまいそうですね…」
「セレン様もアドベイラが私の大切な友達だってご存知だから大丈夫なはずよ?」
「だといいんですけど…」
夜は更け、どちらが先ともなく眠りについた。
一方その頃客間では…(以下セレン目線)
「セレン様、ロザリンド様と同室じゃなくて良かったんですか?」
このジュリオとかいう男は、本当に突拍子もないことを言い出す。思わず飲んでいた紅茶を吹き出すところだったではないか。僕がララと同室?
いくら婚約者とはいえ、未成年の男女が同じ部屋で寝るだなんて、社交界中の噂になってしまうに違いない。ただでさえ僕たちへの風当たりは厳しいのだから、そんな失態を犯すわけがないだろう。
「あ、すみませんでした、お許しください…」
よほど怖い顔をしていたのか、ジュリオが流れるような謝罪をした。別に怒っているわけではないので気にしないが。
「個人的に気になるのですが、セレン様とロザリンド様っていつから恋仲なんですか?中等部に入学したばかりの頃は違いますよね?」
「さすがルードラ。そうですね、私の9歳の誕生日に教えてもらいましたよ」
実際にいつからララが僕のことを慕ってくれていたのかは分からないけれど。
「え、そうなんですか!?もっと前からだと思ってました…」
「なんとなく、お2人の間に流れる空気感が変わったのでそれくらいかなとは思っていましたが」
そこから再び話に火がついた僕たちは、疲れて寝てしまうまでの長い時間を談笑して過ごした。




